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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (15)

 ひまわり畑、本当にうなだれた人たち、卒業式の練習で、みんな、退屈してるみたい。きつい角度の夕焼けの赤い照明をうけて、どす黒い影がひまわりの顔に落ちて、なんだか深刻そう。苦悩してる感じで、生きるべきか、死ぬべきか、なんて思いつめてる。どうせ、無視されたとか、浮気されたとか、先生と、上司とあわない、彼氏と別れる勇気がない、親がいじわる、とか、そんなのをなやんでるだけ。鶏頭、泣きすぎて青むらさきになってる、塀からたれさがったあじさい、くさった、かびだらけのブロッコリーじゃないんだから、脳みその花になって、絶望してるポーズでかわいそうがられようとしなくていいのに。
 アサガオみたいに、また、目をさます。眠っているように。
 いや、死んでた。
 イルミネーション、なんてものじゃない、口裂け女が浮かびあがって手まねきしてそうな、下校の途中の電柱のうしろ、ちかちか、くすんだ街灯のあの光に照らされて、ほとんどモノクロ、遺影みたいで、自殺を成功させてしまった、って腹が立つ。
 それが、一〇万本。一〇万人の死んだ顔。
「もういい」
「もういいかな。満足した」
「いや、あんたが」
「いやいや、そっちも」
「わたし。わたしは、まあ、いいか、って」
「わたしも」
「水やらないと、しおれるのかな」
「雨、ふったけど」
「そうだな。ほっとくだけじゃだめなんだな、いろいろ、むずかしい」
「人間も、ほっとくと死ぬしね」
「わたしは、ほっとかれたほうがいいけど」
 月が出た。出てた。
 奈津美は、きっと、まじめに自分もひとりで生きていけるのかどうか、そのほうがいいのか、考えて、こたえが出なかった。変な間になって、だまっているうちにそれが五秒、十秒になって、ついに沈黙になった。それでも、そのままにしておいたら、しめった空気とくすぐったい、ちょっとつめたくなってきた風に、やわらかくなって、静寂、って感じになった。
 さらに十分くらいしたら、いつのまにか、ただのしずかな月夜になった。ゴッホの星月夜の青さだった。
 月は、たしか、半月。
 調べてみればわかるけど、たぶん、そうだと思う。七月六日だった。

  「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

 のサラダ記念日だったので、くだらないけど、忘れられない。

七月二八日
 月の出 一八時四〇分
 南中 二三時五四分
 月の入り 五時一〇分 (翌日)

 だそうなので、六時半くらいには、月を見てたんだと思う。

月齢 二二・三

最高気温 二三・六
最低気温 一八・九

九時 くもり
一二時 くもり
一五時 はれ

 なんだ、意外と暑くなかった。
 どこで観測したのか知らないけど。

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