球根のコピー

詩 231〜235

  球根

やわらかい芽をたたえても
アンテナ 豊穣 問いかける
その声 ほろぼすこと できず
マリーゴールド 揮発性

あなたとちがう顔をして
生まれたわたしが帰る家
欠けては落ちる 手をこばみ
皮膚はだんだんかたくなる

嫉妬深いと怒られて
刃物を植えつけ まぶしくて
かたち 変えれば 悪意も美徳

抵抗する気もない 祈り
磁場は膨張 もう 折れる
深い眠りの最初の呼吸




  ピンク

ブランコ こぐのは女の子
逆光 あびて 爪を塗り
りんごの皮で顔を変え
薬指にも 未練 なく

短剣 小脇にはさんでは
ワン ツー スリー で 泥をはね
後悔している 夢を見て
こうして いつも きらわれて

安置するなら美術室
抱擁される心配も
焼却される希望も捨てて

小さな音にも敏感で
肌が弱くて 寝不足で
一生懸命 あなたをながめる




  木のぼり人形

とるにたりない正体が
水中 すけて見えるから
かばいきれない 無垢な人
前奏曲だけほめられて

生きていければ 一ページ
そっとなでても 燃やしても
踏みにじられる どうせ 虫
谷底 深く 鳴く 一夜

収穫祭には好都合
落ちた歯 白く 南風
かならず髪をむすんでいなさい

あいにく わたしは力つき
つかまえるには軽すぎる
ひと足 先に 金柑天国




  浄化水槽

遠出をしては サラダ 食べ
つかれて 安眠できず 無視
迷彩ショールを肩にかけ
植えられたように 赤煉瓦

はじめて見た気がしない 足
話したがらず もう ミイラ
悲痛な影を顔に乗せ
同情されたら 点滴と

消毒 ゆるがす 犠牲愛
やっと素直になれたから
結局 なにも残せなかった

あんまり いい子と言われすぎ
消灯 禁じて 自滅して
冬の浜辺は聖域と化す




  受刑

前髪 おぼろ 羽音 消え
麻酔の効果 継続中
緑 ゆたかな丘の道
線路とまじわる 夢を見る

白い火の上 黒い火で
数字を書いて 目をこらし
残光 イコール 断末魔
胸がふさがるだけだった

お気に召すなら 金魚壺
十日もすれば手がとどく
ひとりでここに来たのだからと

遠ざけ 強がる 土足の子
ライムストーン 七竈
よくばりすぎた ふわふわ このざま

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