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2024年10月実施 第3回東大本番レベル模試 スタッフによる所感【化学】


全体概観

全体としてみれば知識問題と計算問題のバランスの取れた、問題量、難易度ともに東大本番と同等のセットだったと思います。時間をかけてもほとんど得点できないような難問はあまり出題されないものの、各大門2テーマ、計6テーマと幅広い範囲から多様な問題が出題されるため、得点を安定させるためには解きやすい問題から素早く処理していく必要があるでしょう。
 典型問題や知識問題もありますが、リード文、問題文を注意深く読むことで解ける問題も多いです。おおよその問題の解き方はすぐに思いつける状態で、残り時間と相談してどの問題を解くか選んでいけるような状態が理想的でしょう。

第1問

Ⅰ やや難

 比較的炭素数の多い分子についての問題であり、与えられた情報を適切に処理していかなければならない、思考力を求められる構造決定の問題でした。はじめに与えられた分子に関する情報を適切に整理しておくことで、その後の各手順の意味も分かりやすくなると思います。
ア フィッシャー投影式に関する出題でしたが、投影図の意味を把握していれば、与えられたフルクトースの構造式から正解を導くこともできると思います。
イ デュマの装置を用いて、窒素の体積を求める問題でした。空欄の後の文章を読んでいくことで捕集した気体が窒素であること、分子内に窒素は1原子しかないことが読み取れると良いです。先に最後までリード文を読んでおくとやりやすいと思います。
ウ 元素分析についての問題です。落とせない問題です。
エオ 構造決定の問題で、Fの構造を把握してからBの構造を考えていきます。D及びBの構造を確定するためにはAが八員環構造を持つことを踏まえる必要があり、難易度は高いようにおもいます。Bが分かれば、後はFのフィッシャー投影式を六員環構造になおせばAも分かります。

高分子の問題は慣れていない人もいるかもしれませんが、バリエーションも少なく、早いうちに身につけたい分野です。今回はスチレンブタジエンゴムについての問題で、見たことのある人もいたかもしれません。
カ ファントホッフの定理を使います。式はなるべく一つにまとめ、算ミスを防ぐため計算はまとめてするなどの工夫がほしいです。
キ 付加したBrの量を考えて分子中のブタジエンの物質量を計算します。
ク 架橋されたビニル基と架橋されていないビニル基の違いに着目した問題です。「SBRを二等分し」といった情報にも注意してケアレスミスの無いように解く必要があります。
ケ 前問までの問題の結果を総合して考えます。前の問題まで解けていれば取りたい問題。

第2問

Ⅰ やや易

起電力と金属イオン濃度の関係についての問題です。与えられた関係式はあまり見たことはないかもしれませんが、問題自体は明快で、それぞれの問題の計算量も多くはないので確実に得点したい問題です
ア 電池は電子が出るところが負極、電子が入るところが正極です。電流の流れとは逆方向であることに注意が必要です。
イ 直線のグラフの傾きを求める問題。軸の値の端が0で揃っているわけではないことに注意しましょう。
ウ イと同様に(2)(3)の式の係数を求め、起電力の値を計算する問題です。
エ 起電力の定義(説明)はリード文で2つの局番の電極電位の差の絶対値であると与えられているので、それに沿って考えればいいでしょう。知識を活用することも大事ですが、問題文に書いてあることに沿って考えることで解きやすくなる問題は多いです。
オ エがわからなくてもbの空欄を埋めることは出来ると思います。点数を拾うためにはそういったところを得点することも重要です。また、エが分かっていれば計算も足し算をするだけで済みます。

Ⅱ やや易

クロムの化合物を覚えきれていない場合には少し戸惑う場合があるかもしれませんが、聞かれていること自体は簡単です。計算問題も少ないので素早く処理したかった問題だと思います。また、今回はよくできた人でも他の無機物質に関する問題になると得点できないこともあるかもしれません。今一度、無機分野を復習してみてもいいかもしれません。
カ 錯イオンの立体異性体を考えるのはよく見かける問題です。
キ 酸化還元の反応式を書く問題です、生成物から半反応式を考えれば答えがでます。
ク クロム酸イオンに酸化力はあるものの、酢酸はそれ以上酸化されにくいことを考えれば消去法で答えがわかるかもしれません。酸化数と酸化還元の関係を抑え、またここでは酸化還元反応は起こっていないことに気付けると良いです。
ケ クロムの物質量の計算をする問題です。聞かれている内容も単純なので、素早く式をたてて解きたいところです。「答えに至る過程」については懇切丁寧に説明する必要はないですが、数式だけ、文章だけでは不十分で、両方を使って簡潔に説明できると良いでしょう。
コ キと同様酸化還元の反応式を書く問題です。緑色に変化したという記述から、クロムの3価のイオンが生じたことを読み取れると解けます。

第3問

今回に限らず、慣れない式変形や複雑な計算を問われるような傾向にあるので、慣れてしまえば得点しやすい分野にもなります。しかし、理論化学を扱う思考力を要する問題になれていない場合、苦戦することも多いと思います。

Ⅰ 標準

 ウィルキンソン触媒のようにしばしば教科書に載っていない初見のものが登場することもありますが、たいていは問題文に書いてあることを整理していけば正答に近づきます。反応過程の触媒の量的関係の把握が少し複雑だったように思います
 
ア 濃度が10分あたり2割ずつ減り続けていることに気づけば簡単です。
イ 対数の処理に戸惑って時間をかけないようにしましょう。
ウ こういった平衡定数の式を変形する問題は多いので、早いうちに慣れておきましょう。
エ ウの結果から同じ時間当たりに反応する物質量がどう変化するかを考えます。
オ アレニウスの式は有名なので、式自体は見覚えがあると思います。問題自体は反応速度定数を比較して、対数を取れば指数の活性化エネルギーが下りてきて、計算できます。

Ⅱ やや難

蒸気圧は扱うことが少ないので戸惑った人も多いのではないかと思います。また、クのようなグラフを選択する問題も理解が進んでいないと難しいことがあると思います。
カ グラフ読み取りの問題です
キ 与えられた物質量から沸点に達した時の分圧を求め、さらに質量パーセント濃度に直す問題です。単純な問題のわりに手順が多いので一つ一つ丁寧に計算しましょう。
ク 気体中のモル分率と液体中のモル分率が等しくなるというラウールの法則を使って考えます。水の分圧のほうが大きいことから、水が優先的に蒸発していくため最終的に蒸留される液体は純粋な酢酸に近づいていきます。
ケ 100字という指定から少し長めに、何点かの要素を押さえつつ解答しなければならないことを読み取りたいところです。酢酸は二量体を形成し、そのまま蒸発するので蒸発の際には分子間力を振りほどけば十分です。一方で、水の場合は各分子間に水素結合が形成されるため蒸発するためにはもう少し余分なエネルギーが必要になります。
コ 最終的に、流出する気体中のニトロベンゼンと水蒸気の分圧を考えることになります

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