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時間の余裕が実は罠(後)

全員でこの60枚からのプリントを一綴りにして、

名前を書くころには、子ども達はもうそれだけで

ぐったりと疲れている様子だった。

「このプリント集ですが、今週中に!とか今日の宿題で!

などとは言いません。2月中にこのプリント集を終わらすこと。

今日から算数の宿題は出さないので、どんどん終わらせる人は、

4・5日で終わらせてもかまいません。また宿題としてだけではなく、

教科書が終わった算数の時間もこのプリントを進める時間にしていきます。

ですのでコツコツやっても、一日2枚半こなしていけば、

締め切りには余裕をもって間に合う算段になります。」

こういう時の人間の性質として、

どうしても『特典的な部分』に注目してしまうもので、

案の定6の1メンバー

「やった!今日から算数の宿題ないようなもんじゃん。」

「これ終わったらもう終わりってことでしょ、まだ1月だし、余裕やん。」

この余裕に感じる遠くに設定された締め切りこそ、

一番人間にとって、怖い時間の誘惑なのを分かっていたので、

もう一度、重ねて注意をした。

「この締め切りは、みんなを喜ばせるものじゃなくて、

かなり怖い罠だと把握しなさいね。余裕のあるうちに、

確実に終わらせられるように、自分の無理のない早さで頑張りなさい。」

まさに、卒業前のトラップ危険度の高い課題だったのだった。

さて、毎日の45分の授業でも、プリントを進めてよいこの課題を、

学校と家とで、確実に取り組んでいっているとみられる、

ちゃんと計画を立てられる子や、コツコツ進める子たちは、

二月の下旬には終わらせ始めた。その数約10人、全体の4分の1ほどだ。

「算数の課題は、締め切りまであと10日だからね。しっかりとクリアしていきなさいね。」

そう、声をかけると、終わった子たちがプチ先生を志願してくれたので、

終わった子達に赤ペンを委託し、各プチ先生に対して2人ないし3人の、

小グループ制にして、少しでも早くクリアする子が出るように、

ラストスパート体制をとる。しかして、同時に実態把握をすると、

「先生。Mくんまだ6枚しかやってません。」

「こっちはT君が、まだ10枚もくりあしてない。」

プチ先生の文句のような報告が次々と入ってくる。

「あー、あくまで自力でなので、答えを教えるのではなくて、解き方を教えるスタイルでお願いします。で、やっぱり完全に時間の余裕に引っかかっている人たちは、ラスト10日で追い上げてください。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

締め切りの日、ずらりと10人以上が並ぶ、

「・・・・だからね。言ったでしょう。1ヶ月以上ある事とか、プリント集以外の算数の宿題がないことは、決して楽な事じゃないって。この課題自体がそれだけしてもだいぶ大変だから、それだけの条件が付いてるって話はしたじゃない。」

「・・・すみませんでした。」

「どうするのよ。これしっかり終わらすのが火災着の課題だと、皆で納得して進めてたわけじゃない。間に合わなかった分はどうするのよ。」

本来だったらもう、はいそこまでですと打ち切りにもできる。

しかし、間に合わなかった子達も、その心意気は成長していた。

「あと1週間ください。それで全員終わらせますから。」

その泣きの一回の、最終締め切りに、徹夜で取り組んだのが、

U君のお母さんとのやり取りだったのだ。

最終締め切り日、泣きの一週間で頑張った十数人は、

その日のU君のことをあホームルームで伝えた時に残り3人、

「やり切ったことは、その結果も、そこにたどり着いた過程も含めて、素晴らしいと思います。偉い!」

そういってUくんをみんなでほめちぎると、

Uくんは眠気も忘れて恥ずかしがっていた。

そしてそのことに刺激を受けて、残った3人も、

その日の算数の授業中で、無事に終了することができたのだった。

かくして、6の1はこの最後の課題も全員でクリアしてのけたのだった。



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