帰還のコピー

詩 196〜200

  帰還

細い目としわ 最愛の
あなたは食べかけ 毎日の
儀式にうんざり 表情は
それほど遠くはない 衛星

起こした人は誰ですか
ごらんのとおりのにせものが
あわれな おろかな赤い点
肺の中から春を呼ぶ

子供部屋でも お別れの
合図がかわされ ささやかれ
迷惑ですか こんなことさえ

口癖 忘れて もう残暑
まんざらでもない ありがとう
星空 ささえて あざやかに舞う




  無機物

手がかり 残さず 消え去って
姿を見せず 泳ぐもの
羊を檻に トンネルに
あなたは たぶん パレットに

心は軽く やわらかく
日ごとにそれに近づいて
甲殻類の夢を見る
かけがえのない倦怠感

人の顔して 繊細で
いそいでなにかになりたがる
歩きつづけることを知らない

ほら ほら 希薄 唯一の
言いわけ 無垢 は 通じない
ためらいながら 乱反射 今日




  選択肢

白い壁の家 中庭に
またたく閃光 ぷかぷかと
大きな鯉が浮いている
うろこ 三千 色 三色

朝日に抱かれ 雪だるま
すべり台の下 残ったか
残されたのか 分からない
証明できない かなうもの

あなたの心にかなうもの
内気で卑怯でかわいくて
また首をふる もうだまっている

いまか いまかと待ちぶせて
かがやきを知る 日曜日
生まれてきたもの 死んだもの 全部




  自由研究

クラゲは死んだ あおむけで
浮かんで こわした 水鏡
長い沈黙 エゴとエゴ
威風堂々 歯を抜いて

悪臭 少しはましになり
だけど 痙攣 爪 むらさき
ペンキぬりたて ただ 歩く
静かな通りを足早に

ホタルは飛んだ 力なく
遠近法を廃棄して
そのせいで 眉 みとめられない

水のなかの夢 敬虔な
思いにまつわる悪意まで
昆虫採集 たのしみにして




  スペクトル

生命現象 横顔を
解読できず 雨あがり
のろしはのぼる 力なく
しわがれた声 聞き捨てて

電気羊とコオロギは
カレイドスコープ 迷いこみ
金貨が 転々 道しるべ
シロツメクサの国に着く

火遊びしては 信号機
深いかなしみ 日々 萌芽
デルタの繁栄 つゆ知らず 去る

ひとつ目のけもの こごえていた
万物流転 釘をなめ
感情 あざむく アンバーグリス

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