田園の秘密のコピー

詩 21〜25

  田園の秘密

乳母車にはリンゴだけ
リンゴをつめて木陰まで
豆電球の イチジクの
かたちはくずれ カモメの目

ステンドグラス たたきつけ
粉々になるフライパン
青いレンガのトンネルだ
通り抜けたら 雨 光

私の姉は二階から
花壇に落ちた 目がまわる
だから帽子は大切にして

あなたの枝にシャツをかけ
かがやく種もばらまいて
灰になるまでここにいるから




  いつかどこかで

ナイフ 水筒 皿 フォーク
ワイン たりない まあいいか
靴下だけがあたらしい
浄水場へ 図書館へ

母は起きない 父もいま
窓辺であくび うんざりだ
紙飛行機に「さよなら」だ
「ありがとう」とは書きません

わたしは迷子 船はどこ
空から見れば分かるのに
友達はもう神さまじゃない

午後の祈りを牛乳に
今夜の夢でもう一度
天文台へ わたしの部屋へ




  病気

山羊のしっぽが長いから
白くて揺れて長いから
ジョウロの水で濡らしたい
この目薬をさす前に

雨が降る日は泣いている
虹がかかればジャンプして
風がやむのに気づいたら
泣いて 笑って もういやだ

きみの病気に足はない
右目もないし 左目も
もう開かない 「それがどうした」

「それが生命」 かげりゆく
希望 絶望 ゼロでいい
きれいな声を聞かせてほしい




  遊歩道から

冬のはじめの雨あがり
月夜の底のきみが吐く
火星はおどる マフラーで
わたしはみがく 逃げていく

からまる虫か 消火器か
電信柱に黒々と
雪崩のように落ちる髪
灰皿だけで受けとめた

六つのひとみが出会うとき
わたしとわたしときみの負け
極彩色で汚染した顔

ブラックホールが歌うとき
わたしとわたしときみの声
火星はやがて命を捨てる




  こがらし

鼻に住ませた カンガルー
頬でうるさい きのこ雲
かかとに ルビー 目に 五月
心臓が 窓 歯は くるみ

胸につまった 騎兵隊
皮膚の タイルを 傷つける
昨日の 獅子座流星群
肩のどこかに 放物線

マリーゴールド 食べてたら
爪のひとつが オーロラで
ほかのここのつ 光 そのもの

子宮に眠る 榴散弾
つぼみ ふさいだ 耳 サクラ
こがらしは外に座っています

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