意識が遠くなるまで~出産当日④~
前回の記事はこちらです。
※出産時の様子を詳細に書きます。不安な方は読むのを差し控えていただきますよう、お願いします。
突然、男の先生が
「心拍が弱くなってる。」
と大きな声で言いました。すると間髪入れずに、主治医のM先生が
「手術、緊急に切り替え!」
と叫ぶように言いました。
辺りが一層騒がしくなりました。
「緊急」「緊急」という声が飛び交います。
男の先生が、私が寝ているベットの端に勢いよく飛び乗って、お腹にエコーをあてて、必死で赤ちゃんの心拍を探っています。
私は多量の出血で意識がもうろうとする中、なぜか
「赤ちゃんは弱ってるはずない。ゴソゴソ動くから、いつもみたいにモニターから外れただけだ。赤ちゃんがまだ小さくて、探しにくいだけだ」
と、そこは期待とかじゃなくて、とても冷静に理解していました。
酸素マスクをつけられました。
「点滴〇個」とか、私に取り付けられている物を確認した後、ベットのまま病室から運び出されました。
エコーを握りしめている男の先生は、ベットの端に半身で腰かけたままでした。
ベットを取り囲むお医者さんやナースの方々も、一緒に移動。おみこしのように。その真ん中に、無防備な自分がいて、息がつまるような大層さでした。
エレベーターをおりて、大きなドアが開き、手術室らしき部屋に運び込まれました。
真っ白くて広い部屋が現れて、白衣を着た10人以上と思われる沢山の方が、それぞれチームでまとまって、何か言いあいながらテキパキと動いていました。
まるで映画のセットの中に入り込んだように、非現実的でした。
部屋の中央までいくと服を脱がされました。
そして腹部が見えないように、目の間のハンガーのようなものに黄色いタオルがかけれられました。
「だいじょうぶですよ~」
と傍にいたスタッフが言ってくれます。
でも訳が分かりませんでした。
さっきまで狭い個室で一人きり横たわっていたのに、突然騒がしい所で、大勢の人がいる所で、真っ裸で、どうしようもない自分。
ただもう大声で泣きました。
まな板の上で、なすすべなく横たわる魚も同然でした。
出産のためだと知ってるけど、自分が思ってる出産の場面とは、これっぽっちもつながりませんでした。
気付くとお腹が痛い。
あれ、切られてる?麻酔がきいてない???
混乱して、声に出して言いました。
「お腹が痛い、痛い」
叫ぶような声が出ました。
主治医のM先生が
「あれ、患者さん、お腹痛いって言ってる」
あ、M先生がいてくれてる。
しかもちょっと間が抜けてるっていうか、冷静そうだ。
そう思ったら少し安心して、私の意識は、そのままなくなりました。
こうして私のお産は始まりました。
誰がこんな出産を想像できただろう。
こんな出産が自分に起きることを、私は一度たりと考えてもみませんでした。
こんなお産があることも知らなかった。
でも確かにこんなお産はあるし、どの妊婦さんに起こっても不思議はない。そして小さくは早く生まれる赤ちゃんが増加している日本にあっては、こんな出産が確実に増えていると言えます。
医療従者の皆様には、深い尊敬と感謝の気持ちで頭が下がります。
そして私のように、こんなお産を体験される方々の戸惑いや苦しみが、その後の育児や自分自身が生きていく上で、"つらかった"で思い出すのではなく、こんな出産も、かけがえない尊いお産なんだと、腑に落とせるようになったらいいなと心から思っています。
産後へと、私の備忘録は進みます。
これまでの記録はこちら。
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