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不死王曲 (25)

 皆々(この書きかたは雑ながら場面を総括できている感じがしていい)、普律殿下、茉莉杏殿下、青山にかかっていった。ヘリから、無慮二〇人ばかりの特殊工作隊めいたいでたちの男たちが、おりてきたのだ。
茉莉杏殿下「痛い」
私服「やさしくしろ」
 と、言いつつも、ニューナンブらしい拳銃をかまえながらである。
 連行が終わった。前面にホワイトボードとモニターがある、会議室めいた部屋に通された。
 神田川まで、潜航するのだろう。エアコンの室外機の音を九〇倍にもしたような騒音が、三人をつつんだ。
普律殿下「どうなるのでしょう」
茉莉杏殿下「知らん」
青山「飼い殺しでしょう」
普律殿下「飼い殺しとは」
青山「飼って、殺されます。御母堂もそうされました」
普律殿下「母上がどうした」
青山「いや」
普律殿下「言え」
青山「残念ながら」
 普律殿下は、涙を落とされた。が、一滴だけだ。一瞬で皇太子の自覚をとりもどされた。
茉莉杏殿下「普律」
普律殿下「姉上」
茉莉杏殿下「どうしよう」
普律殿下「なにがです」
茉莉杏殿下「さっきから、力がつかえない。瞬間移動できない。いやな感じがする。鼻の奥がこげくさい。頭ががんがんする」
 モニターに私服がうつった。
私服「お気づきですかな。真言立川流の祈祷師七名に結界をはらせています。超能力はつかえません。おとなしく、おくつろぎになることでも考えたほうがいいでしょう」
 ノックの音。ドアがひらいた。メイドが紅茶と菓子を持ってきた。
私服「毒は入っていません。ご安心を」
 モニターが消えた。
 メイドも出ていった。
茉莉杏殿下「どうしよう」
普律殿下「腹がへりました。私は食べます」
茉莉杏殿下「いま、脱出のチャンスだった。小娘を人質にして」
 異なことを聞く。茉莉杏殿下は気分屋、短気、冷酷、大胆不敵ではあっても、卑怯者ではなかったはずだ。人質など。
 不安なのだ。不安で、不安定になっている。生まれてから一度も超能力とはなればなれになったことはない。そういえば、
「どうしよう」
 などと、二回も聞いた。無論、こんな泣きごともはじめてだ。
普律殿下「私がなんとかします」
茉莉杏殿下「本当か」
普律殿下「大丈夫。青山」
青山「はっ」
普律殿下「おまえの薬、効き目はたしかか」
青山「たしかです。現に、殿下、先ほど、何発かあたったようですが」
普律殿下「やはりな。だが、痛いことは痛いぞ」
青山「撃たれれば、それは、痛うございます。がまんなされい」
 普律殿下の作戦はシンプルだった。カラシニコフを三丁うばってきて、強行突破する。
青山「目だけ、お気をつけなさい」
普律殿下「分かった。姉上をたのむ」
 ドアノブに手をかけなさった。あく。鍵などしめていないということは、見張りがいる。出た。ドアがしまる。がちゃり。銃声。がちゃり。ドアがあいた。

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