劇場のコピー

詩 206〜210

  劇場

潮騒 むすんで 切る 毛糸
ただ焼く 光 針千本
フィルムを首に巻いている
軒をならべて 長い道

白黒の絵がかざられた
踊り場に立つ名もなき子
絨毯の色に目が燃える
片足で立つ赤鸚鵡

夜の女王は退屈で
気まぐれに寝て 動けない
かわいそうでもしかたなかった

川の流れは絶え間なく
瓶詰幽霊 灰皿で
ぐるぐる まわる 浄化の日まで




  乾季

色がなければ影もなく
息がみだれておさまらず
こんなかたちで生きつづけ
破壊されるのを待っている

風の前では憂鬱も
ほとんど誤差で タンポポで
考えたくない 意志がない
のぞむことさえないでしょう

メトロノームは反逆し
花輪が枯れるまで ふて寝
むだと分かった 浸透感覚

あなたの心に添えられる
ほんのわずかな香料を
調合するには土に帰って




  再洗礼

なにからなにまで失って
オリーブ ぶどう も 灰と泡
みじかい時間で克明に
十字架 思い浮かべたら

あらゆる苦痛をソファにのせ
加速実験 三 二 一
カレイドスコープ 破裂した
意外なくらい 上機嫌

重心 低く 視野 狭く
むかえにいくのもこばまれて
わたしの殻から蜜蜂 一匹

おなかがすいて うれしくて
一瞬一秒 着々と
きよらかになる 黒こげになる




  殉教

その液体はあざやかで
試験管のなか 赤紫
とぎすまされた夕闇で
疑問の余地はなかったと

目をうばわれた あなた 告げ
仮説ばかりで もう キリン
塔は倒れて チョコレート
まちがいだらけのむくいです

ドレスのほころび サメのあご
束縛できる権利 なく
あなたの心は双子座 飲みこむ

切り離されたブローチが
ふたたび 棺にもどるとき
アネモネ 胸にさして 蒸発




  最後の人質

星の産声 聞いたとき
慈愛の木陰に降りそそぐ
太陽光線 月光に
また 五角灯 その行列

みどりゆたかな宮殿で
あたらしい朝 書き終えて
テーブル上には目玉焼き
失意と安息 ジグザグに

見捨てられたら ひびわれて
弱さも残酷 通り雨
サラダ 吸血鬼 やがて日食

クローバー 摘む あなたには
ひとりで踊れる 休憩と
心やすらぐ 秘密の炎を

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