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不登校先生 (41)

7月末日、退職の日。その日は土曜日だった。

もう一つのイベントが、その日のスケジュールには入っていた。

あーさんの結婚式。

あーさんは、昨年度、別の学校で一年間、同学年を受け持った相棒だ。

僕より一回りも若いが、しっかりしていててきぱき仕事をするあーさんは、

久しぶりに出会った、子どもに対する熱量も同じくらいの、

先生という仕事に全力で取り組む、素敵な人だ。

あーさんは、僕が病休になると、すごく怒ってくれた。

「ととろん先生をそんなことにした奴らを、私は許せません!」

妹のような、あーさんは、頼もしいお姉さんにも感じられた。

あーさんは、今年度、持ち上がりで6年生の担任として受け持っている。

あーさんは子どもたちのことも伝えてくれた。

「ととろん先生、△△が今日、社会の時間に、ととろん先生としていた百人一首から考察をしてですね。天武天皇はきっとこんな人だから、、、とか。先生の教えが今年もすごく子どもたちからあふれ出てきていますよ。」

一緒に一年関わった子どもたちの様子は、聞いているだけで励みになった。

そんなあーさんは、新婚さんでもある。

学生時代から付き合っている方と結婚したのだが、

いざ、結婚式をあげようと予定していた日取りに、

コロナ禍が直撃して、もう1年半延期になっている状態だった。

そのあーさんの結婚式。本来ならば相棒を組む前に執り行われていた式。

相棒であるあーさんを、お祝いしよう。

そんな気持ちに踏み切れたのは、正式に、退職を決断できたからだった。

「ととろん先生の心の状況がきつければ無理はさせられないのですが」

恐縮して声をかけてくれたあーさんに、

「いや、ありがとう。行かせてください。お祝いさせて。」

こちらの方こそ、ありがとうだ。本当に。

4月から7月までの4か月。完全に心は底の底で。

そんな状態を少しずつ回復出来てきた時に、

自分のことでなく、誰かのお祝いができる。

心が少し温かくなれて、また一つ、元気の素をもらえた。

ようやく、そこまで自分の心も持ち直したのかな。そう思えた。

出席の返事をポストに投函すると、

その足で僕は行きつけの理髪店に向った。

↓次話




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