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大失敗も大成功も味わい尽くそう(3)

「大丈夫!赤子泣いてもふた取るなだからそのままで。ですよね、先生。」

と、声が響いてくる。お米の炊き方は順調のようだ。

ご飯の炊き方も家庭科の調理実習は、ガラス鍋のガスコンロだ。

家でもはもう全員が炊飯ジャーでご飯を炊いている様子が、

日常の普通の光景になっているだろうこのご時世だが、

学校での調理実習でのご飯の炊き方は、ガラス鍋でガスコンロなのだ。

様々な経験は初めてのことばかりになる子ども達だが、

中にはもう家がオール電化で、ガスコンロの火をつけるのに

おっかなびっくりな子もいる。

そんな中で頼りになっているのが、1班ではあんちゃんとまなさん、

そして2班では、かいくんだった。

あんちゃんとまなさんはなるほど、家でもおうちの人と練習できたようで、

一つ一つの工程を、思い出しながら落ち着いてさばいていく。

一方かいくんは、家でも、やり慣れている感じで、自分の仕事と、

はやくんとかずくんに任せる仕事を適宜適切に声かけしながら、

慎重派の二人がたじろぎそうな工程を、率先してさばいていく。

学校を休んでいる時、大体夜型の生活リズムになってしまうかいくんは、

朝遅くに起きると、家族は誰もいない状態なことが多く、

自分で焼き飯を作ったり、袋ラーメンなどを食べたりしているので、

毎日台所には立ってるから、大体のことはわかるようになっていた。

お米の炊き方についても、家庭科の教科書をにらめっこしながら、

これでいいかな?と、慎重派の班の二人に、

「書いてある通りにするだけやから、じっと見続けなくていいよ。」

と頼りになる一言とともに、キッチンタイマーをピッとつけて置いておく。

かいくんの動きには、日常の中での調理の技術や工夫が、

すっかり身についている自然さが見られた。

家庭訪問に行った後も数度、お母さんやおばあちゃんに話に行ったり、

かいくん自身を迎えに行って一緒に学校に着たりと言う事もあった。

彼の生活習慣のルーズさは決して彼の特性だけのものでなくて、

家庭環境全体に浸透しているルーズさも大きく関わっていたからだ。

放っておかれるのは、必ずしも彼の生活リズムの崩れだけではなく、

親御さんの家での様子も、少なからず関係しているように見て取れた。

かいくん自身の中に、何とかより良く生活したい、

学校に行きたいという想いは間違いなくあって、

その思いを支える手立てがどうにか届かないか、

とっかかりをちょっとずつちょっとずつ繋げている日々だ。

学校で見せる、ネガティブ思考だけど、その分良く周りの動きを観察して、

そっと気配りができる彼は、きっと家では、

もっと自分にかまってほしいな、ご飯とかちゃんと作ってほしいな、

という気持ちを隠しながら、家族に自分なりの精いっぱいで、

貢献しようと動いたり、迷惑かけないように、

自分のことは自分でしようしたりして、今に至ったのだろう。

生きるためにすっかり身に付いた生活に使える技術、

でも本来はかいくんが望んで身に付けたものじゃない気がして、

少し哀しさを感じた。そして、そんな自分では当たり前と思ってたものが、

いつもは助けてもらっている友達からすごい頼りになると、

尊敬を集めているかいくんが、嬉しそうに笑って活動している様子は、

こちらにも、しみじみと感じる嬉しさを伝播させてくれるのであった。

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