「相手方弁護士から連絡」を考察する
過日、Xを眺めているとこのようなポストが目に入った。
どうやらまだ開示請求中なのに、どうやって相手方弁護士が連絡してくるのだろう? という疑問のようだ。
甚だ最もな疑問だ。
私も同じように思ったので、その旨をポスト(それ自体は削除済み)すると、このような返信を頂いた。
どうやらここでいう「相手方弁護士」というのは「SNSに所属する弁護士(?)」という事みたいである。
まあ、とにかく弁護士から連絡が来ているみたいだ。
しかもわざわざSNSのと名指ししているわけだから、それは経由プロバイダーではなく、現状はコンテンツプロバイダーへの開示を進めている、と考えるのが自然だろう。
ではまず、一般的な開示請求から訴訟への流れから。
新式と旧式があるが、手続きが一元化されているかどうかの違いで、流れ自体は同じだ(ちなみに新式は手続きが煩雑で弁護士以外まず無理、という難易度らしい)。
1、コンテンツプロバイダーに、相手の特定に繋がる電話、メール、IPやアクセスログを開示してもらう。
2、1で得た情報を元に、経由プロバイダーを特定し、契約者に関する情報を開示してもらう。この過程で開示請求対象者は、意見照会を受けて任意でも開示できる。
3、2で得た契約者情報から、契約者へと内容証明などを送付し、示談か訴訟を選択してもらう。会社からの書き込みなどの場合、書き込み主を特定してもらう。
4、示談不成立、訴えてやる!
といった流れが一般的だろう。
ではこの(コンテンツプロバイダーに居る)相手方弁護士から連絡、という件について考察してみよう。
Xに対して開示請求をかける場合、以下の2つが考えられるだろう。
①「Xに対して任意開示請求する(まず認められない)」
②「裁判所に対して、開示の命令を出して貰う為に申し立てる」
ここでは②は考える必要は無いだろう。
なぜなら②の場合、開示状況を連絡してくるのは『裁判所』だ。
「この書類足りない」とか「追加で証拠出せますか?」とかね。
これを「相手方弁護士より~」なんて表現するのは、よほどのバカじゃなきゃありえないので、②は割愛する。
では①の場合、任意開示なんてほぼ認められないが、それでもやってるという奇特な場合。
⋯⋯ほとんど許可されない任意開示を、わざわざ行い、その進捗情報を発表する意味は甚だ疑問だが、もしかしたら何か意味があるのかも知れない。
なんか彼らは『内容証明を送った!』と騒いでいたようである。
だが、これもおかしい。
ユーザー情報やアクセスログを管理しているのは、X corp(米国カリフォルニア州)だ。
これは裁判を経る場合も変わらない。
情報開示の請求先は、裁判所への申し立てであれ、任意開示であれ、Xcorpの米国本社が相手だ。
ただ海外の企業なので、東京地裁が管轄というだけである。
当然だが、内容証明は海外には送れない。
内容証明が送付できる可能性がある、国内のXcorp関連は以下の2つ。
①Twitter Japan株式会社
詳しい業務は知らないが、おそらく広告の取り扱いがメインだろう。
Xに広告を載せたいならここに問い合わせる、といった感じになるかと思う。
https://www.buffett-code.com/company/apvloiq7eh
上記リンク「バフェット・コード」によると、Twitter Japan株式会社の社員数はおよそ130人。
とても「企業内弁護士」を雇用する規模とは思えないが⋯⋯まあもちろん、顧問弁護士などはいるだろうが、その場合弁護士の所属は各法律事務所のはずだ。
「大手プラットフォーマーに居る弁護士」という表現はいささか乱暴に思える。
彼らにとって「大手プラットフォーマー」は一顧客だろうし、他の仕事も受任するだろう。
ここに任意開示してくれと内容証明を送った所で「開示関連は本社にお願いします。英語話せる? 大丈夫そ?」
っていう返事が来れば御の字で、たぶん無視される公算が高いのではないか? というのが個人的な感想である。
そしておそらくだが、ここが一番「任意開示の請求先」と勘違いされやすそうではある。
だから彼らも対応には慣れているだろう。
万が一返事したとしても、ワザワザ弁護士を名乗る意味がわからないが⋯⋯せいぜい法務部です、くらいじゃないのかな? と思う。
ただもしかしたら少し調べる知能があればここが請求先じゃない、なんてことはすぐに気付くはずなので、もしかしたら珍しいのかも知れない。
まあ「ここじゃないよ」という返事くらいは貰えるかもしれない。
②Xcorp.の日本における代表者となる弁護士
日本におけるXcorp.の代表者となる弁護士は、隼あすか法律事務所の「多田 光毅」氏のようだ。
関連リンク
ただリンク先にもあるように、業務の権限は「日本の裁判所における裁判書類の送達場所としての裁判書類の受領」に限定されている。
ここに「コイツの情報を開示してください!」とお手紙を送ったところで「私にそんな権限ないので、任意開示関連は本社にお願いします。英語話せる? 大丈夫そ?」という返事が貰えれば御の字で、「こんな所にお手紙送ってくるなんて何もわかってない人だな」と無視されそうなものだが⋯⋯。
ただ物珍しさや優しさから、暖かい返事が貰える可能性はある⋯⋯のかも?
そもそもの話。
開示請求の過程では、基本的に「内容証明」なんて不要だ。
なぜなら、任意開示なんて基本的に認められないし、そもそもSNSや、5chなどの掲示板を運営しているそのほとんどが海外企業なので、任意開示を求めた内容証明なんて届かないのである。
なので基本的に東京地裁への申し立てとなるのだが、当たり前だが裁判所への書類提出に、内容証明なんて使う必要は一切ない。
内容証明を使うとしたら、開示が終わった後だろう。
相手を特定してから「あなたに名誉毀損や誹謗中傷に対しての損害賠償を求めて訴訟をします。嫌なら謝罪と賠償を」といった内容を記載した内容証明を送る、というのが普通の手続きでは無いだろうか?
そして開示が終わっているなら「開示手続きが終わってから言うつもりだったんだけどさ!」みたいな報告はしないはずだ。
それはもう、日本語がおかしいってレベルじゃない。
さて。
実は日本語がおかしくて、裁判所にキッチリ申し立てを行っていたとする。
だとしても、開示が終わるのはまだまだ先のはずだ。
通常、相手を特定するのに半年はかかると言われている。
よほど早く進んだとして、年度末やゴールデンウィークを挟んだ事を考えれば遅くとも1月ころには申し立てしてたら今くらい開示されるかも? って感じだと思われる。
つまり、ここ1ヶ月くらいで「内容証明の送付」が有効な訴訟の事前告知を行うとするなら、昨年末には手続きに入っていたはず。
でも、「相手方弁護士から開示の進捗」を聞いている段階なら、まだまだ先みたいですね。
あと「開示請求されているの黙ってるなんて不誠実だ!」とか言ってる人もいるみたいですが。
SNSで開示請求されてる側は、裁判所の開示決定が出るまでは、自分が開示請求されてるかどうかなんて知らないよ。
Xのヘルプにも「法的請求=裁判所からの連絡」があったら通知しますね、って書いてますけども。
まだ「開示状況を相手方弁護士から教えてもらってる」状況なんでしょ?
それって少なくとも『任意開示も裁判所の決定も出てない=相手は知りようがない状況』って事なんでしょう?
知らなきゃ言えないんだから、不誠実もクソもないでしょうに。
さて、私としては今回の騒ぎは
[風船爆弾(不発弾だが、本人達は爆発すると信じてる)を飛ばした人とその仲間が、「あいつら今頃慌ててるだろうな!」とキャッキャ、ウフフと騒いでいる]
といった印象である。
ただ私はど素人なので、もしかしたら『開示請求の途中で、内容証明が有効になり、相手方弁護士から開示の状況を知らせてもらうウルトラC的な方法』があるのかもしれない。
なのでそんな方がこのNoteを万が一読んでしまったら⋯⋯。
「実務をなんにも知らない奴が書いたnoteを読んで朝から腹を抱えて笑ってる。まあその時が来たらわかりますよ(笑)(冷笑したいだけで、具体的な間違いの指摘はしてくれない)」
みたいな感想を抱くかもしれませんね。
まあ、素人だから大目に見てね。
もしかしたらそんなウルトラCを駆使して
「誹謗中傷していた相手から、慰謝料が振り込まれました」
と、謎の振り込み写真が発表されたり、相手の謝罪文と称した怪文書が御披露目されたりするかもそれませんね。
とにかく、開示請求ってのは「個人を特定し、訴訟に必要な情報を手に入れる」ためなので、複数やってるのであれば、1、2件は訴訟があるでしょう。
数ヶ月経っても音沙汰なければ、逆に「開示請求してると嘘をついて相手を黙らせようとした」みたいな評価が下され、ますます「本当に詐欺集団的なのか⋯⋯?」と不安に思う方もいるかも、なんてのはわかった上でやってると思います。
なので我々野次馬は、誰が訴訟されるのかちょっとワクワクしながら観客席で待ちましょう。
今開示請求中という事は、半年以内には動きがあるでしょうし。
⋯⋯あるよね?
ではではー。
※5月18日追記
経由プロバイダーだけでなく、コンテンツプロバイダーも意見照会書を送るみたいです。
意見照会書が届くタイミングは二回になります。
訂正してお詫び致します。
Xの場合、裁判所に発信者情報開示命令申し立てがあると送るみたいです。
また開示請求前に、アクセスログを保全するための仮処分が決定させると、該当アカウントに通知がくるようです。