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始業式からの逃避行

僕は目の前のパソコンの画面をみつめながら、決心した。
1週間後の始業式の日、僕は初めて学校をサボる。


僕の夢は飛行機のパイロットだ。
小さい頃ハワイに行った時に、初めて空港で飛行機を見てから、小学4年生になった今までずっとだ。
正面から見ると、飛行機は何か巨大な生き物のようだ。
あんなかっこいい生き物を運転できるなんて、パイロットは夢のような仕事だと思う。

僕はパソコンを持っていないけれど、お父さんのパソコンは好きに使っていいことになっている。
そして今日、そのパソコンを使ってインターネットをみてたら、偶然見つけてしまったのだ。
新しい飛行機のお披露目式が近々開催される。
ネットのページに載っている飛行機は、最高にカッコよかった。
これは運命に違いない。
お披露目式の日付は9月1日。始業式の日だ。
始業式はサボろう。
僕はサボるための作戦を考えた。
名付けて、『始業式からの逃避行』。
我ながらいい名前だ。避行と飛行はかけている。


「今日、ナオちゃんち行ってくるから」
次の日僕は、お母さんにそういうと朝から出かけた。
ナオちゃんはお母さんの弟で、僕の叔父さんだ。
お母さんとは10個年が離れていて、おじさんではなくナオちゃんと僕に呼ばせている。
お披露目式に行くためには、1人ではお小遣いが足りないから協力者が必要なのだ。
「えー、それバレたら俺が怒られるじゃん」
ナオちゃんは散々文句を言いながらも、当日車でお披露目式に送ってくれることを約束してくれて、更にもう一つのお願いもきいてくれた。
持つべきものは、理解ある叔父である。

家に帰ると、今度は僕は家のカレンダーを外して捨てた。
代わりに僕が手書きで作ったカレンダーをかける。
カレンダー上、9月1日は金曜日になっている。
でも実際には違う。
本当の9月1日は木曜日だ。
よし、これで準備はバッチリだ。
あとは僕の名演技にかかってる。


「ねぇお父さん、お母さん。新しい飛行機のお披露目式が木曜日にあるんだって。行っていい?」
僕はその夜、皆で夕ご飯を食べてる時に、1枚のチラシをみせた。
チラシにはこう書いてある。
『8月31日木曜日 新型飛行機 お披露目式 』
これが、僕がナオちゃんに頼んだもう一つのお願いだった。
偽物のチラシを作ってもらったのだ。
これでお父さんもお母さんも、8月31日が木曜日であることを信じるだろう。

「あら、こんなのあるの?いいわねぇ」
お母さんはチラシをお父さんに見せながら言った。
「お父さんが連れて行ってやるよ」
お父さんもにこにこと言う。
2人ともすっかり信じているようだ。
僕は用意していた台詞を言った。
「大丈夫。ナオちゃんが連れて行ってくれるって」
お父さんもお母さんも、良かったねぇと頷いた。

後は当日までを、静かにやり過ごすだけだ。
もっとバレるかと思ったけど、意外と大丈夫で、お父さんやお母さんに何か言われることはなかった。
一度だけ、あの話の次の日にお母さんが「あれ?カレンダー変えたの?なんで?」と聞いてきたが、
「夏休みの自由研究で作った」
とだけ答えてさっさとその場を逃げ出した。
遊んで帰ってくると、カレンダーはそのままでお母さんはそれ以上追求してこなかった。
セーフ。


そして、いよいよ9月1日きた。
僕の家では今日は8月31日ということになっている。
うっかりテレビのニュースでバレないように、僕は誰もテレビを付けないよう、朝から細心の注意を払っていた。
うちが新聞をとってないのが幸いだった。

ピンポーン。
チャイムの音がなる。ナオちゃんだ。
「行ってきます!」
僕は振り返らずに飛び出した。
背中から
「頑張ってね〜」
というお父さんとお母さんの声が聞こえた。


待ちに待ったお披露目式。
新しい飛行機に、僕は目を奪われた。
リボンがどこかの偉い人に切られて、僕は思いっきり拍手する。
僕にとっては、これが始業式だ。
絶対パイロットになって、僕はこの飛行機に乗るんだ。



少年が拍手を一生懸命しているのを見ながら、少し離れたところでナオは一本の電話をかけた。
「あ、姉ちゃん?うん。今、あいつお披露目式みてるよ。うん、うん。はい、じゃぁ旦那さんによろしくね」
そして電話を切ると、姉ちゃんいい母親だなぁ、とひとりごちた。


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