GWはやっぱり焼肉

こんな北国でもしっかり春はくる。
白樺青空南風こぶし咲くあの丘北国のああ北国の春。
春が待ち遠しいのはどこも同じなのかもしれないが、雪に覆われた地域のひとは、おしなべて、不思議なくらい、春が大好きである。
うちの母なんかは、うれしくて、いそいそとカボチャの種の苗を育てたり、にしんを捌いて磨きニシンをつくったり、こまごまと動いている。
肩に湿布をしてまで動いている。彼女が動くとハッカの匂いが漂ってくる。春だなと思う。

春になっても相変わらず音威子府にはお医者さんが常駐してくれず、みんな右往左往しているが、私は比較的平和に過ごしている。

以前ここで働いて大人気だった若山先生が代替えの医師として数日きてくれたりして、村は一時期盛り上がった。
父はいそいそと挨拶に行き「おお」とハグをして、大層感動していた。
出会いと別れの春でもある。

GWといえば、本州では初夏なのかもしれないが、桜のチラホラ咲く音威子府では、まだ春である。
ていうか、最近の地球温暖化のせいか、この北の果てがGWで桜が咲いていたのは異常であった。

近年になく暑いGW。浮かれたわれわれは焼肉を決行した。(ていうか、親戚集まったらたいていやる)

焼肉大好き北海道民。
車庫でやるのが道民流。

肉を溶かしたり、おにぎりを作ったり、いももち(甘納豆入り)を作ったりと母は忙しい。
トド夫は「ほっけを提供したからね!」と鼻を膨らまして楽しみに待っていた。

ところが午後3時を迎えて、雲行きが怪しくなってきた。空は曇り、風がびゅううと吹き付ける。
寒い。寒いけど、なんかこれが音威子府だよね、と妙に納得してしまう。

「テントを立てよう」と叔父が言い出した。
今日は総勢17名にもなる。車庫からはみ出た部分の人が寒すぎるということで、テントを立てることになった。

「個人の家でテントなんか立てたら、ひとが集まってきちゃうんじゃないすか。ビール売ってるかと思いますよ」と、こんな大勢になると思わなかったトド夫が半分本気で言った言葉は、父たちに冗談だと思われて、笑いと共に一蹴された。

車庫の一方にぐるりとテントの横だけを張り、古びたコンロが三つ並べられ、火おこしが終わったころ、わらわらと親戚が集まってきた。

さすがゴールデンなウィークである。
札幌人たちの金が唸る。
妹夫婦がコストコで買ってきたという、分厚い肉が焼かれ、じゅうじゅうと音を立てる。分厚い牛タンも焼かれる。
イカもコストコで買ってきたというのが、大量に焼かれる。
そこに、母がその場であげた、ギョウジャニンニクの天ぷらが振舞われる。
叔母が作ったギョウジャニンニクの酢味噌和えが流れてくる。
まさに春ならではの焼肉!
舌鼓をうつわれわれ。
ビールも日本酒も焼酎も赤ワインも用意され、飲め飲め食え食えの大騒ぎ。漫画のワンピースの宴とまではいかないが、テントも立ってるは、照明もついてるはで、田舎でパーリーナイトである。

はやくからビールの練習をしていた食べ物を残さないことで有名なトド夫も「もう食べれない」と降参していた。

そのうち、雨がポツポツ降り出した。
「雨降ってきたし!」という私の声も、じいばあの笑い声にかき消されて、青いテントに吸収されてゆく。

まあでも、これも今年で終わりかな、というと、そうかもねえ、とトド夫が答えた。
一番年上の伯父夫婦が、この夏に札幌へ引っ越すのだ。
子供たちも札幌だし、それがいいだろうということになったのだった。

音威子府に限らず、田舎で最期を迎えるのは難しい。在宅で過ごしたくとも、提供されるサービスが限られているからだ。
しかもここは豪雪地帯。除雪をするのも大変だ。
食事をつくれなくなっても、提供してくれる場所もない。
伯父は車の運転免許を返納した。
田舎では車に乗らないで生活していくことは、かなり難しいことなのである。

仕方ないことなのだが、父や母の背中は寂しそうであった。それでもこればかりはどうしょうもない。
誰もが歳をとり、誰もが老いには勝てない。

トド夫も私もいつか老いるのだよなあ、としんみり隣のトド夫をみると、従兄弟の子供(20代)と熱心に話をしていた。

「水木は、作者なんだよ!戦争に行ったのも全部本当のことなんだよ」

と、昨日見たアマプラのゲゲゲの鬼太郎の親父のことを語っていた。従兄弟の子供も見たらしい。
私のしんみり具合などどうでもよくなる。
ネガティブなことって考え始めると、ひとりだと餅のように剥がれにくくて、ぴったりくっついてるけど、誰かと話してると飛んでいく気がする。

とにかく、これは私も参戦せねばなるまいと「いや、私はこう思うね」と横から口を出し、自分なりの議論を展開した。トド夫がさらに考えを重ねてくる。
ミルフィーユのように厚みを増す鬼太郎の親父の伏線。

「いやーやめなーオタクトーク。ひいてるじゃん」
妹から、さくっと横槍が入った。

はっと顔を見合わせる、私とトド夫。

「もしかして私たち、、、老害になってる?」
と、君の名はを模してつぶやく私に

「ぎゃー!俺はアニメオタクじゃない!」と夜空に叫ぶトド夫なのでした。





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