詩 61〜65
蒸留実験
メランコリーは生まれつき
まばたきの闇 一瞬に
オーロラ 浮かぶらしいって
そんなうわさを信じたい
大きな声で誓いたい
きっと失敗するでしょう
いまではきみも共犯者
死んだふりして逃げないで
拍手のかわりに石がふる
月をむかえる唾の雨
無力の証明 わたしはあおむけ
空の現象 ひとりじめ
この場所だけはわたさない
悪口の日々 わたしはそれでも
ファウスト
また来る季節 ひっそりと
息をひそめて 蝋燭の
火まで盗まれ 東 西
見まわす灯台 この徒労
水瓶いっぱい サクランボ
むりに薬を飲ませては
奇跡と言わせ 合図させ
神聖憂鬱 満ちたりて
貸してあげよう 望遠鏡
復讐はきみの責任だ
なつかしい日々 見つけた景色
まだ手がふるえ さらさらと
散りゆくことば 飢えている
木陰のなかで プレゼント 積む
あなたはわたしの
深い憎悪の一覧表
ペンギンにまで丸つけて
無欲の定義がまるで泡
廃棄の基準が数字だけ
じっとしてなどいられない
生まれたばかりで やけどした
まだ太陽も知らないで
シンバルを手に 馬に乗り
力づくでも行かせない
「あなたはわたしの子供だ」と
紫外線にも助けを求め
視力 聴力 まだ途上
かもめは果実になれません
きみが苦手な体温調節
ざあざあ
わたしはいない 十二月
あなたが生まれた テーブルに
わたしはいない あたりまえ
生まれていない あと五年
けっしてあなたのせいじゃない
あたりさわりのない天気
なにが言いたいの その えくぼ
ざあざあ やっと 部屋 魚
別れの瞬間 心ない
ことば いらない 指きりも
へたな矛盾で つぐなえなくて
クルミの殻から 音楽は
とだえて 消えろ 消えろ でも
開いておこう 深爪の奥
なくしたもの
わたしが風船だったころ
青い空には ため息で
赤い空には ソの音で
黄色い空は 知らなくて
わたしがサボテンだったころ
地平線では あやとりを
朝の露では イヤリング
わたしを抱いて わたし 割れ
季節を忘れ 花と雪
いつまで待っても まだ来ない
黒い空には 星があるのに
空気がうすれ 雨と虹
やっとつかんだ もう消えた
焼けつく砂は 蜃気楼の巣
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