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文一から教養学部へ

はじめに 
 はじめまして、東大特進スタッフの鹿子木と申します。
 受験生の皆さんの多くは、「文一」と聞くと「法学部」というワードが真っ先に思い浮かぶのではないでしょうか。実際、法学部を志望する学生の多くは文一に入学します。しかし、最近はしばしば「脱法」という単語で表されるように、文一から法学部以外に進学する学生も増えているのをご存知でしょうか。実は私もその一人で、2 年生の夏の進学選択によって教養学部に進学することになりました。ここでは、教養学部に興味を持つ受験生を後押
しするのみならず、他の皆さんにも、「どのように受験科類を決めるか」「どのように進学選択に臨むか」「進学選択のために何をするのか」といったことについて、簡単なイメージを提供できればと思います。

なぜ文科一類に入学したのか

文科一類を選ぶ受験生の動機としては、大まかに以下の 2 つがあると思います。①(法曹・官僚などを目指していて)法学部に進学したいから。②とりあえず文一を選んでおけば進学選択も有利に進みそうだから。自分は完全に後者の「とりあえず文一」パターンの人間でした。高校で模擬国連をやっていたので国連や外務省には興味があるものの、実際どんな仕事をしているのかは謎。最近人気の外資系コンサルも気になるが、経済の勉強のことは全くわからない。一方で趣味として人文系の授業も受けてみたい…と困り果てた結果、基本的にどの学部にも行きやすい文一を選んだわけです。
 「どの学部にも行きやすい」というのは、進学選択の際の底点(簡単に言えば合格最低点)に関係しています。ネットで調べればすぐヒットしますが、各学部の例年の進学選択のデータを眺めると、全体的に文一からの進学は文二・文三からの進学に比べて若干底点が低い傾向があります。進路に迷える子羊にとっては、文一を選択しておくのがひとまず無難と言えるでしょう。


なぜ教養学部を選んだのか

 こうした経緯で文一に入学した訳ですが、法、歴史、地理、心理…など様々な授業を履修した結果、最も心を惹かれたのが美術史学の授業でした。もともと趣味の 1 つとして西洋美術鑑賞が好きだったものの、大学に入って美術研究の第一線に立つ教授陣の講義を聴いたことをきっかけに、学問分野としての美術史に徐々に興味を覚えるようになったのです。そこから 2 年の夏までは、美術史研究のできる学科・研究室をいくつか探し、情報収集することに努めました。例えば、高校やサークルの先輩の伝手を辿って実際に当該研究室に所属している人の話を聞いたり、当該研究室の HP を見て教授の専門や過去の卒業論文の題目に目を通したりしました(これは大学入学前からできると思うので、意欲のある人は是非)。あとは、当該研究室の教授が前期課程で開講している授業を受けたり、1・2 年の間に複数回開催される学部ガイダンスに参加して話を聞いたりしました。自分はそこまで手が回らなかったのですが、実際に所属教授が執筆している学術書を読むというのも、研究室のイメージを掴むに当たって有効な手段だと思います。
 こうしたリサーチの結果、自分が選択したのが教養学部教養学科地域文化研究分科イタリア地中海研究コースでした(文字数…)。いわゆる「後期教養」ですが、受験生の皆さんの中には「名前は聞いたことあるけれど実際どんなところかわからない」という人も多いと思うので簡単に説明しておきます。まず、教養学部は大まかに 3 つの学科に分かれます。1 つ目は教養学科(→文系)、2 つ目は統合自然学科(→理系)、3 つ目は学際科学科(→文理融合)です。そのうち教養学科の下には 4 つの分科 / コースがあり、それぞれ総合社会科学分科(→社会科学研究)、超域文化科学分科(→人文科学研究)、地域文化研究分科(→社会科学・人文科学双方を伴う地域研究)、PEAK・国際日本研究コース(留学生中心の英語コース)となります。そろそろ頭がこんがらがってくる頃ですが、3 つの分科はそれぞれ複数のコースに分かれます。例えば私が進学したのは、地域文化研究分科の下のイタリア地中海研究コースになります。
 芸術にしろ哲学にしろ歴史学にしろ、人文系の研究に専念したいと思う人は、おそらく文学部と後期教養の間で迷うことが多いのではないかと思いま
す。ここで一応、自分から見た後期教養の特長をいくつか紹介したいと思います。
 1 つ目は学際的な雰囲気です。「リベラル・アーツ」という言葉に表される通り、狭い専門領域に留まらない、分野横断的な研究が推奨されています。そのため履修の自由度も高く、他学科や他学部の授業を受講して卒業単位に組み込むことができます。
 2 つ目はグローバル教育です。まず、後期教養のカリキュラムでは語学が中心に据えられていて、英語のみならず第二外国語、第三外国語と学習に勤しむことができます。なんと私の進学した地域文化研究分科では卒業論文を各地域の言語(イタリア地中海コースであればイタリア語 or ラテン語)で書かないといけないほどです。また、様々な留学プログラムも用意されているので、学部のうちに長期留学に行きたい人にもおすすめです。
 3 つ目には教授や院生との距離の近さです。基本的にどの研究室も超少人数なので、授業は講義よりも学生参加型のゼミが中心になります。学部生と院生合同でやることもしばしばですが、それでも全体で二桁行くか行かないかくらいなので、教授や他の学生とのインタラクションの機会はかなり多いです。こうした性質から授業外でもアットホームな雰囲気が形成されていて、駒場キャンパスにある研究室では、授業外でも学生がたむろして楽しくおしゃべりしています。
 もちろん文学部にこれらの魅力が備わっていないというわけではありませんし(特に少人数体制という点では共通する部分は大きいのかなと思います)、文学部には文学部独自の魅力があると思うので、その辺りは是非他の東大特進スタッフの進学選択体験記も参考にしつつ、各々調べてみてください。
 さらに自分は、後期教養の中でも超域文化科学分科と地域文化研究分科のどちらに行くかでギリギリまで迷っていました。先に軽く触れましたが、簡単に言えば超域文化は幅広く人文系研究をするところ、地域文化は特定の地域について社会科学・人文科学双方の側面からアプローチするところです。自分の場合は関心のある地域・時代もある程度定まっていたことに加え、社会史的なバックグラウンドと結び付けた美術史研究に興味があったので地域文化を選択しました。ただ、例えば「文学と哲学を結び付けて研究したい」「日本美術と西洋美術を比較研究したい」といったように、分野・地域横断的な人文研究に興味がある人には、超域文化がおすすめかもしれません。


進振り戦略

 「底点が高い」というイメージを持たれがちな後期教養ですが、実際は分科によってピンキリですし、少人数制という性質も相まって年度による変動がかなり大きいです。2013 〜 2016 年の文一→各分科の進振り底点を例に見てみると、総合社会科学分科は62 〜 81 点、超域文化科学分科は 63 〜 75 点、地域文化研究分科は 62 〜 68 点といった感じになりま
す(ちなみに東大生の成績の平均は 70 点強と言われています)。
 超域文化と地域文化の間で迷っていた自分としては、成績自体は 75 点くらいあれば OK だったということになります。ただ、私は院進や留学を視野に入れていたので、進学選択の先を見越してできる限り良い成績をとっておく必要がありました。そこで、「勉強に時間を割いても良いから高得点を取りたい」という人に向けて、自分なりのコツを伝授しておきます。
 よく「楽単(=楽に単位が取れる)」と言われる授業がありますが、こういったものに関しては、課題が楽なあまり 60 〜 80 点あたりに得点が集中し、90 点前後の高得点は取りにくいということが多いです。逆に言うと、ある程度骨のある授業の方が点数に努力が反映される、言い換えれば頑張ったときに高得点が来やすい気がします。とはいえここで忘れてはいけないのが俗に言う「優 3 割規定」、各授業において「優」(80 点以上)の成績が与えられるのは受講生の 3 割のみ、というルールの存在です。これを勘案すると、「下手に骨のある授業を取った結果、意識の高い学生に埋もれ、頑張ったのに優が取れなかった」という事態が想定されます。そこで私がおすすめしたいのが少人数制で行われる第二外国語の演習の授業です。あまり知られていないのですが、実は 20 人以下の少人数授業には優 3 割規定は適用されません。そして第二外国語はどうせ必修で何コマか履修しないといけないので、演習とあわせて勉強を頑張れば効率よく点を稼げます。

おわりに 

後期教養の魅力については既にいくつか挙げましたが、実際に進学してみて感じるのは、「学生それぞれが自分のペースで自分の興味を追い続けること
のできる寛容な雰囲気」です。例えば自分の学科には、外国語マニアの人、中世イスラーム史専門の人、現代イタリアの軍事史を研究している人など様々な人がいて、そうした先輩方の話を聞いたり、ときには他学部の授業にも顔を出したりする中で、のびのびと自分の興味関心を探ることができています。これは少人数学科の特典ですが、教授が学生の関心にあわせて授業を組んでくれることもあります。
 「進むべき道がわからない」という受験生はたくさんいると思いますが、まだ大学での学問に触れてもいないのに専門を決めるというのは正直無理な話だと思います。幸運にも東大には、そうした悩みを抱える学生の選択肢を広げてくれる「進学選択」制度というものがあるのですから、これを有効活用しない手はありません。この体験記が、将来「進学選択」に向き合う皆さんにとっての一つのヒントとなることを願っています。


東京大学教養学部教養学科地域文化研究分科イタリア地中海研究コース
鹿子木 渚(2019 年度入学)

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