邦楽『Voiceless Screaming』(X) 二度と戻らない季節

Xというバンドはすでに語り尽くされているが、それでもなお語りたくなる。凄いバンド、とてつもない作品だと、彼らの音楽を聴くたびに思い知る。

ちゃんと聴き込む前に、僕が彼らに対して抱いていたイメージは「速い曲と、物凄く速い曲と、壮大なバラードの3パターンしかない」だった。そして、ちゃんと聴き込んだら、ほとんどその通りだった。

それでも圧倒的にカッコよく、泣ける曲ばかりだったのである。『BLUE BLOOD』を初めて聴いた時の衝撃は(アルバムでも曲単位でも)、未だに忘れられない。

そんな彼らにも、異色の作品がある。それは傑作アルバム『JEALOUSY』に収められた『Voiceless Screaming』という曲だ。

なぜ異色なのか。どんな解説の言葉も、一聴に如かずである。

とにかく美しい音色と優しいアレンジに、悲痛なボーカルと英詞。こんな曲は後にも先にも、彼らのキャリアには無い。最後のサビに入ってくるTaijiのコーラスが涙腺を揺さぶる。

彼らの作品を語るとき、彼らに起きた出来事と切り離して語ることは難しい。

あの時何があったのか。どんな思いで駆け抜けてきたのか。あの涙の理由は何だったのか。でも、どんなに語り尽くそうとも、結局それは彼ら自身にしか分からないことなのだ。もしかしたら、彼ら自身にも分かっていなかったのかもしれない。過去はいつだって、振り返って初めて見えてくるものだから。

とにかく、こんな素敵な楽曲を残してくれたことに感謝をしたい。若くて生きるのが辛かったころ、この曲に何度も救われた。同じような経験をした人も多いはずだ。

この曲を聴いているとき、二度とは戻らないものに思いを馳せてしまう。

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