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席替えのこと

中学生にとって、席替えは大切なイベントである。

中学生の頃、自分は視力が悪いわけではなかったし、身長は高い方だったので、大体教室では後ろの席だった。窓側でも廊下側でもどこの席でもよかった。いちばん後ろの席の場合、プリントなどが配られるときには最後の一枚を貰えば良いので楽だが、後ろから集めるように指示されるとちょっと面倒だった。当時、教室にはエアコンはおろか扇風機もなかったので、夏は風が通るところが快適だったが、今ほど暑くはなかった気がする。冬の暖房はだるまストーブ、今考えればとても効率が良い暖房だった。寒いなんて感じることはなかった。机は1人ずつ独立したもので、男子の列と女子の列が交互に並んでいた。今のように隣とペアで行う活動などもなく、隣の女子が誰でも気になることはなかった。

中学校に勤務を始めたとき、先輩から「学年の初めは出席番号順。視力のことは座席の配置の際に考慮するように。」と教えられた。最初の勤務校は女子校だったから、男女の相性は考える必要もなく、同じ小学校から入学した生徒はほとんどいない中で、全く新しい友だち関係を作ろうとする生徒たちは、誰とでもよく話し違ったから、どんな席替えでもイヤな顔をされたことはない。

公立の中学校に勤務するようになったとき、初めて男女混在のクラスになった。クラス数は多く、しかも3つ以上の小学校から入学していたから、入学当初はお互いに初対面という生徒がほとんど。気の強い女子が男子と口喧嘩するくらいで、クラス内の人間関係はとてもよかったと思う。

1小1中という、1つの小学校からほぼ全員が同じ中学校に入学し、しかもクラス数が少なかったりすると、お互いのことを知らない者は全くいない。となると、小学校の頃の人間関係をそのまま引きずってくる生徒や保護者が多い。同じ学区に住んでいるわけだから、保護者どうしもほぼ顔見知り。かなり厄介である。だから、トラブルが起こるリスクははじめから回避しようとする。

「〇〇さんと一緒のクラスにしないでほしい」「小学校〇年生のときにいじめられたから、近くにおかないでほしい」などなど。とはいえ、クラス数が少なければ、そんな申し入れを聞いていたらクラス編成もできなくなってしまう。

自分はやったことはないのだが、いまは席替えアンケートということを行うらしい。隣になりたい人や近くにしないでほしい人などの項目があり、それを見ながら担任が席を決めるらしい。

黒板の文字が見えないという生徒を前の席にするとか、聴力に問題がある生徒をスピーカーの近くにするのは合理的配慮であるから当然行うべきことだが、誰と隣が良い、誰の近くはイヤなどというのは少し違うのではないかと思う。言ってしまえば、ワガママだ。

教室の座席に座っているのは授業中。その時間は勉強のための時間なのだから、隣が誰だろうが関係あるとは思えない。ペアやグループの活動だって、始終続いているわけではないのだから、誰だって構わないのではないだろうか。

要するに、新しく人間関係を広げることを避けているとしか思えない。小学校から6年間、保育所や幼稚園から考えれば10年近くも一緒にいるから、すでに固まってしまったような人間関係を変えようとしない生徒たちが多いこと。中1ギャップがなくなっていいなと思うかもしれないが、それが高校入学と同時にやってくるだけではないか。進学したは良いが友達が作れないことが原因で登校しなくなり、やがて辞めてしまう生徒も少なくない。

社会に出れば、好き嫌いや人間関係を気にして席を決めるような文化はないと言っても良いだろう。席替えでの甘やかしなどはやめた方が良いと思う。

今日、自分が授業に使っている理科室の席替えについて生徒に話した。「授業を受けるときに誰も困らない席を君たちが話し合って決めてほしい。黒板が見えないと困る人がいない。授業に集中できなくなるような状態にならないよう、勉強しようとする人の邪魔をするような状態にならないように。好きな人が一緒になることは一向に構わないが、1つの机の人数は3人ずつだから、誰か1人だけが我慢したり、イヤな思いをしたりするようなことはダメ。」と。

生徒たちには、場面に応じて誰とでも協力して課題に取り組んだり、問題を解決できるようになってほしい。担任をしていない立場の職員として、生徒の未来に役立つことを身につけさせる時間は、授業の時間だけであるから。

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