見出し画像

マタタビの実るころ

 夏が終わると、涼風が吹き始め、山は収穫の季節になる。
 とっちゃんは自転車で山の入り口まで行き、駕籠を腰に縛って軍手で山を歩く。熊の危険な季節でもある。フンや痕跡に神経をとがらせる。

 白い葉の陰にマタタビが小さな実を結んでいる。
 もう、それだけで幸せな気分になる。

 この季節に山に入るのは、収穫するためではない、旬を確認するための下見だ。
 それでも、早いものは収穫できるし、危険回避のためにも、道具は大事。
 収穫できる、といっても、とっちゃんは自分が食べるのが第一だから、いいものしかとらない。
 昔(食糧難でもあったし)のようにみんなが山に入るわけではないから、競争もない。友達も、お店で買う菓子の方がいいみたいだ。

 かあさんが、マタタビ酒やコクワ酒を作るし、ぶどうもそうで、ある程度は持って帰る。
 山の物は、修理(傷んだものをよけたり、枝から外したり)がたいへんだし・・・おばさんは喜んでくれても、お嫁さんは大変だ、とこぼしているのを聞いたりするから、あまり人には上げたりしない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?