千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (19)
いや、目は、あの、まんまるな目だけど、
どじょうが 三匹 あったとさ
おせんべ 二枚 あったとさ
おもちを ふたつ かさねたら
雨 ざあざあ ふってきて
あられが ぽつぽつ ふってきて
あっというまに たこにゅうどう
なんだ。
おでこに、しわ、三本。
「なんだよ」
って聞いてやらなかったから、夢になって、あんなふうに巨人に変身してしまったんだろうな。
ベッドは広くて、わたしは、寝がえりをうった奈津美のつま先に頭を置いて、Lになってた。それでも、もうひとり寝れるくらい、余裕はあった。夜中、奈津美が足の親指でわたしの胸をさわってた。夢うつつで、無視した。寝ぐるしくて、目がさめて、ひまだったんだろうな。朝、シャワーをあびた。
奈津美が入ってきて、うしろから抱きついた。もちろん、全裸で。
「やめて」
「洗ってあげるって」
たぶん、わたしをほっといて寝たことに罪悪感、なんか、ちょっと悪いと思ってたんだろうな、やけにべたべたして、にやにやもしてた、親切でサービス精神のつもりでボディーソープを塗りつけた。
「ありがとう」
とか、
「もういいよ」
とか、言ってやれば満足だったのかもしれない。わたしは、
「やめて」
って、くりかえすだけだった。
それが最初の、いっしょに入浴した記憶で、二回目が最後だった。
わたしと奈津美は、二階をうろうろしてた。プールに入って、汗を流したことにした。塩素とかで消毒される。ふたりきりだった。前の年までは先輩に男子がいて、トランペットにふたり、トロンボーンにふたり、チューバにひとり、パーカッションにひとり、六人いて、みんな、合宿の入浴はプールだった。わたしもやってみたかったけど、それでいいやって思ってたけど、女の子は家に帰った。わたしだけプールってわけにはいかなかったから、わたしも自転車こいで家に帰った。奈津美が、うしろに乗ってた。
「バスないから」
って。
「ないの」
「一時間後」
「あるやん」
「ないよ。ゆっくりする時間がないよ」
「ゆっくりするなよ」
「風呂、かして」
「着替えは」
「かして」
「シャツ」
「かして」
「スカート」
「かして」
「下着」
「かして」
「ないよ」
「あるよ」
あるけど。まあ、いいけど。
「やばい」
「なにが」
「風がすごい」
「すごいね。風っていうか、あんたのスピードが」
「目になんか入った。やばい。前が見えないんだけど」
「え、とまれよ」
「うける。本当になんにも見えない」
奈津美がこわがってた。本気でわたしの腰に左手をまわして、ぎゅっと抱きしめてる。みなしごのコアラ。
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