見出し画像

席は離れても、心は一つに(6・了)

「ああ、疲れたぁ。」

教室に帰ってきた子ども達は、無事に卒業式を終えた安心感と、

緊張感からの解放で、ほっとした気持ちを口にした。

卒業式当日、仲良しさんクラスの子ども達は出席7人。

こうくん以外の全員が、練習の途中ぬけも一度もなく、

本番まで乗り切ったのである。

小学校の卒業式は、その形式から、大きな学校程時間が長い。

それは全員が一人ずつ壇上に上がって卒業証書をもらうからだ。

この学校でも、卒業生は100人以上。証書渡しだけで約1時間かかる。

トータルで2時間近い間の、じっとしておく儀式的行事。

昨年度は、在校生として参列するも、耐えきれなくて休んだり、

イライラと戦う為にフードをかぶったりしていた子ども達が、

名前を呼ばれた時の返事も、卒業生の別れの言葉のセリフも、

凛として、堂々とした態度でやり切った。見事だった。

この一年間、この子達の、何を一番伸ばしてあげなきゃいけないか。

それはやはりこの一年間で終わらない彼らの人生を見据えて、

一年しか関われない期限付きの中で、してあげられることは限られる。

受け持つことになった最初からずっと願っていたことは、

一つでも多く、この子達に自信の基になる経験をさせたい。

それだけで、この子達と過ごした一年間だった。

それゆえ、この最後の試練と見定めていた卒業式を、

これだけ立派にやってのけてくれたこの子達をみて、

僕は、よかった、これでこの子達はまた一つ自信になる経験を得られたぞ。

嬉しさをもらえて、一仕事終えることが出来た安心のような気持ちで、

最後のホームルームを始めた。

今度は、あゆ先生が名前を呼んで、僕が卒業証書を渡す。

子ども達は、毎日を過ごした教室で、笑顔いっぱい元気いっぱいの返事で、

卒業証書を受け取ったのだった。

「先生から、みんなに伝えることは、この一年間変わらず、【守る、楽しむ、伸びる】ために、『やるときはやる、やることはやる、やれる限りやる』それだけです。そして、みんなはやれる限りやって、見事に今日の卒業式もやり切りました。だから、先生はみんなは中学生になってももっともっと伸びていくのは、間違いないだろうと信じています。」

長い卒業式の後で、僕が長く話すのはやめようと決めていたので、

話はこれだけにして、おうちの人への謝意を伝える。

交流学級の方もホームルームが終わったようで、

卒業生のお見送りにみんなで向かう。

子ども達を見送って、あゆ先生と二人で

「お疲れさまでした。」

「あゆ先生のおかげで、一年間とっても楽しかったよ。」

「いやいやととろん先生のおかげですよ。本当に。」

などと話しながら、子ども達のいなくなった教室に戻ると、

あんちゃんが大の字になって、教室の真ん中にあおむけになっていた。

「あんちゃん?何やってんの?」

少し涙ぐんでいるように見えたあんちゃん、

「いや、もうこの教室ともお別れなんだなって思ったら、もう一度、教室の雰囲気を味わっておきたいと思って。」

あゆ先生と二人で大笑いしながら応える。

「何言ってんの!もうあんちゃんの行く場所はここじゃないよ。いつもより長い春休みも始まるんだから、さっさとお帰り。」

「なんだよ、もう、卒業生っぽく浸ってもいいじゃんか。ととろん先生もあゆ先生も、ひどいなぁ。」

そう言ってあんちゃんも笑う。

卒業式の日の最後の最後まで、この仲良しさんクラスの教室には、

笑顔の花が舞っているのだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?