日射病のコピー

詩 221〜225

  日射病

袖をしぼって 汗をふき
ヘリコプターを見あげる日
まぶたでつつんだ蝉時雨
石の階段 十段目

ファスナー おろした 指が欠け
堤防づたいに歩く午後
宝探しの その 宝
ダイヤモンドかカブトムシ

大事な部品がたりなくて
握手をこばむ権利 なく
駅のベンチで金魚は昼寝

本棚 めぐって 泣きやまず
理解できない その 鼓動
出会えるのなら時間旅行も




  聖家族

髪を洗って ベランダで
風にさらせば 実はこぼれ
染まる指先 いとおしく
爪はむらさき 指紋 赤

水を汲みあげ 浴槽へ
たき木はかさばる 屋根裏で
光るものしか流れない
娘を寝かしつけたあと

あきらめながら生きのびた
声はちいさく 色白で
ほのかな期待に胸をふくらませ

はなれて見れば人影だ
日々の祈りに疲れはて
のどをうるおす あなただと知る




  英雄

守りたいのはこんなもの
つるぎと盾と銃を手に
黒髪 凛々しく ゆっくりと
動く 大きな目 すずしく

酸漿の実の 赤 黄色
門を閉ざして鍵をかけ
それでも あなたはくちづけを
光のなかで何度でも

それでも 卵は かえらずに
四個 三列 一ダース
すきとおることで存在している

川がまがるし 道も切れ
わたしはうれしい 心から
あなたを憎んで 角笛 鳴らして




  流れ

みずから口にダイブして
濾過されていく 白い腕
なめらかに振る 最悪だ
万物 象牙 見くだされ

生まれたばかりの蝶ならば
闇も光も知らん顔
流れに浮かべ 有機体
水晶 投下 ゾウリムシ

水をおそれた つまらない
思ったとおりで 五月病
瓦礫の下でとぎすまされた

きよらかな胸 髪 みどり
瞳 うるわし 女王蟻
感覚 長雨 流れに沈む




  坂の上のアサガオの城

聖なるものとしての 青
すべてのもつれが 道 ふさぐ
数 かぎりない あこがれに
身をゆだね また 実をむすび

王冠 おごそか 祝福を
受け入れ やすらぐ えぐりだす
破壊のかぎりをつくす 藍
白い服 着て 首 かしげ

あなたの視線をときはなち
餌食と呼んでしまうこと
つめたい口唇 むらさき パール

つばめのいのちが 閃光が
またたくように あくびした
そうです わたしは戦いぬいた

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