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親孝行できる時にしておくかと大相撲巡業

年代によるものなのか、大概の高齢者は大相撲が好きだ。
利用者さんも好きな人が多い。
うちの両親も例にもれず、相撲中継時期にはNHKのお得意様だし、力士の名前も結構覚えている。
夕食時に大相撲を見ていると、人生で一度は大相撲を見てみたいわ、と決まって母は言うのであった。

両国国技館には行ってみたいなあと、私も思っていた。
と、言ってもお相撲に興味があると言うよりは、国技館にあるという、やきとりを食べてみたいのだ。焼き鳥を食べつつ、お相撲を観るなんて、何だか粋ではないか。すごく日本ぽい。
着物を着てピシッとした人たちもいるようだが、私はどちらかというとダラダラとビールでも飲みながら見てみたいものだと思っていた。

そんなことをいつだかトド夫に話したことがあったのかどうか忘れたが、
「北海道に大相撲の巡業が来るらしいよ」
と、トド夫から連絡が来た。函館、札幌、旭川、と回るらしい。
親に話してみると、すぐに「行ってみるか」となった。
席はどうするのと聞くと「そりゃあもちろん砂かぶりだ!」と父は大きな声で叫んだ。もちろんお酒が入っている。
「えー危なくない?高齢者なのにさあ」と心配げな私。
「本場所じゃないから、お相撲さんたちも、そんなに無理しないよ」と母は知ったふうだ。
まあ、言われればそうだ。と言うことで前の席を取ってみることにした。

チケットを取る日の30分ぐらい前からスタンバって気合を入れた。
あまりしたことのない親孝行ぐらい、きちんと気合いを入れてあげよう、と時間と同時にウェブサイトを開けると、なんと1番前の席が3席あった。
(席を選べるタイプのサイトだった)
あまりに前すぎてビビって画面を二度見する私。ライブでも1番前なんて取ったことがないため、小心者の性質を発揮してしまう。
しかも3席しかない。この中途半端さ!どうしろって言うのよ。
すぐトド夫に電話した。
「ど、どうしよう。取れるけど3席だしどうしよう」
「いいよ、そのまま取んなよ。前だからいいよ」と、やりとりしている間に、その席は売れてしまった。
大相撲を甘く見ていた。思ったより激しい戦いであった。

後々までトド夫や母に「3席でも取ればよかったのにー」とぶーぶー言われた。

それでも、7列目を4席取れた。悪くはない。いいじゃん。
自分のライブでこんなことがあったら、悔しさで怒り狂ってると思うが、今回は他人(親)のイベントなので、こんなもんである。

当日は、母の仕事の都合で、7時半出発となった。
9時の始まりに間に合わなかったが、着くとまだ入場の列があった。
キッチンカーがでたりしていて、イベントだなあと感じる。

入場列の左側で、誰かが写真を撮っていた。
母がめざとくそれを見つけ「あれ、誰だっけ誰だっけ、あー出てこない」あー出てこないとうんうんずっと言っている。私ももちろんわからない。

普通の服を着ているので親方だと思われた。
よくわからないが、すいません写真撮ってもいいですかと声をかけ、母を横に並ばせて写真を撮った。
あれがかつてロボコップと呼ばれた高見盛だったと知ったのは、後日のことである。
すごい人気者だったのに、何忘れてんの母よ。

席が東側の端で、稽古をしているお相撲さんが通るところに近かった。
彼らが通るたび、フワッと花のようないい匂いが香る。
母と2人で、いい匂いがする、いい匂いがする、なんだなんだと言い合っていた。
汗臭いイメージだったのに、逆に女子高生みたいないい匂いでびっくりした。
どうやらその匂いは、鬢付け油の匂いらしい。(ネットで調べた)
大相撲のイメージが変わるくらいの、いい匂いであった。香水つけてるのかと思ったよ。

これは髪を結ってるところ



稽古が終わると、幕下の取り組み、髪結、相撲甚句、初切などが続く。
間にちゃんとお弁当を食べる時間もあり、お弁当屋さんも売り場を設けていた。旭川は井泉もお弁当を出していた。
冷えたお茶や水もちゃんと売ってくれている。
バレーボールとは大違い。(バレーボールもヴォレアスなんかは結構頑張っているが、他のところは数年前までひどかった。)

エンタメ、というか、興行としてきちんと成立しており、ファンにお金を落としてもらおうという感じがすごくある。
もちろん、グッズ販売の列もしばらく途切れなかった。
こうじゃなくちゃなーと思う。

日本の伝統である、お相撲ができるのに、なんでバレーはあんなんだったんだろう。
今考えても謎である。あ、旭川が地元のヴォレアスは頑張ってますね。

さて。幕内の取り組み。
お相撲にさほど興味はなくとも、お相撲さんのぶつかり合う、ばちこん!と言う音を聞くと「おお」と声が出る。
顔の近くを張ったりすると痛そうで思わず「ひいい」と喉の奥から声が出る。
隣のトド夫もそんなにお相撲は見ないはずなのだが、大きな体を乗り出して見入っていた。でも、こころなしか、トド夫の身体が今日は小さく見える。これが相対ということか。

幕下の取り組みは、ちょっと飛び道具みたいな変わった技を使ったり、組合いも息がずらすみたいな感じがあったが、幕内となると、どーんとした立ち合いになってくる。
でかいものがガッチリいく、ブルドーザー対大型トラックみたいな、雰囲気だ。
そう考えると、お相撲さんの名前に山だの海だのがついているのは、納得がいく。

高齢者ばかりだと思っていた観客も、実はそうでもなく、赤ちゃんを抱いたお母さんやら、子供やらもいる。結構年齢層が幅広い。

巡業だから許されているのか、稽古後や、取り組み後のお相撲さんに赤ちゃんを抱いてもらい、写真を撮っていたお母さんも数名いた。
お相撲さんに抱いてもらうと、健康に育つとか、私も聞いたことがある。
確かにお相撲さんはなんかめでたい感じがする。背もでかいし、横もでかいし、肌もツルツルしていて、いい匂いがしてなんかめでたい。
トド夫もあそこまで太ってくると、めでたくなるんじゃないかなと心秘かに思っていた。

取り組みが進んでいくと、それぞれの「推し」が出た時に、声がかかる。
私の前に座っていた小学生は、推しのフェイスタオルを掲げ、一生懸命声を張り上げていた。なんかこう言うのが場を盛り上げる。コロナ禍あけてよかったな、と小学生をみてつくづく思った。

質問を受ける三力士

それにしても、相撲は勝負が早い。
素人の私があのタックルみたいのを受けたら一撃で終わる気がする。
喧嘩とかって、本当はこういう感じなんだろうなと思わせる。
一撃で倒す、みたいな。
そう考えると結構怖い。
もらった大相撲うちわで顔を仰ぎながら、大雪アリーナで巡業を堪能したのでした。

始終うろちょろしていた父と、ずっとその場に座っていた母に、孝行になったかどうかはわからないけど、たまにこう言う外出をして刺激を与えようと決めた。外出も体力のあるうち、体がしっかりしているうちしかできない。
ゆっくりするのなんて、いつもしてるんだから十分だ。
家に帰ってきて心なしほっとしている父母だったが、大相撲に行ったことは、時間が経っても、きっと覚えてくれているだろう。

「今度はエスコンフィールド(日ハム)だな!」と私はトド夫に宣言した。
「まあ、いんじゃない。私が送迎するよ」と、やる気のなさそうなトド夫。
「なんで?行かないの?」
「だって負けるの見たくないもん」とドヤ顔をされた。

ああ、日ハムよ、頑張ってください。




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