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ペニー・レイン(2章)

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「ところでカレ、どんな人?」
「何がですか?」
あまねは頬を赤らめ、手に持ったメロンパンを見つめたままぶっきらぼうに答えた。

「ここでは、『ティファニー』なんか着けちゃいけないんじゃありませんこと?」
可織は、薬指に流し目を送りながら言った。

「外した方がいいですか?」
「いいんじゃない、それくらいなら。それに、外したくないでしょ?」
「……はい」
「で、カレは何してる人?」
「広告代理店でコピーライターやってます」
「へぇ、クリエイティブなカレってわけ。『おいしい生活』だっけ?」
「本人は、コピーライターとはいっても、ほとんどがクライアントとの打ち合わせで、キャッチコピーだけを作る仕事なんてないって言ってますけど」
「ふーん、そうなの。名前は?あ、ちなみに下の名前ね」

可織は尋問の天才だった。間髪入れずに繰り出される質問攻めは、心地良いとさえ感じられる。
「『響太』って名前です。響くに太いで」
「あら、名前もまたアーティスティック。性格は?」
「性格は、かなり変というか偏ってるというか」
「どのあたりが?」
「そうですね、例えば、この間お母さんにラムネを食べさせられてる赤ちゃんがいたんですけど、『ありゃプロテインだよ。俺もあんな義務教育受けてたら、今頃タグホイヤーの似合ういかつい手首になれたのに』とか本気で言いますし」
「面白いじゃない」
「あと、いちいち細かいことにつっこみを入れますね。コンタクトのアイシティーのビラ配りは腰が低くて好感持てるけど、本屋の店先とかのキャンペーンで『どうぞ』って配るのは傲慢でいけない、『お願いします』だろ、みたいなことを」

なるほど随分と偏屈なカレのようね、というしたり顔で追い打ちをかける。
「歳はいくつ?馴れ初めは?」
「もういいじゃないですか。休憩時間終わっちゃいますよ?」
「うまく逃げたわね。じゃあ、この続きはあんみつでも食べながら」
「あんみつ、いいですね。次宝物館なんで、そろそろ行ってきます」
「とにかく、今度『みはし』行こうね?」
「ぜひぜひ」

(続く)

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