設計図のコピー

宇宙人襲来

2200年 宇宙人襲来
2300年 宇宙人と地球人 和解
2400年 宇宙観光局の誕生 
局の職員は、地球観光にきた宇宙人を案内することが義務付けられている。


「お前か、配属されたばかりの新人というのは」
でっぷりと太って肌荒れしている40過ぎのおっさんにぶっきらぼうに言われ、僕は「はい」とだけ答える。
観光局職員配属1日目。
僕には、このおっさんが既に宇宙人のように見えるが、彼は地球人だ。
僕の心の声が聞こえるのか聞こえないのか、おっさんはふふんと鼻を鳴らしながら1枚の紙を僕に渡す。

「早速、ひと仕事。そのお客さんが今日から3日間滞在する。お前案内しろ」

なるほど、この局はスパルタか。
僕は頭の上の紙をひらひらと眺めながら、はぁ、とため息をついた。

「宇宙は、遠いぞ。それだけ肝に銘じとけ」

後ろから、おっさんの声が響いてきた。



観光局ビル内にある「着陸ステーション」に1台の宇宙船が到着する。
僕はマニュアル通り敬礼で出迎えた。
だが、宇宙船から出てきた生き物は、想像を遥かに超えた生き物だった。
体中に茶色い土がくっついていて、パサパサだ。
大きさは人間と同じくらいだが、身体つきはナメクジに似ている。
しかし頭についた大きな目は黒々として、きらきらと星のように光っているのだった。

「はじめマシテ。あなたが担当の人?これからよろしくネ」

声は高い。性別はメスなのかもしれない。
僕はちらっとみただけの宇宙人の経歴書を思い浮かべるが、ほとんど内容を思い出せはしなかった。
宇宙人は、パサパサの身体をずるずると引きずってこちらにやってきて、手を差し出す。

「よろしくネ」
「よろしくお願いします」

その手を握り返すと、しっとりと冷たい感触がした。

それがこの宇宙人との出会いだった。



1日目。観光。


「それで、今日はどこへ行きますか?」
ホテルについて、荷物を一通り置いたところで僕が尋ねると、宇宙人はパット目を輝かせて僕を見上げる。
「ここ、ココ!」
宇宙人が広げて見せたガイドブックには、浅草寺が載っていた。

この年末に、寺とかやばいだろ…。
僕の心配をよそに、宇宙人は飛びはねるかのように身体を上下して
「行く、行くヨー!」
と声をあげてはしゃいでいる。

まぁ、いいか。
その様子をみて、僕は早々に諦めた。

「じゃ、行きましょうー」
宇宙人の話し方を真似して言ってみる。

少しだけ、テンションが上がった。



浅草寺は、想像通りすごい混みようだった。
宇宙人は、人ごみをみて興奮し
「ワー!!!」と駆け出していく。

「ちょっと、ちょっと!危ないです!」

僕が必死で追いかけるも、宇宙人の足は見た目以上に速かった。

人ごみにぶつかって、もみくちゃにされている宇宙人をなんとか連れ戻した時には、宇宙人は身体の土がだいぶ剥がれて一回り小さくなったようにみえた。

僕は久しぶりに肩で息をしている。
こんなに走ったの、いつぶりだろうか。

「大丈夫ですか?」

心配する僕を他所に、宇宙人は、あはははハ!と楽しそうに笑っていた。


頭上の空は、これでもかという位に晴れ渡っていた。




2日目。地球の生活。


翌日は「地球人が普段やっていることがしたい」と宇宙人が言うので、僕は昨夜インターネットでさんざん調べた今話題のデートスポットに行くことにした。
別にデートスポットである必要はなかったのだが、宇宙人の経歴書をみるとやはり彼女はメスであったし、喜ぶかなぁと思ったのだった。

別に僕が彼女と行きたかった訳ではない。
断じて違うぞ。


着いたのは、海が見える大型ショッピングモールだ。

「ワー!!!」

彼女は大興奮してショッピングモールより先に海に直行した。

「ちょっと、ちょっと!危ないです!」

僕は慌てて追いかける。
彼女の星に海は無いようだから良かろうとは思っていたが、予想以上だ。

彼女は迷わず海にダイブし、土がすっかり剥がれて、つるつるした身体があらわになっていた。
土がなくなると、余計にナメクジに似ている。

「恥ずかシイー」

言いながら彼女は大笑いし、ごろんごろんと砂浜を転がって、砂を体に纏った。

天気は今日も快晴である。



数時間後、僕らは映画館で映画を観ていた。

ショッピングモールの中にあるポスターを観て、「コレ、コレ」と彼女がねだったので、僕らは映画を見ることになったのだ。

そこまではいい。

しかし彼女が選んだのはこの冬一の超大作。
僕はすっかり感動して、泣いてしまった。
彼女は途中から、泣いている僕ばかりを観ていた。



「なんで目から水が出テルノ?」

映画が終わると彼女が聞く。

「涙だよ。地球人は、悲しかったり嬉しかったり感動したりすると、涙がでるんだ」

へー、と彼女は感心していた。

「それは何かいいことあるノ?」
「無いよ、特に無い」

僕は鼻をかみながら答える。
そう、涙が出ることによる利益は特に無い。

へー、と彼女はまた感心した。

「地球には、生きるのに必要のないものばかりアルネ」

言いながら、彼女は僕の頬を撫でて、涙を拭いてくれた。


海辺の砂が僕の頬にぺったりと張り付いてくる。
海の匂いに混じって土の匂いが鼻をかすめる。


その匂いは、長くいつまでもそこに居た。



3日目。帰星。


年が明けた1月1日。
再び観光局内の着陸ステーションから、彼女は帰っていく。

「それでは、またのお越しをお待ちしております。」

僕は手の指をピンと揃えて額に当てて、マニュアル通りの敬礼をした。

彼女は笑って、「マタネー」と手を大きく振って飛び立った。


それが彼女と僕の別れだった。


寒くて暗いお正月の夜空に、いくつもの星が流れては消えていく。
流星群だ。
その中に、彼女の宇宙船もあるのだろう。

「お疲れさま」
おっさんが僕の肩を叩く。
「はい」
僕は一言だけ返事をした。

「宇宙は遠いなぁ」

おっさんの言葉が、広い夜空に響いていく。




僕は頬にそっと触れた。
土の匂いがした気がした。





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