エレジーのコピー

詩 96〜100

  エレジー

おびえた目のなか 羽虫が
ときには あばれ ときには 実
みっつ数える その前に
首をかしげて 傷だらけ

いつからペンキ 塗りたてだ
清涼飲料水 こぼし
ほころぶ さかいめ エレベーター
うすぎたない血を材料に

十年前からそうだった
傷だらけの手 ばんざいが
できない だから 仲間はずれで

おなかがすいた あなたなら
地盤沈下の下心
別世界では 息もしてない




  鳥

風 吹く 丘で 咲いていた
こんなに やさしい 春の日に
あなたは 咲いていたけれど
少しも ゆれる ことはなく

夜 降る 海に 立っていた
あんなに つめたい 波を踏み
あなたは 立っていたけれど
ぜんぜん 星に 興味なく

どんなことばが ほしいのか
どんな気持ちで 眠るのか
明日は 明日 今日は 今日

どんなかたちで よりそえば
色 光 線 未来 熱
どうして ひとりのふりをしている




  おまじない

きれいなことばをおしえましょう
ふるえがとまる 朝を呼ぶ
おまじないにはなるでしょう
消えないように がまんして

あなたのことです いつだって
不安が心臓 絵本の目
花や神ではないでしょう
炎のなかに捨てられない

立入禁止の赤い字を
ひとつだけでいい 塗りつぶし
足をのばして 入浴すれば

四角い声を 忘れ去り
わたしも とけて なくなって
夢も見ないで 眠れるでしょう




  蛍時雨

ブラウス ぬいで スカートも
いらない 胸を いっぱいに
開いて 骨を 切りとって
心臓 とりだし 肺 ふたつ

血管 神経 耳 歯 指
ひっくりかえして 風 浴びる
ちりちり 澄んだ 風鈴の
音色 溶けている 溶 け て い る

石段 長く 気づいたら
あなたの つむじも ぐるぐるで
蚊取線香 わたがし 燃やす

じゃりの 重みと まるさ 数
全部 感じること できず
泣かなくていい ここにも 風は




  つくも姫

シグナル 変わる うつりゆく
色も形も かろやかに
待ち合わせする銀髪を
一瞬ごとに染めなおす

期待はずれの太陽も
蒸発させるに十分で
手探り 探す 約束も
むなしく かすむ あきらめろ

やっぱりそうだ 封を切り
天空 すべて 吐きだした
自己満足が氾濫しては

実に迷惑 不衛生
どこで覚えた そのしぐさ
傘のなかでは 意味がにじんだ


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