むかしむかしのコピー

詩 186〜190

  むかしむかし

裏通りには なんとなく
あたらしい顔 約束に
手を置く 本の罫線は
不滅をほこる城壁で

木星 土星 イヤリング
この電線で 北風が
歌う 心を運ぶ 旅
膝をそろえて 腰かけて

口笛 ひびく 嬉々として
かつての偉大な王国の
歴史を解放する 勇気まで

抱きよせるもの 本当に
みすぼらしくて 幻滅で
手かげんせずに 愛するとしたら




  もうすぐ帰る

テーブルクロスに しみをつけ
けっして落ちない しみをつけ
花瓶の葉っぱは ふわり 散り
水分 つかいはたし 散り

天蓋ごしに空を見て
ぬり絵のような雲を見て
ガラスのひさしに あごを乗せ
うっとり こぼした 息を乗せ

夜店で買ったおもちゃから
抽出したのは 藍 灰 蛾
ノスタルジーさえ調合できる

のぞいて さわって ひたされて
ねがいは かなう 寝て 起きて
それでも あなたは海を知らない




  接触不良

ハサミで点線 正確に
かくしきれない 気の弱さ
どうか 留守中 指一本
ふれさせないで 見守って

そのころ きっと わたし 虫
風上 立って また しゃがみ
広場の噴水 かこむ 人
お城へ通じる細い道

ぜったい 頭はいいから と
ほめられつづけて そのせいで
海水浴でも接触不良

音質 悪くて 聞こえない
まやかし ではない 勇気だけ
あわれみ ではない 本当に分かる




  きらきらするけど

話しているのは あなたです
追放された その先で
やっぱりここでも 欠けている
大事に保管しなかった

目が見えなくて つの 生えて
対角線上 いるらしい
いい子で だまっている らしい
そんなことしか分からない

ふたりになれば できる 列
けっしてならんで歩けない
排水溝に はまって 落ちて

ひとりですわる 地下の国
波にゆられて やどす 火は
きらきらするけど 悪いものです




  みんなしあわせ

レモンが熟れたころのこと
暗闇 にじむ 力なく
青い光にみちあふれ
熱にうかされ 笑い声

数えきれない息づかい
めまいのたびにつみかさね
わたしの肌を流れ落ち
今夜の路上の月光浴

戦えないから さみしくて
すぐに どこかへ身をかくし
無関係でもないけれど なぜ

快適すぎるこの席で
賛美歌 歌えば みんな 水
これでよかった みんな しあわせ

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