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偏食指導について


知的障がいのある子どもたちの通う支援学校の先生になって、9年目になりました。

子どもたちの中には偏食のある子たちがいます。
おかずは全てNGで、白ごはんしか食べない子。
カリカリのものは食べるけど汁物はNGな子。
飲み物はカルピスしか飲まない子。
本当にいろいろ。



「偏食は改善していこう」みたいな風潮は
支援学校において結構あると思ってます。

私も初任の頃からずっとそう思っていて。
今でもなんとなくそう思っているのだけど。
でも、少しずつ自分の中の思いが
ちょっと揺らいできていて、
いろいろ考えることが多いです。
なのでその揺らぎを書き残しておこうと。
正解か不正解かは、まだ分からないけれど。


先に言っておくと、私は結局
『偏食指導は、アリ』派なんだと思う。


これまで出会ってきた子どもたちのパターンを
3つほど紹介させてもらいます。
(個人情報のため、名前などフィクションあり)


1.かずくんの場合

小学校1.2年生と担任を持ちました。
かずくんが食べられるものは、
「鶏肉」「パン」「リンゴジュース」のみ。
リンゴジュースは決まった種類のものしか飲まないから
外出する時は、リンゴジュースをかばんに
たくさんたくさん詰めている、とお母さん。

もちろん給食は全拒否。

彼のステップを細かく示すと
①給食を食べる空間に一緒にいる
②友だちが給食を食べてるのを見る
③食材を触ってみる
④唇につけてみる
⑤ひとなめする
⑥1mmくらいのものを口に入れる
⑦少しずつかたまりを大きくしていく
⑧種類を増やしていく



はじめはもう、それはもう、かずくんは
こちらも苦しくなるくらい、抵抗していました。
言葉で「いやだ」って伝えられないから。
先生の髪の毛を引っ張ったり、
ぎゃーーーって叫んだりして、
彼なりに全力で抵抗していました。


でも、続けました。
虐待って言われるんでしょうか。


全てのステップにおいて、
できたらめちゃくちゃ褒める。
時には彼の大好きなプールの目の前で食べて、
一口食べたらプールに一緒に飛び込んだこともあります。

そして2学期には、少しずつ変わってきました。
食べる。褒められる。嬉しい。食べる。

これで、かずくんは3年生になるころには、
なんと給食を全部食べられるようになりました。
水筒の中身もリンゴジュースからお茶になりました。
給食、おかわりまでしちゃいます。


お母さん、お出かけに困らなくなったと。
逆に太ってきてどうしましょう、と。


それが、かずくんのパターン。


2.ちーちゃんの場合

ちーちゃんは、かずくんよりは
食べられるものが多い子でした。
彼の担任を持ったのは2年生と4年生。

お母さんからも
「食べられるものを増やしてほしい」
と言われていたので、
2年生では、苦手なものを食べたら
好きな食べ物を食べられるご褒美システムを続けて、
苦手なものを食べられる量がずいぶん増えました。
お母さんもめっちゃ喜んでました。



しかし4年生のある時、
「学校の用意するの嫌がってる」と。
家で、学校の予定表の給食にバツをつけてると。

これは、と言うことでお母さんと相談して、
一旦苦手なものを食べるのはもう1口だけにして、
あとは好きなものを食べるようにしました。

すると、好きなものをおかわりする時間ができた。
嬉しそうに「おかわりください」のカードを
隣の担任に渡すちーちゃん。

ちーちゃんはこの後、好きなものはいっぱい、
苦手なものは自分が食べられるだけ食べる、
という形で続けていくこととなりました。

本人ものびのび、ときどき学校はいやーと
言いつつ来たらご機嫌で変わらず過ごしています。
これがちーちゃん。


3.こうちゃんの場合

家では好きなものだけ食べてきたこうちゃん。
彼は1年生で担任をしました。
もちろん給食なんて1口も食べない。
そのまま4月、5月、6月...。


こうちゃんのお母さんは、
「どうして合理的配慮の世の中で、
給食はその子に合わせられないんですか?」と
おっしゃっていて。

たしかにそうだなぁと思った。
視覚支援はする。
個別に応じた配慮もする。
でもなぜか給食だけはみんな同じ。

ただ私たちは学校の制度までは変えられず...。

しかしある6月の日、
セルフハンバーガーが給食に出ました。
何気なしに「マークドナールドー♪」
なんて言いながらパンの袋に
マクドナルドのMをでっかくペンで描くと、

「はんばーがー。まくどなるど」なんて言いながら
パクリ。ペロリ。全部。

これをきっかけに、
時には遊具の上で、
時には本棚の上で、
時には机の上に立って、(笑)
一口何かが食べられるようになってきました。

2年生になって担任が変わり、
担任の先生が大量のスプーンを用意してくれ、
終わりが分かりやすいように
全ての食材をスプーンに乗せて、
「あと○口!」のシステムを作ってくれました。

1年の終わりにはなんと
給食を完食できるようになりました。


今ではもう何も困らずぺろりと食べています。
時々苦手なものは「へらしてくださぁい」と
伝えてくれるので、減らしています。

そんなこうちゃん。


最後に

私には子どもがいないので、
保護者の皆さんの気持ちがわからない。

私には偏食や感覚過敏がないので、
子どもたちの気持ちがわからない。

今の世の中いろんなものがあるのだから
無理して食べなくてもいいのかなーって
そんな思いも芽生えています。

けど、偏食を乗り越えて
美味しそうにいろんなもの食べている子たちを見ると、
「よかったのかも」って思うことが多くて。

だから私は偏食指導アリ派なのです。

食事って、好き嫌いが分かりやすいんですよね。

その嫌いを乗り越えることって、
食事だけでなくて
いろんな世界を受け入れていく
第一歩なんじゃないかなって、そう思うんです。

今日も、みそしる一口食べた子どもを
頭わしゃわしゃと大絶賛してきました。


皆様、どうお考えでしょう。

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