戦国狐狸合戦のコピー10

どぶだが 〜戦国狐狸合戦〜(1)

   1

  朝。
  焼けた柱や板の転がるなか、男が寝ている。服装はさっきのまま、やぶれたいくさの装束。傷の手当がしてある。男、起きる。
  あたりを見まわし、夢か、という思い入れ。

  たらい、手ぬぐいなどを持って、さっきの男の子が登場。しっぽがある。小狸である。男のほうへ近づき、もう起きていることに気づく。

小狸   おはようございます。

  頭を下げる。たらいの水をこぼしそうになり、あたふたする。男、それを見ている。
  小狸、たらいなどを男の前に置く。
  男、おもむろに顔を洗いはじめる。小狸、それを見ている。

男    (顔をふきつつ)今朝は、なんだ。
小狸   へえ。

  ふところから、竹の皮のつつみを出す。それを男の前に置く。広げる。

小狸   馬のくそです。
男    なんだと?
小狸   あ、まちがえたです。
男    馬のくそを持ってきたのか?
小狸   まちがえましたです。
男    きさま、おれを化かすつもりだったか?
小狸   化かしてねいです。にぎりめしです。
男    だから、なんだと聞いている。
小狸   ただのめしであります。
男    どっちだ?
小狸   まちがえたです。
男    きさま、なにを言っとるんだ?
小狸   へい、ですから、にぎりめしを持ってきたです。
男    ……
小狸   まちがえたです。

  男、にぎりめしを取り上げる。ふたつ、両手に持って、見くらべる。片方を置いて、持っているのを半分に割り、

男    おい。
小狸   へえ。
男    これ、食え(突きつける)
小狸   へえ(受けとる)いただきます(がつがつ食う)

  男、それを見ている。また、もうひとつのにぎりめしを割って、

男    これも、食え(突きつける)
小狸   へえ(受けとる)……(男の顔をうかがい)ええんでありますか。
男    食え。
小狸   へえ(食う)

  男、小狸が口にしたのを見届けてから、おもむろに残りの半分ずつのにぎりめしに手をつける。しかし、警戒しつつ食っている。ふたり、食いつつ、

男    つまり、だな。
小狸   へえ。
男    にぎりめし、と言おうとして、まちがえて、馬のくそ、と言ってし
     まった、と、こういうわけか?
小狸   さようであります。
男    なんだ、それは?
小狸   へえ、あの、里に下りて、爺イと婆アの家で、めしをにぎってきた
です。いつものとこであります。半分ぼけとるので、気づきはしませんです、へえ。どうも、めしを炊いて、そのうちにまた眠くなったみてえで、爺イも婆アも寝とるのに、ごはんは熱くてなかなかにぎれなかったです。なんとか、二個にぎって、そしたら、川に行ったです。水をくもうと思うて、へえ、くんだです。ちべたかったです。
男    つまり、なにが言いたいんだ。
小狸   つ、つ、つ、つまり?
男    大事なことだけでいいよ。
小狸   だ、大事なこと。ええと、ええと。大事なこと。ええと、ええと。
     だ、だ、だ、だ、大事なこと……
男    (さえぎるように)よし。そのまま続けろ。
小狸   ええと、そしたら、たらいを持って山を登ってきたです。あの、足
もとが見えねえから、ふらふらしちまって、で、つかれたもんで、あの、休もうとしたら、ええぐあいにまるっこい石があったもんで、腰おろしたです。へえ、目の前に、馬のくそが落ちておったです。
男    そうか。
小狸   あの、なんじゃろうと思うて、馬のくそ、ながめてたら、ちいと、
     遅くなったです。
男    めずらしかったか。馬のくそ。
小狸   いんえ。ただ、あの、なんじゃろうと思うて。
男    そうか(めしを食い終わる)……(小狸へ)水。
小狸   ……(水筒を差し出す)
男    (飲む)……馬のくそ。
小狸   へえ。
男    馬……馬か。
小狸   へえ。
男    (立つ)どこだ?
小狸   え……あ(きょろきょろする)あ、あ、あ、あ、あ、あっち(来た
     ほうを差す)
男    案内しろ。

  小狸、めしと男をきょろきょろ見くらべ、残りのめしを全部ほおばる。のどにつまらせて、じたばたする。

男    ……川からの道だな。
小狸   ……(うなずく)
男    よし(去る)

  小狸、じたばたしつつ、男を追おうとするが、さっさと行かれてしまう。
  飲みこむ。水を口にして、ほっと息をつく。べたりと座って、男の行ったほうを見る。またしくじった、という思い入れあって、ため息。

  遠くから、太鼓の音、笛の音。以下、ずっと流れている。
  小狸、はっとして耳をすます。うれしそうに、立って、踊りはじめる。
  
  と、小狸の背後、薮で、がさがさ音がする。小狸、硬直して、そちらをうかがう。
  顔をまっ黒に塗った子供が飛び出てくる。尻に蛇が食いついている。声を上げて、小狸に向かってくる。
  小狸、びっくりする。逃げる。ふたり、わあわあ言いながら、しばらく走りまわる。子供、小狸をつかまえる。
  小狸、振り返って、子供と顔を見合わし、その顔がまっ黒なので、あらためてびっくりする。小狸のびっくりした声に、子供もびっくりする。
  ふたり、離れる。

  足音が聞こえてくる。
  
  小狸、あわてて、子供を焼け残った板の下に隠す。その上に乗る。

  思い思いの得物を持ち、大勢あらわれる。皆々、尻にしっぽが生えている。大人の狸たちである。木の皮、草などでそれらしく装備している。

  皆々、得物をつきつけ、小狸をかこむ。頭(かしら)だったものが出てくる。源五郎という。
  源五郎、合図して、皆々を下がらせる。

源五   なにごとじゃ!
小狸   な、な、な、なにごと?
源五   朝っぱらから、なにごとじゃ!
小狸   な、な、な……?
狸1   ええ、大きな声を出したのは、きさまじゃろう。
狸2   相手方の間諜か。
狸3   奇襲か。
狸4   斥候か。
小狸   な、な、な、な……?
皆々   さあ、さあ、きりきりこたえぬか。
  
  小狸、きょろきょろしている。どうしていいか分からず、泣きそうである。
  源五郎、狸の兵たちを下がらせ、

源五   (やさしく)よし、おまえは、いま、大きな声を出したのう?
小狸   へえ。
源五   どうか、したのか?
小狸   お、お、大きな……?
源五   そう、大きな声を出したじゃないか。なにがあった?
小狸   お、お、大きな、大きな……

  じれったくなる狸たちを、源五郎は手で制する。

小狸   大きな、くそが、あるです。
源五   くそ?
小狸   大きな、馬のくそが落ちてたです。
源五   ……

  狸たち、ざわざわする。源五郎、しずまらせる。

源五   よし……それなら、よし。
小狸   へえ。
源五   では、やつはどうした?
小狸   や、や、や、や、や……?
源五   (さえぎるように)人間の捕虜じゃよ!
小狸   あの、馬のくそを、見に行きました(そちらを指す)
源五   ……
小狸   ほんと、ほんと、本当であります。
源五   (狸たちを見まわす)……(小狸へ)よし。逃げたのではないな?
小狸   ねいです。
源五   よし……(狸たちへ)隊列、組みなおせ!

  皆々、得物をおさめ、整列。

  そのなかから、三人ほど狸が駆け足で出てくる。小狸と源五郎のあいだに、距離が均等になるように立つ。
  一番小狸に近い狸、小狸をじっと観察する。以下、源五郎まで報告をつないでいく。

狸1   (となりの狸へ)源五郎さまに報告。三郎狸、捕虜へ食事を配給後、
     捕虜を使役し馬のくそを偵察せしむ。現在、待機中、異常なし。
狸2   (となりの狸へ)源五郎さまに報告。三郎狸、捕虜へ食事を配給後、
     捕虜を使役し馬のくそを偵察せしむ。現在、待機中、異常なし。
狸3   (となりの狸へ)源五郎さまに報告。三郎狸、捕虜へ食事を配給後、
     捕虜を使役し馬のくそを偵察せしむ。現在、待機中、異常なし。
源五   (指さし)よし、よし、よし!

  三人、列にもどる。

源五   砦まで、行進。到着後、紅白に別れ、合戦の稽古じゃ。
皆々   おお!

  狸のひとり、ほら貝を鳴らし、別のひとり、太鼓を打つ。そのリズムに合わせて、皆々、行進。
  一番後ろの狸、こっそり小狸の頭をたたく。何人か気づいて、くすくす笑う。
  去る。

  小狸、残され、頭をおさえてぼんやりしている。笛の音、太鼓の音が聞こえる。

  また、踊る。
  やがて、泣きそうになる。

  と、小狸の下の戸板、がたがたして、ひっくりかえる。
  小狸、落ちる。たおれる。
  さっきの子供が立っている。尻から蛇をむしりとり、投げ捨てる。

子供   いきなりなんだ。この……

  おびえて、小狸、頭をかかえてうずくまる。ふるえている。
  子供、尻のしっぽをじっと見ている。おそるおそる、近づき、しっぽをつまみ上げる。

子供   この……
小狸   あわわわわわわ。
子供   狸、か?
小狸   あわわわわわわ。
子供   これ(ひょいと狸をあおむけに)なんじゃ、おまえは?
小狸   あわわわわわわ。
子供   うんとかすんとか言えんのか?
小狸   う、う、う、う、うん。
子供   狸か?
小狸   すん。

  子供、しっぽをにぎっていたことに気づき、はなしてやる。小狸、ぴょんと飛んで、ものかげに隠れる。

子供   これ。悪かった。いじめはせんから、出ておいで。
小狸   あ、あ、あ、あんた、なんだ?
子供   うん。おれはな……(棒きれを見つけて拾う)おれは、武士だよ(か
     まえてみせる)
小狸   (顔を出す)……(ひっこめる)うそじゃ。そ、そ、そ、そんな色
     の黒いお侍はいねえ。に、に、に、人間じゃねえ。
子供   ああ、これか。

  子供、たらいの水で顔を洗う。墨が落ちる。袖で顔をぬぐいつつ、

子供   どうだ。
小狸   (顔を出す)……(ひっこめる)あ、あ、あ、あ……
子供   なんじゃ?
小狸   み、み、み、見たな。
子供   (うなずく)見た。
小狸   (泣く)あ、あ、あ、あ、また、しかられる。

  小狸、すんすん泣いている。

子供   これ。泣くな。おい。これ。そうだ、おまえに聞きたいことがあっ
た。さっき言っていた、捕虜、な。その人間は、どんな人間じゃ。ええい。泣くな。しかられん、しかられん。ほら、泣いてたら分からん。なあ、その人間は(棒を頭の後ろに立て)こんな変な頭をしておらんか。

  と、さっきの男、登場。
  
  小狸、男に思わずだきつく。子供は、そのままかたまっている。

小狸   あ、あ、あ、あ、あ、しかられる。
男    誰にだ?
小狸   源五郎の大将に。
男    なぜだ?
小狸   ……(子供を指す)
男    ……(そちらを見る)

  子供、あわてて姿勢をただす。

子供   お館様! よくぞ、ご無事で!
男    ふん。
子供   まさか、とは思いましたが、やはりお館様だ。明智などに討たれる
     かたじゃない。
男    (小狸へ)こいつに見られたから、しかられるのか。
小狸   ……(うなずく)
男    そうか。狸のきまりか。
小狸   ……(うなずく)
男    まだ、しかられてないんだろう。
小狸   ……(うなずく)
男    そうか(子供へ)まあ、なんだか分からんだろうが、去れ。
子供   え?
男    狸につかまるぞ。
子供   はあ。
男    きたない餓鬼だな。里の子だろう。早く帰って畑の手伝いでもしろ。
子供   (男にすがりついて)お館様、あの、おれをお忘れで?
男    そういえば見たような顔だが、餓鬼の顔など同じようなもんだ。知
     らん。
子供   すもうをとったじゃないですか。ほら、五番ほどやって、おれが二、
お館様が三、結局負け越しちまったけど、ちびのくせに見所のあるやつだ、とか、お言葉をいただきましたよ。十年したら、とりたててやる、と。なんなら、今度の中国攻め、ついてこい、と。だから、おれは、百姓なんかよりよっぽどいい、って、それで、ととさん、かかさんがとめるのを振り切って、お館様についてきたんじゃないですか。
男   本当か。おれに二回も勝ったか。そうか。
子供  ととさん、怒ったです。かかさん、泣きました。じじいに親不孝って
    言われました。馬はくさいです。
男   まあ、とにかく、はなれろ(小狸と子供をつきはなす)

  小狸、子供、よろよろする。座る。
  男も座る。持っていた草の葉のつつみを開く。茶色いかたまりが乗っている。

  祭り囃子が、まだ聞こえる。

男   (耳をすます)祭りでもあるのか。
小狸  へえ。稽古しておるようです。
男   そういえば、ここのところ、よく聞くな。狸も、祭りは好きか。
小狸  め、め、め、め、めっそうもねえ。
男   (つつみを差し出し)いるか。

  小狸と子供に突きつける。子供、よけつつ、

子供  これは。
男   馬のくそだ。

  男、指ですくって、なめる。小狸、子供、おどろいて引く。

男   味噌だ。なぜ味噌が落ちているのか分からんが、味噌売りが山を越え
ていったか。もし、馬のくそだったら、馬が通ったということだ。誰かがおれを探しに来たか、そうでなければ、明智方がもどってきたか。いずれにしても、たしかめておかねばならなかった。大勢通ったようなあとはないな。
子供  (膝を打ち)さすが!
男   (小狸へ)しまっておけ(味噌を渡す)
小狸  へえ(受けとる)

  小狸、いい隠し場所を探している。

子供  (一歩前へ)お館様、参りましょう。
男   どこへ?
子供  味方のところでございますよ。明智はお館様を討ったと思って、一時
はいい気になっておりましたが、そうはいかない、泡を食って寺院に銀子を寄進したり、領地の地租を免除したり、やつめ、人心のはなれぬように苦心しておるようですが、各地の大名に書状をばらまいたところで、なんの、明智がごとき小物のところへ集まってくるものなどおりませぬよ。
男   すると、どうなる?
子供  すると、明智を討てます。
男   秀吉は?
子供  毛利と急ぎ和睦し、東へ。
男   なるほど。
子供  さすが秀吉どのであります。
男   おまえは、なにしてた?
子供  は……はあ……
男   まあいい……姫は、どうした?
子供  姫?
男   お濃だ。おれの室だ。
子供  あ、ああ……
男   息災か?

  子供、言いにくそう。もじもじする。ふところにちらちら見えるものに気づき、男、それをさっととる。女の着物の袖。裏返したり、さかさにしたりして、よく見る。血がついている。にぎりしめて、子供のほうへ目をやる。子供は、苦笑いをしている。

  男、子供につめより、なにか言おうとする。

  と、はげしい太鼓の音が聞こえる。一瞬、男が気をとられたすきに、子供、着物の袖をとりかえす。その子供を、小狸、押し倒す。また戸板で隠す。
  
  源五郎を先頭として、狸たち、登場。厳重に装備している。

  すぐに、反対側から、白で身をつつんだ女の一軍、登場。長刀などの得物を、こちらもそれぞれ手にしている。尻に白いしっぽ。狐たちである。
  頭(かしら)だった女、先頭でひときわでかい長刀をかまえている。おとらである。

  男、小狸をはさんで、狸たち、狐たちは対峙している。

  と、狐たちの来たほうから、小狐、小走りに登場。冒頭の女の子である。三味線を背負っている。遅れて気まずそうに、しかし、なにごともなかったかのように、狐たちにまじって得物をかまえる。

  皆々、小狐を見る。どうしようか考える間があり、結局、無視する。

源五  おとら。
とら  源五郎。
源五  女狐め。しょうこりもなく、来たな。
とら  なにが、来たな、じゃ。男どもの留守を守るのがわしらの役目。
源五  まだぬかすか。ここの山は、もともと狸の……
とら  (さえぎるように)狐のものじゃ。あとからもたもた、ずるずる、金
玉ひきずってやってきておいて、金玉ばかりか態度まででかい。
源五  この……
とら  (さえぎるように)やかましい。狸は泥の船に乗ってかちかち山にで
    も引っ越しちまえ。

  源五郎へ、口では勝てません、という別の狸のこなし。源五郎、うなずき、

源五  か……

  かかれ、と言いかけたとき、例の小狐、ばたんと倒れる。
  近くの狐、立たせてみる。源五郎とおとらが話しているうちに眠くなって、寝ていた。頬をはって、起こされる。
  小狐、はっとして、きょろきょろする。すぐに状況を察して、もとのようにかまえる。
  妙な間があって、

源五 かかれ。

  狸たち、鬨(とき)の声。狐たちも応じる。

  小狸、男、巻き添えをくってもまれつつ、殺陣がある。
  やがて、皆々、傷つき、疲れはて、源五郎とおとらの一騎打ちへ。
  互角だが、しだいにおとらが押される。おとら、追いつめられて、やっと男の存在に気づく。とっさに男をとらえて、刃をつきつける。
  小狸、悲鳴をあげる。

源五  む。
とら  そのままじゃ。
源五  ……(笑う)

  狸たちを振り返る。
  狸たちも、笑う。皆々、士気をとりもどし、源五郎の近くへ集まる。

源五  さすがは女狐の浅知恵。
狸1  運の末には、知恵の鏡もくもると言うが。
狸2  よりによって人間を盾にとるとは。
狸3  それ、いいから、やってしまえ。捕虜の一匹死んだとて。
源五  痛くもかゆくもないのだからな。さあ、やってしまえ。さあ。さあ。
皆々  さあ、さあ、さあ、さあ。

  おとら、ひるむ。
  小狸、源五郎にすがりついて、助けてやってください、という気持ち。
  狸たち、じりじり近づく。

  おとら、やけくそで、男を殺そうと長刀を振りかぶる。と、もう片手で男をつかみなおすが、まげの先をにぎってしまう。

とら  あっ……

  次の瞬間、力が抜けたようになり、うっとりする。まげの先をなでて、もだえるように、

とら  もしゃもしゃ……

  狸たち、なんだか分からないが、すきができたので、一斉に飛びかかる。

  と、戸板をぶちぬいて、子供が登場。
  皆々、びっくりして、動きがとまる。
  子供、焼けた柱を振りかぶって、おとらに打ちかかる。男、しゃがんでよける。おとらにまともにあたる。

  狐たち、はっとして、おとらのもとに集まり、倒れるおとらを支える。

狐1  とらさま!
とら  うう……もしゃもしゃ……(にやにや)

  うつろな目で、なにかなでているようなこなし。
  狐たち、顔を見合わせ、

狐2  (狸たちへ)なにをした!
狐3  ひきょうな!

  狐たち、捨てぜりふあり、おとらをかついで、去る。小狐、よちよちついていく。どさくさにまぎれて、ひとりの狐、小狐をなぐる。

  狸たち、男、子供、小狸。

子供  お館様。
男   大事ない(まわりを見る)が……

  数人の狸、男をとらえる。
  狸たち、子供をとりかこんでいた。じりじり近づく。子供、こわくなって、柱に抱きつく。

源五  なんだ、きさま?
子供  なんだとは、なんだ!
源五  いつからそこにいた?
子供  ずっとだ!
源五  里の子か?
子供  侍だ!
源五  見たな?
子供  ああ、見た!

  小狸、源五郎の着物をひっぱっている。源五郎、はらいのける。小狸、ころがる。

源五  (気づいて)む……(にらむ)
小狸  し、し、し、し、知らねいです。

  源五郎、合図して、狸たち、小狸をとらえる。
  子供、これをきっかけに暴れようとするが、狸たちに軽くつかまる。

狸1  人間をふたたび捕獲しました。
狸2  人間の子供を捕獲しました。
狸3  三郎狸、拘束しました。
源五  (指さし)よし、よし、よし。追って吟味いたす。

  太鼓の合図。
  狸たち、焼けた柱などをつかって、その場に牢屋を建築する。
  男、子供、小狸、その牢屋に放りこまれる。

  太鼓とともに、狸たち、行進。去る。
 
  日が沈んで、夜。

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