【短編小説】ある上等兵の回想
1949年7月5日。私は、日本での任務についていた。私は、GHQのG2(参謀第二部)部長のウイロビー少将付の上等兵。部長の秘書のようなものだ。
私は、日本と海軍兵士として戦ったが、幸運なことに生きて終戦を迎えることができた。よもや、敵国日本で働くことになるとは思わず、赴任の命令を受けたときは、なぜ、俺がと思った。しかし、戦勝国兵士として敗戦国に入ることは、アメリカ兵にとってはある種の優越感を持つことができる上に、戦場に出る可能性がないため、赴任先としては上等の部類に入るのではないかと考え直した。
ウイロビー部長には様々な人間が接触してくる。GHQの関係者はもちろん、日本政府の関係者、そして日本の得体の知れない連中も多い。アポイントは私が受けるわけではないが、訪問者がくると私が最初に対応し、私が部長につなぐ。
ひっきりなしに来客がある日もあるが、今日は、まだ数名だ。今日の部長は予定も少なく、私は暇で困るくらいだ。
あくびが出そうになるのをなんとか堪えたとき、突然、目の前に米軍兵士が現れた。私よりも格下の2等兵だ。
「ビクター・フジイ少尉から報告書を部長に渡すように命じられおります」
私は、報告書が封入された封筒を受け取った。そして、部長の部屋のドアを叩く。
「入れ」
部長の声が聞こえた。
「入ります」
私はそう言って、部屋に入った。
「ビクター・フジイ少尉から報告書が届いております」
私は大きくはっきりとした声で告げた。
「すまないが、報告書を読み上げてくれないか」
驚いた。機密事項が含まれている可能性があるため、読み上げるということはありえない。
「大丈夫だ。書かれていることは、午後には明らかにされることだ。それに、結果的には、私たちG2にとっても悪い話ではない」
私の表情の微妙な変化を読んだのか、部長は私の心の中の疑問に答えた。
「本日、シモヤマ国鉄総裁がミツコシで行方不明になった。得られた情報からすると誘拐の可能性が高い。犯人は不明だが、共産主義者ではないと思われる」
私は、報告書を通常のとおり読み上げたが、その内容に内心驚いた。
「ああ、わかった。もう、下がっていい」
私は敬礼して部屋をでた。
(国鉄総裁が行方不明?どうなってるんだ?不思議なのは部長が、報告の前から内容を知っていることだ。アメリカが絡んでいるのか?いや、『結果的には、私たちG2にとっても悪い話ではない』と言っていたな。やったのは日本の誰かなのか?)
結局1日暇だった私は、報告書と部長の言葉で時間を潰すことができた。
その日の夕方、日本のラジオで下山国鉄総裁の失踪が放送された。
(終わり)
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