プロジェクト失敗はどこから始まる[20240411]
今回は、情シスのプロジェクト屋が何をすべきかについて話したい。
「~すべき」と言っているが、何をお伝えしたいのかご理解はいただけているだろうか?
先般、某大企業の情報システム部長から泣き言を聞かされたことがきっかけだ
「新年度になっても当部署には、新卒はおろか過既卒者でも新規に配属される人員がゼロなのです。配属申請はもちろん出していて、可能な限り若手3人を欲しい。実は現場部署にITに詳しい若手が私の知る限り10人以上もいるので、非公式には彼らの名前を出して人事にお願いをしていたのに、です」
ああ、現場のシャドウITが欲しいと言ったのかと少し悲しくなった。
「部長さん、お気持ちはとても良くわかりますが、恐らく来年も再来年も新規配属があるように思えません。
理由は簡単で、経営は現在の情シスに”人材”という経営リソースを投入したくない程度の価値しか認めていないのです」
「価値って何ですか?私たちは不眠不休で走り回っているのに!」
部長の声は少々荒くなった。
情シス部長を始め、部員の皆さんは一生懸命働いておられる。
私の知る限り情シスには「プロジェクト屋」と「運用屋」しかいないのだが、両方出来る人は部長を始め数人おり、とにかく休みなく働いている。
プロジェクト屋は、プロジェクトの進行を妨げるような課題が出ると全力で片付ける。
例えば、ユーザー部門が定例ミーティングに出席しなくなったら、その部署に赴き担当者とかその直属の上司(概ね課長級)に直談判し更に進捗も報告する。
お抱えのベンダーが技術的課題に直面し「手が止まってしまった」時は、自らがIT市場調査に乗り出し解決方法を見つけ出す。
その為に英語の記事や文献にも目を通すくらい積極的だ。
彼らの頭の中は、プロジェクト屋の仕事とはQCDの達成である。
Q:Quality バグのないシステムであること
C:Cost 予算内であること
D:Delivery 納期に間に合うこと
しかし、経営体は情シスがQCDを最大限意識して様々な工夫と苦労を積み重ねていることを知らないし興味が無いのだ。
では経営体は、プロジェクトの何に興味があるのか?
プロジェクトは、目的・目標・期間・予算などが経営体によって審査・決裁されることから開始される。
QCDは、情シスだけの勝手評価軸でありプロジェクト全体の目的・目標とは関係が無い。
例えば「新規顧客を年間で50%増やそう」プロジェクトがあったとして、ITとしてはSFAを導入する役割を担ったとしよう。
経営体の興味はSFA導入では無い。
しかし情シスはSFA導入にやっきになる。
ユーザー部門は徐々にミーティングに参加しなくなり、要件が定義できなくなるのでシステム開発は遅延する。
「新規顧客を年間で50%増やそう」プロジェクト全体も遅延する。
経営体から見た場合「新規顧客を増やす」ことは絶対的に重大事であるし、何よりも優先したい目標である。
「システム開発が遅延して新規顧客獲得遅延が発生しています」と経営体には連絡が入るだろう。
理由の如何を問わず、悪者は情シスであり経営体から見れば価値を見出すことが出来ないだけでなく、マイナスバリューを発揮しているように見える。
いつしか「新規顧客を年間で50%増やそう」プロジェクトは「SFA導入プロジェクト」と名前を変えられてしまい、そもそもの目標まで見えなくなってしまうのだ。
情シスのプロジェクト屋は自身の価値をQCDにおかず、そもそものプロジェクトの目的・目標にフォーカスして欲しい。
システム開発遅れは問題なのだが、この事例の場合は、SFAを入れなくても顧客は増やすことができるし、SFAを入れたからと言って現場の仕事は変わらないことに気付くべきだ。
SFA導入圧力は、概ね現場から上がってくることはない。
営業管理部とか経営企画部のフォーキャスト集計担当から圧力がかかる。
元々SFAベンダーやITベンダーの口車に乗せられて「出来ます」「出来ます」と聞かされることくらいから始まる悲劇である。
情シスのプロジェクト屋は、SFAを入れろと言われたら「ご注文いただき有り難うございます」の勢いで張り切る。
いやいや、本来の仕事は「プロジェクトにより変化するケーパビリティ」にフォーカスをして欲しいのだ。
機械化による合理化・自動化にしか興味が無ければ「大失敗確定」である。
「要件定義は現場から聞き取りしなければ…」から始まるプロジェクトは危険に満ち満ちている。
現場は現状が正だからだ。
現状が正ならば、目的・目標は如何にして出来上がったのか?
プロジェクト屋は、その真の理由を知らなければならない。
経営体からプロジェクト屋を評価して貰う為には経営者目線での目的・目標に素直に従うことだ。
「それは現場が考えることで!」と怒るプロジェクト屋の顔が浮かぶ。
ITの改変を伴うプロジェクトの場合、経営者からみれば「ITは金食い虫の癖に進捗の邪魔しかしない」と映ってしまう。
現場に寄り添って如何に目的・目標を達成するのかに知恵を絞って欲しい。
なのに、やはり今日もITベンダーさんの記事を読みセミナーに出掛けるのだろうか?
合同会社タッチコア 小西一有
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?