透明駒をはじめから(5)

 透明駒には、以下のような取り決めもあります。

(7) 透明駒は、作意・変化・紛れで異なる駒種になり得る。

 透明駒は、作意・変化・紛れの全てで同一の駒種である必要はありません(勿論、存在する枡も同じでなくて構いません)。あくまでも、一続きの手順の中で矛盾が生じなければOKなのです。
 このことは、透明駒を単に「どこかにいたが、ある瞬間から透明になった駒」と解釈しては理解できません(確かにこの稿の最初ではそんな感じに表現しましたが、あれは一寸不正確な表現なのです)。透明駒は、いわば量子力学における電子のような、かなり奇妙な振る舞いをするのです。

           例8 

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かしこ詰 3手(透明駒 1+0)

 先手は初手から透明駒で駒取りをすることも出来ますが(例えば 12X、22Xなど)、いずれも普通に取り返されると後が続きません。そうなると初手は21金しかありませんね。これを21同銀と取ると、13に透明駒があることになるので、22Xとすれば(駒種は不明ですが)両王手の詰。又、21同金と取ると、この場合は23Xとすれば透明桂が主張できて詰みます。
 従ってこれは21同玉と取るより無く、このときは42銀成として41-91のどこかに飛(又は龍)がいることを主張すればやはり詰で、これが作意になります。1枚しかない透明駒が、あるときは飛、又あるときは桂と、八面六臂の活躍を見せる作でした。詰め上がりの種類が、透かし詰/ピンメイト/両王手と全て異なるのも、狙いの一つです。

 最後になりましたが、実は透明駒にはあと一つ、次のようなルールもあります。

(8) 詰め上がりにおいて、透明駒が可視化されずに持駒に残っても、手余りとは看做さない。

これを念頭に置いて、次の図を見て下さい。

           例9 

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かしこ詰 3手(透明駒 0+1)

 普通の詰将棋なら43角成迄1手詰ですが、玉方は2手目にXという抵抗手段が残されています。これは明らかに21への合駒なので、攻方はこれを21龍と取って3手詰となります。透明合は手余りになりませんから、2手目は合法な手数伸ばしということになるのです。

「見えないのだから、手余りではないよね」という、些かご都合主義のようなこのルール。詰め上がったとき、透明駒が持駒に10枚あっても20枚あっても「手余り」ではないということに違和感を感じる人もいらっしゃると思いますが(実は、私もその一人)、少なくとも現在はこれが認められています。

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