どぶだが 〜戦国狐狸合戦〜(4)
4
「2」のつづき。
子供、倒れている小狸、のぞいている小狐。寝ている男。
小狐、思い切って、出てくる。
小狐 あのう。
子供 (気づいて)うん、なんだ、おまえ?
小狐 もしゃもしゃさせてください。
子供 あん?
小狐、子供の頭を乱暴になでまわす。
小狐 ありがとうございました。
去ろうとする。
子供 待て。
小狐 (待つ)あい。
子供 なんだ、おまえ?
小狐 ええと、里の娘です。
子供 なにが娘だ。餓鬼のくせに。
小狐 餓鬼です。
子供 こんな夜中に、なにしに来た。
小狐 ごめんなさい。
子供 なにしに来たのだ?
小狐 やれって言われたです。
小狐、倒れている小狸を見つける。こっちだったかも、という思い入れあって、格子のすきまから手を入れ、しっぽをひっぱりだす。小狸、びっくりして起きる。小狐、しっぽを乱暴になでる。
小狸 いたたたたたた。
小狐 (はなす)ありがとうございました。
去ろうとする。と、子供、小狐の尻にしっぽを見つける。格子のすきまから、しっぽをつかむ。
子供 待て。
小狐 (足をとめる)いたたたた。
子供 なにしに来たのか知らんが、おまえ、狐だな?
小狐 いいえ。
子供 狐だろう(ひっぱる)
小狐 いたたたた。そうです。
子供 餓鬼だが、いちおう、女だな?
小狐 そうです。
子供 化けてみろ。
小狐 えー?
子供 ……(ひっぱる)
小狐 いたたたたた。あい。
子供 うつくしい姫君だ。いいな。
小狐 あい。
子供 よしよし。じゃあ、はなすぞ。逃げるなよ(しっぽをはなす)
小狐、持ってて、という気持ちで三味線を子供に渡す。自分のしっぽをなでつつ、顔をふせ、集中する。
白い影たち、登場。手にした鳴り物で、化ける雰囲気を盛り上げる音楽。明かり、それに合わせて、ちかちかしたりする。手のあいているものは、早変えを手伝う。
早変え終わって、いったん音楽とまり、暗転。またすぐに音楽はじまって、ぱっと明るく。
小狸よりはましである。着物も、化粧も、ちゃんとそれらしい。が、姿かたちは、さっきと変わらない。
小狐、子供のほうを見る。
子供、ぼんやりして、見とれている。はっとして、目的を思い出す。
子供 ふん。それで、顔は変えられんのか。大人の背丈にはなれんか。
小狐 できない……
子供 ……まあいい。
小狐 では、ありがとうございました(三味線を取り返す)
子供 ……(しっぽをつかむ)
小狐 いたたたたた。
子供 まあ、待てよ。
小狐 もしゃもしゃしたから、帰らないといけねいです。
子供 ……(ひきとめる理由を探している)……味噌でも、どうだ。
小狐 え。
子供 味噌、なめていけ(小狸へ)おい、用意しろ。
小狸 へえ。
子供 味噌、うまいぞ。な、ためしに、なめてみろ。
小狐 はあ、じゃあ……
小狐、手の甲で顔をこすって、化粧を落とそうとする。
子供 あ、待て。
小狐 (手をとめる)……(子供を見る)
子供 そのままでいいよ、な。
小狐 はあ。
でも、暑いので、着物は脱ぐ。
小狸、言われた通り、味噌を持ってくる。どこから用意したのか、湯のみ、座布団なども。子供、小狸、小狐、和気藹々と談笑するような雰囲気あって、だんだん暗く。
また、小さな明かりが飛ぶ。
小狐の脱ぎ捨てた着物の上を、ちらちらしている。
着物が浮かぶ。ふわふわと、舞台の隅までただよっていく。小さな明かりは、それを追いかける。
着物が下りてくる。それを受け取り、袖を通すものがある。小さな明かり、広がって、それは冒頭の女である。
舞台全体、だんだん明るく。
いつのまにか、牢屋はなくなっている。
男が、立っている。
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