追憶のコピー

詩 201〜205

  追憶

白黒 錯綜 夜明け前
遠いむかしの物語
発掘したもの そこにある
空から落ちてきたように

くもりのち晴れ 夜明け前
失われていた物語
未完成でも 不滅でも
ずっとおだやか 花 ひらく

路上に木漏れ日 めぐみ 食べ
あやまち 数回 胸をはる
陳腐な複製 鎮座まします

衰弱していく わたし 文字
距離はみじかく 被害 さけぶ
そんな資格はあなたにはない




  空中遊泳

ここからながめれば ミルク
かすみか 霧か 足をひたし
指ですくって さらさらと
こぼれる生命 その悲鳴

航路 延々 姉がいた
島に着くたび 妹も
水を飲むたび 若返る
かぼそい腕の静脈を

探して 埋めこむ 種 ひとつ
眉間が割れて かわいくて
夢にまで見た空中遊泳

頬の明滅 襟に羽
今日もどこかで飛びたてる
パン工場の小石 ツバメに




  循環

呼ばれた気がした 本当に
行かなきゃならない 直線の
軌道で 迷わず かなたでは
逃げないように と 不安でしょう

決断するのに 何度 流転
わたしは知らない 天文学
最後の記憶は 泣いていた
わたしの損害 訴えて

ゆたかな土地に生まれ落ち
絶望なんて未確認
ここを中心にすべてはまわる

あなたはけっして傷つけない
どんな理不尽にもあやまり
手術を終えたら無言で帰ろう




  流刑地

空想上の生物は
オーロラ かぶって でも 卑屈
後継者の座を要求し
遠慮しないで奪いとる

天国 地獄 選べずに
迫害の果て 落ち着いた
そこは なんだか 快適で
音にも 火にも 目覚めない

あこがれていた消滅は
ここで中断 いやな顔
あとは 誘拐 あなた自身を

無名の葉として保存して
過去の栄光 なにもかも
削除したいと言うまで ずっと




  仮装次元

どんなに心配されようと
両足 そろえて ふみきれず
わたしの宇宙は未完成
このままずっと 不完全

はじめはただの好奇心
実体 ないから 見くだされ
寝起きの顔さえモザイクで
光の速度で飛べるから

軽さは特権 孤立して
きらいなくせに口に入れ
自分が蒸発するまで 一晩

降伏するにはまだ早く
試していないことばかり
きらいなくせにやさしくしないで

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