ロシア語文法解説NO.6 ~無人称文を詳しく解説②~
前回に引き続き、無人称文の解説をしていこうかと思います。
おさらいですが、無人称文とは「主格の主語が存在しない文」のことを言います。
前回は、①述語副詞による無人称文 について説明しました。今回は残りの
②無人称動詞による無人称文
③特殊な無人称述語による無人称文
についてです。
無人称動詞を伴う文のことを言います。これには、以下のような細かい区別があります。
(例)
(1) Городские дороги залило дождём. (市道は雨で浸水した。)
(2) Лодку унесло ветром. (風でボートが流されてしまった。)
(3) Зимой рано темнеет и поздно светает.
(冬は暗くなるのが早く、明るくなるのが遅い。)
(4) Становится тепло. (暖かくなってきている。)
上記全ての例文で、主格が存在していません。
(1)(2)については、それぞれ影響を与える自然の力が、造格の動作主дождёмとветромであり、一方で городские дороги と лодку が対格の補語という構造になっています。無人称動詞である залить と унести が両方とも中性単数の形に変化しているのは、前回記事で既述の通り、動作主が主格ではないからです。
また、(3)(4)のように天候や気温を表現する文章では、主語が不在の無人称文であることも多いです。
(例)
(5) Меня часто укачивает в транспорте.(私はよく乗り物酔いする。)
(6) Уже неделю меня тошнит после завтрака.
(もう1週間、朝食後に吐き気をもよおします。)
(7) Ребёнка вырвало молоком.
(その子どもは牛乳を吐いてしまった。)
(8) У меня сильно шумит в ушах.
(耳鳴りがひどいです。)
(9) Постоянно першит в горле.
(常に喉がいがらっぽいです。)
(5)~(7)に関しては、主格の動作主(主語)が存在せず、ただ、体調や気分を感じる主体が対格の補語(меняとребёнка)として用いられているだけです。何か見えない力が影響を与えていると考えても良いでしょう。
一方、(8)と(9)は、日本語の感覚で考えると、「騒音を発する」(шуметь)の主体は耳(ухи)、「いがらっぽい」(першить)の主体は喉(горло)なので、これらの体の部分が主格になりそうですが、ロシア語では、耳鳴りがするのはあくまでも「耳の中」であり、いがらっぽいのは「喉の中」というイメージで捉えられます。このとき、耳や喉”自体”が感覚を覚える主体とはならないので無人称文になります。
こちらが、②の最後の項目になります。
(10) Заключённым удалось сбежать из тюрьмы.
(囚人らは脱獄に成功した。)
(11) Мне захотелось спать.(私は眠たくなった。)
(12) Нам стоит рассмотреть данный вопрос подробнее.
(我々はこの問題をより詳しく検討する価値があるだろう。)
(13) Мне пришлось отказаться от поездки.
(私はその旅を断念しなければならなかった。)
助動詞(~できる、~したい、~するべき)的な役割を果たす動詞(それぞれ大文字)が無人称動詞となります。
意味上の主語(要するに動作主)は与格になります。助動詞的な動詞の動作主が主格にならないのは、ある現象が動作主自身の明確な意志とは関係なく発生してしまうからと便宜上、考えても宜しいでしょう。
動詞 удаться(うまく~できる)、захотеться(~したくなる)、стоить(~する価値がある)、прийтись(~せざるを得ない)は、動作主の自発的で意識的な動作というより、自然発生的な生理現象であり、当事者の意思とは無関係に起こる動詞といえることからも、説明がつくでしょう。
最後のカテゴリーに入ります。
(14) Мне было жаль её. (私は彼女が可哀そうだった。)
(15) Нам жалко эту девочку. (私たちはこの女の子を気の毒に思っている。)
(16) Из окон видно пляж. (窓からは浜辺が見える。)
これらの無人称文では、無人称述語(各太文字)が対格の補語を要求します。(14)(15)では意味上の主語がそれぞれ、мне、намと与格になっており、動作主でありながら主格ではないことに注意が必要です。
いかがでしたでしょうか。無人称文にもいろいろな種類があって、最初は理解しづらいかもしれませんが、例文を語法と一緒に覚えて何回も復習することで、段々慣れてきます。ありがとうございました!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?