映画『コット、はじまりの夏』感想

大切に慈しむということ

 アイルランドの田舎を舞台にした、静かな作品だった。親戚の家に預けられる少女と、預かっている夫婦のひと夏の交流を描いているが、この三人が交わす言葉は少ない。彼らは、大切な思いを表情と動作で伝えている。
 預かった子供を最初にお風呂に入れた時の、手足をゆっくり洗う手つきとか、怒鳴ってしまった翌日にクッキーを差し出してきたこととか、仲直りの印に牛舎を掃除するブラシとか。
 育った家庭でも、学校でも、顧みられず肩身の狭い思いをしてきた少女は、慈しまれ尊重されることがどういうことか初めて知り、一緒に穏やかな生活をする中で、見る間に表情が変わっていく。その変化にはっとした。

言葉の使い方

 この作品の中で多弁な人は、刺々しい立ち回りをすることが多い。彼ら彼女らの言葉は他人を欺き、または裁き、切り裂く刃になる。
 人との交流において、言葉よりも前に大事にするべきことがある、と思った。


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