戦国狐狸合戦のコピー38

どぶだが 〜戦国狐狸合戦〜(4)

   4

  「2」のつづき。
  子供、倒れている小狸、のぞいている小狐。寝ている男。

  小狐、思い切って、出てくる。

小狐  あのう。
子供  (気づいて)うん、なんだ、おまえ?
小狐  もしゃもしゃさせてください。
子供  あん?

  小狐、子供の頭を乱暴になでまわす。

小狐  ありがとうございました。

  去ろうとする。

子供  待て。
小狐  (待つ)あい。
子供  なんだ、おまえ?
小狐  ええと、里の娘です。
子供  なにが娘だ。餓鬼のくせに。
小狐  餓鬼です。
子供  こんな夜中に、なにしに来た。
小狐  ごめんなさい。
子供  なにしに来たのだ?
小狐  やれって言われたです。

  小狐、倒れている小狸を見つける。こっちだったかも、という思い入れあって、格子のすきまから手を入れ、しっぽをひっぱりだす。小狸、びっくりして起きる。小狐、しっぽを乱暴になでる。

小狸  いたたたたたた。
小狐  (はなす)ありがとうございました。

  去ろうとする。と、子供、小狐の尻にしっぽを見つける。格子のすきまから、しっぽをつかむ。

子供  待て。
小狐  (足をとめる)いたたたた。
子供  なにしに来たのか知らんが、おまえ、狐だな?
小狐  いいえ。
子供  狐だろう(ひっぱる)
小狐  いたたたた。そうです。
子供  餓鬼だが、いちおう、女だな?
小狐  そうです。
子供  化けてみろ。
小狐  えー?
子供  ……(ひっぱる)
小狐  いたたたたた。あい。
子供  うつくしい姫君だ。いいな。
小狐  あい。
子供  よしよし。じゃあ、はなすぞ。逃げるなよ(しっぽをはなす)

  小狐、持ってて、という気持ちで三味線を子供に渡す。自分のしっぽをなでつつ、顔をふせ、集中する。

  白い影たち、登場。手にした鳴り物で、化ける雰囲気を盛り上げる音楽。明かり、それに合わせて、ちかちかしたりする。手のあいているものは、早変えを手伝う。
  早変え終わって、いったん音楽とまり、暗転。またすぐに音楽はじまって、ぱっと明るく。
  小狸よりはましである。着物も、化粧も、ちゃんとそれらしい。が、姿かたちは、さっきと変わらない。
  
  小狐、子供のほうを見る。
  子供、ぼんやりして、見とれている。はっとして、目的を思い出す。

子供  ふん。それで、顔は変えられんのか。大人の背丈にはなれんか。
小狐  できない……
子供  ……まあいい。
小狐  では、ありがとうございました(三味線を取り返す)
子供  ……(しっぽをつかむ)
小狐  いたたたたた。
子供  まあ、待てよ。
小狐  もしゃもしゃしたから、帰らないといけねいです。
子供  ……(ひきとめる理由を探している)……味噌でも、どうだ。
小狐  え。
子供  味噌、なめていけ(小狸へ)おい、用意しろ。
小狸  へえ。
子供  味噌、うまいぞ。な、ためしに、なめてみろ。
小狐  はあ、じゃあ……

  小狐、手の甲で顔をこすって、化粧を落とそうとする。

子供  あ、待て。
小狐  (手をとめる)……(子供を見る)
子供  そのままでいいよ、な。
小狐  はあ。

  でも、暑いので、着物は脱ぐ。

  小狸、言われた通り、味噌を持ってくる。どこから用意したのか、湯のみ、座布団なども。子供、小狸、小狐、和気藹々と談笑するような雰囲気あって、だんだん暗く。
  
  また、小さな明かりが飛ぶ。
  小狐の脱ぎ捨てた着物の上を、ちらちらしている。
  着物が浮かぶ。ふわふわと、舞台の隅までただよっていく。小さな明かりは、それを追いかける。
  着物が下りてくる。それを受け取り、袖を通すものがある。小さな明かり、広がって、それは冒頭の女である。

  舞台全体、だんだん明るく。

  いつのまにか、牢屋はなくなっている。
  男が、立っている。


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