39.コンサル時代のはなし(充実編後編)
充実感を得られた3件目の案件は、札幌市の栄町駅のバスターミナル開設に関するはなしです。
札幌の栄町駅は、地下鉄の終着駅の中で唯一バスターミナルがない駅でした。
地域の人たちから、地元選出の市議会議員を通じてバスターミナル開設の要望書が出されました。
札幌市はそれを受けて、バス会社に問い合わせたところ、地下鉄栄町駅の乗降客はその他の終着駅の半数ほどしかなく、バスターミナルを開設しても採算が取れないために難しいと言われ、それを住民説明会で話をしました。
すると住民は、
「バスターミナルがなくて、バス路線が充実していないから地下鉄の利用者が少ないのだ。
だから、バスターミナルを開設して欲しい」
と、卵が先か、鶏が先かの状況になり、困った札幌市が相談をもちかけたようでした。
このプロジェクトを担当するまで栄町駅で降りたことがなく、担当した時はほぼ情報がないに等しい状況でした。
それから足しげく栄町に通いました。
予定していた回数をはるかに超える住民説明会を開催し、地域の方々と顔を会わす回数を増やしました。
そして、地域の方々が何を求めているのか、本音を聞き出すことに注力しました。
すると、問題の本質が見えてきました。
地域の方々は『栄町なのに栄えていない』という印象を持っていました。
もっとまちを元気なものにするために、バスターミナルの開設を求めていました。
つまり、バスターミナルの開設は手段であって、目的ではなかったのです。
ただ、それをストレートに言ってしまうと反感を招いてしまう可能性があるので、あくまで札幌市にバスターミナル開設を推し進めてもらうために必要なことだと、次のような提案をしました。
「バスターミナルの開設には膨大な費用がかかります。
市の財政が苦しい中で、栄町に予算をつけてもらうためには、札幌市としてもそれなりの理由が必要になります。
栄町のみなさんが一生懸命まちづくりに取り組み、それが市の広報やマスコミを通じて知れ渡れば、札幌市としてもそれを無視することはできなくなるでしょう。
ですので、まずはこの地域の課題を解決するための取り組みをみなさんでやりませんか?」
そう言って、駅周辺の自転車放置問題を解決するためにみんなでプランターを設置したり、バス停の前に木製ベンチを設置したり(資金は地域企業から協賛してもらいました)、冬は雪まつり会場であるつどーむまでスノーキャンドルを設置して盛り上げるなどしました。
これらの取り組みをしているうちに、栄町に活気が生まれ、住民からバスターミナル開設のはなしがほとんど出て来なくなりました。
こうした取り組みは、狙い通り市の広報やマスコミにも取り上げられました。
まず数年後にバス停周辺に風雨(風雪)を凌ぐための透明の防壁が設置されました。
さらに数年後、札幌銀行が北洋銀行に吸収合併されたことにより、札幌銀行栄町支店が閉鎖されたのですが、その跡地に交通広場が開設されました。
住民にとっても、札幌市にとっても、最高の形になったのではないかと思っています。
そしてマイホームはその栄町にあります。
マイホームを購入したのは前職を退職して2年後のことでしたが、市役所の担当だったAさんにそのことを報告すると、「そこまでするんですね」と言われました。
もちろん付き合いでこの地を選んだのではなく、この地域に本当に住みたいと思って選んだのです。
それは、仕事を通じて栄町のことを好きになれたからでした。
(つづく)
次のはなし
40.コンサル時代のはなし(自治体介入編)
https://note.com/totoro0129/n/n5be5c6b75947
<0.プロローグと目次>
https://note.com/totoro0129/n/n02a6e2bda09f
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