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【ショートショート】忍者ラブレター

「痛っ!」
わたしは足の裏の違和感に気づき、すぐに靴を脱いだ。
右足の先端に近いところに小さな撒菱が入っているのを見つけると、
刃の部分に触れないようにそっと取り出す。

ラブレターをもらったのは意外だった。
お嬢さんはてっきりKのことが好きなのだと思っていたものだから。

大学に入学するために滋賀から上京して下宿に入り、
大家の服部さんに娘だと紹介された時の印象は、
好みとかタイプとかいうものではない。
まるで稲妻に撃たれたようであった。

三重出身で同じように下宿に入ったKとわたしは、お嬢さんともじきにに打ち解け、
休日には3人で出かけるようにさえなっていた。

なんとなしに、わたしに告白させるのを躊躇わせていたのは、彼らにあってわたしにないもの。終生埋めることのできない隔たり。それでも、意を決して告白したのが昨日のことである。

靴の底から出てきた撒菱は5個
「アイシテル、か」
そう呟いたわたしは、KOGAと刻印された"撒菱入れ"に大切にしまった。


毎週ショートショートnoteに投稿しています。
人間関係の設定において、夏目漱石"こころ"にヒントをいただきました。

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