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【通信講座】小説「ピアノに住んでる白いヘビ」 講評


タイトルのイメージはおもしろいが
この着想を生かせていない。
場を「病院」にしたことで
可能な展開の選択肢が限定され
特殊な事件を起こすことをむずかしくしている。
登場人物の行動理念が対立することもまじわることもなく
不愉快なエゴイストたちのエゴイスティックな言動がすれちがうだけで
語り手に特殊な変化をもたらすことができない。
この話がはじまる前も、終わったあとも
まったく変わらない、同じような時間が流れているだけだろう。
読者には、この場、この時間を切りとった理由が分からない。


「病院」の設定にしなくてよかった。
すでにプロットを構成するのが困難な条件下で
「特殊な事件を起こす」ために作者が選んだ手段は
語り手をおろかな、内面のない人間にすることだった。
人間の心理を恣意的に操作するな。
外的環境を操作して、バリエーションゆたかな反応をひきだしなさい。
語り手の価値観をゆがめるくらいなら
単調、退屈になったほうがまだまし。

突発的な行動をさせればドラマチックになった気がするかもしれないが
一切の一貫性、必然性がない。
共感できる人物が常に求められるわけではないし
理由なく行動するのが人間だという思想もありえるが
「突然」
などという適当な説明で
人間の思考、行動を飛躍させてはならない。
「突然」のあいだに過ぎ去った空白を
自分だけのことばで書きつくすのが散文芸術の本質であり
こんなところで横着するなら小説など書かないほうがいい。


登場人物を形成するのは独自の価値観であり
容姿や服装はその価値観に従属するかたちで自動的に決定される。
語り手とのやりとりがもっとも多い「山崎」から、なんらかの価値観を読みとることは不可能。
偽善者のつもりなのか、聖人のつもりなのか、どのように書きたかったのかも分からない。
このあいまいな「山崎」は生きた人間ではない。
語り手と意味のある会話をしない。
ソープオペラの空虚なクライマックス(突発的な行動)を用意するための機能でしかない。


文章は、きわめて不正確、稚拙。
読みすすめるのが苦痛だった。
どんな小説を読んで執筆をこころざしたのか
どんな文体を志向しているのか
どんな作品を書きたいのか
ひいては、本当に書きたくて書いているのか
いかに未熟な小説でも伝わるものが
まったく伝わらない、不気味な作品だった。

(作者より)
文章が素人っぽくなってしまうのが悩みです。しかし、特にこのような狂気を描いた作品では、あまり整った文章にしたくありません。どのように折り合いをつけていけばよろしいのでしょうか? タイトルは、『ピアノに棲んでる白いヘビ』の方がいいという指摘をされたのですが、ヘビが擬人化されているので、「住む」にしたいのですが、まだ迷っています。
どうぞよろしくお願いいたします。


「狂気」は非合理ではない。
迷信、擬科学、妄想、幻覚などの
常人以上に一貫した価値観の体系を持っていて
常人以上に常人らしくしようと「整った文章」で語るのが狂人。
「狂気」を荒唐無稽だと思いこんで
瞬間ごとの気分しか書こうとしていないところが最大の欠点。
タイトルなど問題にしなくていい。
少なくとも現在の文章の水準では。
「住んでる」「住んでいる」
表記の統一からはじめなさい。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


電子ピアノ。誰かがこの病棟に寄付した。食堂に置いてある。鬱病で入院中の、音大生の俺。本物の音を電子的に真似てるだけの、存在しない、架空のピアノ。それを弾く、存在しない俺。

誰に自己紹介しているのか。
狂言における「このあたりのものでござる」に似ている。
必然性のないモノローグ。
会話で表現できないだろうか。


中年の、いつも俺には楽天的な精神科医。

辞書をひけ。
「楽天的」→「楽観的」


人とコミュニケーションがとれなくて、ヘッドフォンなしではピアノが弾けなかった。誰かに聴かれるのを極端に恐れていた。

「人とコミュニケーションがとれない」「ヘッドフォンなしではピアノが弾けない」「誰かに聴かれるのを極端に恐れていた」
この3つの命題を論理的に接続しなさい。


途中で間違えて、俺がそこから弾き始めて、それが俺がヘッドフォンなしで弾いた初めてだった。

文章がねじれている。
「初めてヘッドフォンなしで弾いた」と書けないだろうか。

もっとゆっくり練習すればいいんだ

不正確。
「ゆっくり」が速度なのか
頻度、態度なのか。


この中に住んでいるヘビがメロディーにもリズムにも関係なく、鳴き声を上げる。

タイトルと対応させたくならないだろうか。
「ピアノに住んでる白いヘビ」
「住んでいる」


自殺願望のなくならない俺の脳の外側を、頂点から温かい血液がゆっくり、あらゆる方向に川のように分岐して流れて行くような、気持ち悪い感触がしている。

「自殺願望のなくならない」
 この内面を説明的に書いてはならない。

「頂点」
 口語的文体にそぐわない。


「気持ち悪い感触がしている」
 トートロジー。


眠れるように努力しないとダメだ、と言われて、悔しかったけど、幸いソイツは女で、殴るわけにもいかないから、俺はベッドの上に一晩中座っていようと決心した。朝まであと何時間ある?

「悔しかった」
 不正確。

「殴るわけにもいかない」
 「おろかな、内面のない人間」

「から」
 「殴るわけにもいかない」「ベッドの上に一晩中座っていようと決心した」
  論理的に接続しなさい。



手が勝手に膝の上でバッハを弾いている。メロディーをたくさん拾って、それに火をつけて、川に流す。


「川に流す」
 当然、直前の
「自殺願望のなくならない俺の脳の外側を、頂点から温かい血液がゆっくり、あらゆる方向に川のように分岐して流れて行くような、気持ち悪い感触がしている」
 を連想する。対応させるべき。



そしたらソイツが来て、なんで寝てないんだ、と俺を責める。病棟中に聞こえるくらいにわめいてやったら、でかい注射を打たれて、昼までぐっすり眠れた。

「ソイツ」
 死語的表記。


「病棟中に聞こえるくらいにわめいてやったら」
 「おろかな、内面のない人間」



「君の自殺願望の原因はなんだ?」
意外な質問をされて、俺は驚いた。

 精神科医のことばではない。
 主題そのものを書くべきではない。
 「意外な」はずがない。


グッタリしているのに、ひたすら性欲だけはあるという、変な生物と化していた。

「グッタリ」
 死語的表記。


ベッドにいると、キャリーケースを転がす、ゴロゴロという音が聞こえる。時々来るあのイケメン。

「ベッドにいる」
 不正確。

「イケメン」
 低俗。
 不正確。
 不用。
 無意味。


身体によく合っている。俺の股間がヤバい。探りを入れたところでは、ソイツの名前は山崎。

「ヤバい」
 低俗。
 不正確。
 不用。
 無意味。

「探りを入れた」
 辞書をひけ。


色んな会社から違うヤツが来る。

不正確。
それぞれの会社からは同じ「ヤツ」が来る。
 
「ヤツ」
 死語的表記。



俺はもらった薬を全部飲んで、キャリーケースを置き去りにして、睡眠薬を持ってトイレを出ると、マットレスの下にそれを隠す。床に落ちないように、慎重に。

「もらった」
 不正確

「薬を全部飲んで」「睡眠薬を持ってトイレを出る」
 矛盾に気づかないだろうか。


「マットレスの下にそれを隠す。床に落ちないように、慎重に」
 「隠す」とき、注意し、「慎重」にするのは「床に落ちない」ためだろうか。


しばらくして胸が苦しくなって、俺はベッドから落ちて動けなくなった。

「しばらくして」
 適当。

「胸が苦しくなって」「俺はベッドから落ちて」
 論理的に接続しなさい。


……緊急救命室にぶち込まれた。飲んだ量が多過ぎた。胃の洗浄をやられてる。俺は死にたくてやったんだから。ベッドから落ちてみたり、バタバタと逃げ惑う。でも床を這うことしかできない。意識不明になった……。

「……」
 適当な時間経過表現。こんなところで横着するなら小説など書かないほうがいい。

「たり」
 辞書をひけ。

「意識不明になった……」
 誰の視点なのか。


どうすれば見つけることができるんだろう?

 一貫させなさい。妄想なのか、確信しているのか。


俺みたいな質問は、五年前に発売されて、これで三件目だって。

「俺みたいな質問」は「どうすれば見つけることができるんだろう?」ということになる。本当に以前に2件も同様の問い合わせがあったのか。




確かにヘビの鳴き声にも聞こえますね。でも中に生物、その他はおりませんから安心してください、と言われた。



 聞いたのだろうか。
 
「その他」
 不正確。
 不用。




意識不明の俺の頭に、はっきり見えた。夢よりもっとはっきり。

「夢」は一般的にあいまいであり
「はっきり」を強調するための比較にはつかえない。


白いヘビがいた。彼は自分が他のヘビと違うのを知っていた。子供のヘビが聞いた。どうして貴方は白いの? そして目が赤いの? その時、彼は一人で生きて行くことに決めた。自分で自分の身を守るのは、たやすいことではなかった。ある日、彼は自分と同じようなヘビに会う。二匹は恋に落ち、一緒にピアノの中で生きることにした。

「その時」
 論理的に接続しなさい。

「自分で自分の身を守るのは、たやすいことではなかった」
 不明。

「ある日」
 ここを書くべき。


テーマは、人と違って生まれて来た悲しみと、出会いと、永遠の愛。

そのまんま。
読者を馬鹿にしているのか。


 
白いヘビはアルビノだから、目が赤い。ドラマティックだな。

「ドラマティック」
 不明。


調べたら、神社、仏閣どちらでもいいんだ。


「いい」
 不明。


跡取りの坊さんが若くて、失神もののイケメン。


 低俗。
 不正確。
 不用。
 無意味。
 こんなところで横着するなら小説など書かないほうがいい。


その坊さんは、いつでも俺の性的妄想で、特に袈裟がいいんだよな。

「坊さん」は「性的妄想」そのものではない。


膨大な集中力

「膨大」と「集中力」は対応するだろうか。


高い杉の木が隙間なく植えられた、昼間でも薄暗い墓地なんだ。古い寺だから、明治、大正より、もっと古くからあるような墓石がずらりと並んでいる。


「高い杉の木が隙間なく植えられた」
 それは墓地ではなく杉林。「隙間」がないのに「墓石」が並べられるのか。


「ずらりと」
 低俗。
 不正確。
 不用。
 無意味。
 こんなところで横着するなら小説など書かないほうがいい。


その周りの地面では、何百匹という普通の色のヘビが、墓石を取り巻く。

「普通の色」
 こんなところで横着するなら小説など書かないほうがいい。



それが本物の祭りの、狂乱の、乱交の、大パーティーで、祭りってそういうものでしょう? 

秀逸。



山崎のキャリーケースがゴロゴロ通り過ぎる。俺は急いで廊下に出て、ヤツのエロい身体を見る。盛り上がったいいケツをしている。


 「ヤツ」「エロい」「ケツ」
  死語的表記。



今日のスーツは、ベージュがかった渋いピンクだ。


 「製薬会社の営業」としてのリアリティー。



これだけあれば、好きな時に、故郷の寺でお経を読んでもらって、墓地に埋葬される。俺は睡眠薬に頬ずりする。

「埋葬される」
 〜してもらえる。

「俺は睡眠薬に頬ずりする」
 低俗この上ないアニメ。
 「おろかな、内面のない人間」



その時、音もなく、山崎が入って来て、ベッドの下にいる俺を見る。

 誰の視点なのか。



そんなに大量の睡眠薬を失くしたことがバレると、俺は会社を首になる。

 醜悪なエゴイスト。



君を黙って死なすわけにはいかない。


 偽善者。


大柄な山崎に、俺みたいに憔悴した鬱病患者が勝てるわけない。


「憔悴」
  口語的表現にしたいなら不適切。


祭りの色彩や喧騒が浮かぶ。


 「喧騒」辞書をひけ。



ヘッドフォンをしてピアノに座った。

 ピアノには座らない。


ショパンを弾く気分だった。

 弾きたい気分。


泣きながら飽きずにバラードを弾き続けた。

 「飽きずに」
  不正確。


誰かが静かに近づいて来て、俺の頭からヘッドフォンを外す。

 誰の視点なのか。


もう耐えられない! ドクターにも言われた。自殺願望には理由があるって。でも違う。俺はこの世に身の置き所がない。そういう焦燥感が原因だから。

「理由」「原因」辞書をひけ。


涙に滲んだ目に浮かぶ、ピアノに住んでいる二匹の白いヘビ。赤い目をして、二匹が絡まって、永遠の時間をかけて、四つのペニスでセックスをする。

「住んでる」「住んでいる」
「永遠の時」「永遠の時間」
 表記の統一くらいしなさい。


俺は山崎の胸にすがりついて泣き叫ぶ。

 低俗。
 不正確。
 不用。
 無意味。
 こんなところで横着するなら小説など書かないほうがいい。


俺の辛さは、製薬会社のヤツになんて分からない。ドクターにだって、ナースにだって分からない。この、ふつふつと湧いて来る自殺願望。

「分からない」じゃない。
 それを書け。
 こんなところで横着するなら小説など書かないほうがいい。


君には音楽の才能があるじゃない。素晴らしいことだ。……俺になにか弾いてくれない?

偽善者。



自殺願望は本物で、どんな薬にも治せない。勘違いなんかじゃない。

 この内面を説明的に書いてはならない。



俺は突然、ピアノを止めて、山崎のレモン色のキャリーケースにタックルした。それには鍵がかかってなくて、俺は中身を投げ始めた。

「突然」
 こんなところで横着するなら小説など書かないほうがいい。

「タックルした」
 「おろかな、内面のない人間」


俺は山崎が俺を助けてくれるなんて、全然信じてなかったけど、ヤツの言ってることは本気だって思った。

不明。
「本気で言ってると思った」?

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