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さよなら阿修羅は手紙を書いた

(こっちを先に読んでください!)


フユミはパンクじゃない。サイバーじゃない。ゴスロリじゃない。フユミはファッションなんか大事じゃない。生き様に名前なんかつけない。

指輪が嫌い。ピアスが嫌い。ネックレスもカンザシもヘッドドレスも嫌い。ファンデーションが嫌い。口紅が嫌い。それらはフユミには重たくて息が詰まる。

音楽も嫌い。テレビも嫌い。ゲームも嫌い。それらはフユミにはうるさすぎる。

メールが嫌い。電話が嫌い。SNSも嫌い。それらはフユミの時間の流れに比べて速すぎる。

一つの体に四つの顔と八本の腕を持って生まれた姉妹は四季の名前を名乗っている。
コハルとナツキとアキナは大きなクッションを抱えて眠る。眠っている間に後頭部のフユミを潰してしまわないように座って眠る。

姉妹たちが眠ると家の中は静かだ。フユミはやっと目を開けて呼吸をする。目を開けると白いパジャマの襟が目に入る。コットンのシンプルなパジャマはコハルの趣味でもナツキの趣味でもアキナの趣味でもない。フユミは姉妹を起こさないように気をつけて立ち上がる。

床に積み上がったKERAのバックナンバー。本棚からあふれるゴシックロリータバイブル。
ソファにかかったままのスカジャンに重なる黒いレースのストール。
ガラスのテープの上に散らばる指輪は様々。ネオン管、コウモリ、『WISDAM』の文字。

フユミは真っ直ぐ前を向いているのに、体は後ろ歩きになるチグハグさ。フユミの椅子はシンプルな白木の机に向かって背もたれを向けている。椅子の背もたれに背を…フユミとっては胸をつけて座るとちょうど良い。
机の上には、ディスクライトと墨汁が入った小瓶の他にはチリ一つ落ちていない。フユミは引き出しから白い便箋と割り箸ペンを取り出した。
割り箸ペンはフユミが時間をかけて割り箸の先っぽを自分の筆圧に合うように削ったもの。削ってる最中にうっかり指を深く切ったことを心配されて、姉妹にナイフを取り上げられてしまったのでもう作れない。

雨の夜。遠くから音がする。貨物列車が走る音。フユミは目を細めた。

瓶の蓋を開けるとふわりと墨の匂いがたつ。
しばらく便箋を見つめていたフユミは静かにペン先を墨汁に沈める。

コハルへ、ナツキへ、アキナへ。
フユミは雨の晩、長い長い別れの手紙を書く。

おわり


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