見出し画像

2024年6月実施 第1回東大本番レベル模試 スタッフによる所感【物理】


全体概観: やや易


 全体の難易度としては近年の東大物理と比較して易しめだと思います。特に、第一問と第三問は易しく得点したい大問でした。第二問は、誘導も少なく、計算も煩雑であったため、電磁気学にかなり習熟していないとなかなか得点が伸びにくかったと思います。考察しがいのある問題ですし、試験中できなかった方も、復習では十分に時間を取り考察しなおしてみてください。実力も伸びると思います。第一問、第三問についてもいわゆる問題集で見かけるような典型問題ではないため、基礎から中心力問題やDoppler効果を理解していないと得点できない問題でした。東大では、このように一見見かけない問題ながらも基礎から考察すれば解答できるという問題が出題されますので、模試などを通じて原理的な考察から答えを導き出す過程に慣れることが肝要です。

第一問: やや易


標準的な中心力問題です。問われている事項はエネルギー保存則、面積速度保存則、慣性力など基本事項ですし、問もこれらの物理法則を用いるだけで解答できる問題だったので物理の理解が伴っていれば十分に得点を期待できる問題セットだったのではないでしょうか。
I (1) これは受験生ならば落とせませんね。面積速度保存則の理解が不十分だった方は今一度中心力問題の基礎を復習しましょう。
(2) エネルギー保存則と面積速度保存則を連立するだけですね。若干式が煩雑ですが、二次方程式なので解きたいところです。次元を意識することで計算ミスを減らせるかどうかもポイントでした。
(3) (2)が正しく解けていれば取りたい問題です。解答解説にもあるように、

を一つの(無次元)量としてみてグラフの概形を考察するのがポイントです。数学の試験とは違って、物理のグラフの選択問題では、極限や原点での傾きなどの情報に着目して消去法でグラフを選択するのは常套手段ですね。
II (1) これも落とせません。運動方程式を書くだけです。Iの後ろの小問で詰まってしまった人も、II(1)は取りたいところでした。このように理科の試験では、難易度の高い問題の後ろに簡単な問題があることも多いので、諦めずに全ての問題に目を通して取り組む姿勢が肝要です。
(2) 座標系の話に慣れていないと少し難しかったかもしれません。しかしながら、問われている事項は基礎事項です。微小量近似なども、東大受験生でしたら難なくこなしたい計算です。
(3) (2)ができたならば落とせません。
(4) これまでの問題の意味が把握できていれば容易な問題でしょう。潮汐力と隕石内部の万有引力を比較するだけですね。

第二問: 標準


標準的な平行板コンデンサーの作る静電場と力学の問題です。物理現象としては、平行板コンデンサーの作る静電場の表式や、系のエネルギー収支、電荷保存則を丁寧に処理するだけですが、そもそも式が煩雑だったり、平行板コンデンサーの極板引力をノーヒントで導く必要があるなど、コンデンサーの静電場に十分に習熟した受験生でなければ初めから歯が立たなかったので、得点が伸び悩んだ方も多いのではないでしょうか。6月のこの時期ならば、得点の難しい設問だったかもしれませんが、東大入試としては決して難しい部類の大問ではなく、至って標準的な設問です。実際今年の東大物理第二問もこれと似通ったコンデンサーの問題(しかも難易度はこの大問よりもやや難というところでしょうか)でした。得点の伸び悩んだ方は、これを機に電磁気を基礎から丁寧に復習したいところです。どれも考察のしがいがある問題ですので、解答解説も参考にしながら、家で復習する際にはじっくりと時間をかけて考察してください。
I (1) 平行板コンデンサーの極板間引力を書くだけですね。東大受験生ならばその表式は常識にしておきたいところです。
(2) 少し文字指定がわかりにくかったかもしれません。位置

ではその位置の弾性力と釣り合うような電源電圧を印加しているので、電源電圧を位置の関数として求めろ、という意味ですね。それがわかればあとは力の釣り合いを立式するだけです。
(3) グラフを書くのは簡単です。ただの三次関数なので、東大受験生ならば微分してでも概形はかけて当然ですし、解答解説にもあるような、極大極小点と変曲点の位置に関する議論も常識にしておきたいです。詰まるとしたら、状態Bの位置の判断でしょうか。この判断には物理的な考察が必要ですね。問題設定としては弾性力と極板間引力の合力を見ていることを捉え切ると、状態Bの位置が同定できますね。
(4) (3)ができたならば正答できる小問でしょう。
II これ以降は物理現象としてはコンデンサーの作る静電場とそのエネルギー収支を考えるだけで、それほど難しいことはありません。しかしながら、文字式の処理(I(2)で定まった電圧Vの、やや煩雑な表式を用いて外力や仕事を書く)の難易度が高く、ここで得点できなかった受験生も多いと思います。文字の形を見たり、次元をチェックしながら数式処理をすることが命運を分けたのではないでしょうか。
(1)  Iで求めた電圧値を用いて極板間引力を書くだけなので、物理現象としては単純です。次元も、バネ定数と長さの積という綺麗な形で書けるので、正しく計算できた方は安心できるのではないでしょうか。
(2)  この小問はやや煩雑だと思います。電荷の移動量を正しく計算し、符号含めて正しく処理するだけなのですが、あまり正答率は高くないのではないでしょうか。
(3)  系のエネルギー収支の問題です。外力の関数系が複雑に変化するので仕事は直接求めることはやや難です。バネの弾性力と電池の仕事、静電エネルギー変化を正しく符号含めて処理する必要があったので正答率は低いのではないでしょうか。定性的に、外力の仕事が正になることは見抜きたいです。符号があからさまに違う答えが得られたなら計算ミスを疑うべきでしょう。
III (1)位置エネルギーである静電エネルギーとバネの弾性エネルギーは位置のみにより定まるので、状態Bと状態Dで位置エネルギーが等しいことを見抜きたいです。そうすると、状態Bと状態Dのエネルギー収支としては、外力の仕事が運動エネルギーに代わるだけで、簡潔に解答が得られますね。しかしながら、これまでの状況を的確に把握できていないと解答できない問題だったため、正答率としては低いでしょう。試験中は飛ばしてしまった方も、また復習する際によく考察してみてください。
(2)電源電圧が文字として与えられているので、これまでの小問が正答できなかった方でも解答できる問題でした。電流の定義などを正しく押さえれば解答できる問題だったので、これまでの問題を正答できなかった方も取りたい設問でした。

第三問: やや易


Doppler効果に関する問題です。誘導も丁寧で、問われている現象も単純なので得点できた方も多いのではないでしょうか。初めの微小量に関する近似も難なくこなしたいところではあります。東大を目指す受験生であれば、微小量近似は微分を使って簡潔に解答できるようにしてしまっても良いと思います。問われている現象は、結局音源の速度の視線方向成分(観測者に向かう方向の成分)がどうなるかといったことのみであり、きちんと取りたい問題でした。
I 誘導に従っていき微小量近似を行うとDoppler効果の表式が出るといった話でした。Doppler効果を原理から考察したことがある人ならば正答したい設問でした。近年の東大では誘導つきの設問も多いので、丁寧に誘導に乗り小問を解答できるような訓練を積むことも肝要です。とはいえ、結局最後のキでは、音源の速度の観測者に対する視線方向成分(AとBを結ぶベクトルと平行な成分)をみているだけなので、結果が合っているかの考察まで行いたいところでした。
II Iが正しく解答できていればあとはその表式を考察するだけです。(1)は取りたいです。(2)は丁寧に考察しないと計算ミスなど起こる問題でした。横軸がt’で書かれていることも注意です。そこら辺に十分に気をつけられれば数学ですね。
III IIができていれば、同様の考察を行うだけですね。これまでがきちんと考察できていたならば取りたい問題です。
IV (1)これはこれまでの問題ができていない人でも取りたい問題です。要は時刻の原点をずらしたことに対応します。関数の引数の意味などをちゃんとわかっていれば取れる問題でした。試験中混乱してしまった方はもう一度丁寧に考察し直してみてください。
(2) 少し解答の方針がわかりにくかったかもしれません。幾何学的性質をうまく使って解答することがポイントでしたが、現象としてはBとCがAを挟んで反対方向にいてかつ、PとCからAを見込む角度が90度となる条件を立式するのみでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?