📗久布白落実の生涯　廃娼ひとすじ（2）

【落実の結婚】

明治43年（（1910年）落実はシアトルで
熊本出身の久布白直勝と結婚しました。
同郷の直勝30歳、落実は27歳の時でした。

結婚後、サンフランシスコ大地震が起き、
避難地となったオークランドの日本人街の売春宿で、
自分と同じ年頃の娘たちがあたかも自らの意思で
売春をしているという振る舞いに大変驚きました。

アメリカに輸出される売春の根は深く、
日本の社会や政府が、貧困のために
娘を売り飛ばさざるを得ない親、
公認人身売買の制度であることに深く憤りを感じました。
そして、のちに女性開放運動に駆り立てる原動力となりました。

4年間のシアトルでの生活で、
夫直勝の間に長男の明と次男の正が生まれました。
大阪教会から正式に牧師招聘を受けた直勝は
落実と二人の息子を伴い大正2年（1913年）に帰国しました。

大阪では待ち望んだ長男との同居を喜ぶ姑の夏子とともに
幸せな毎日を送り、教会の布教活動も順調に行くと
思われたのも束の間、
引越して半年も経たないうちに、
直勝の肺結核が再発し、
その頃生まれた三男の三郎を連れ、
環境の良い高松に転居することになりました。

さらなる不幸が襲います。
オークランドにいる父真次郎が大正3年（1914年）に逝去、
追い討ちをかけるように
次男正が疫痢で急死してしまいました。

【不幸を超えて】

高松で過ごす落実の唯一の楽しみは
東京から届く矯風会の機関紙『婦人新報』
を読む事でしたが、
公娼制度撤廃の記事に触れ、
廃娼論を書き、矯風会へと送ります。

これがきっかけとなり、夫直勝の協力を得て、
落実は一家をあげて上京し、
大叔母矢嶋楫子が会頭を務める
日本基督教矯風会の総幹事に就任しました。
大正5年（1916年）落実33歳の時でした。
以来、公娼制度撤廃まで
精力的な活動を展開していきました。

【婦人選挙権獲得への道】

不幸はまだ続きます。
大正9年（1920年）夫の直勝が逝去。
その直後に長女民子が誕生しますが、
民子も大正12年（1923年）幼くして
急性肺炎で呆気なくあの世へ旅立っていきました。

そのような悲劇の中でも怯まず、
落実は廃娼運動のほかに
婦人の選挙獲得運動にも力を注ぐようになります。

大正11年（1922年）フィラデルフィアで開催された
第11回矯風会世界大会に出席して、
廃娼運動についてのスピーチを行いました。
そして同年、婦人参政権問題の研究のために
アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、スイスなどの
ヨーロッパの国々の視察に出かけました。
長女民子の死は、そんな多忙な中での不幸な出来事でした。

そして大正13年（1924年）、
婦人参政権獲得規制同盟会が設立され、
落実は総務理事に就任しました。
この時、一緒になってこの運動を
盛り上げていったのが、
市川房枝でした。

彼女は87歳まで参議院議員として活躍して、
1981年に現職のまま亡くなった真の
女性解放運動家でした。
第二次世界大戦後、ようやく
婦人参政権を得ることができたのです。

【公娼制度撤廃と売春禁止法の設立】

売春制度の廃止は明治15年（1882年）に群馬県から始まり、
第二次世界大戦前までには23県、
終戦時には35県になっていました。

日本は戦争に敗れ、GHQ（連合国軍総司令部）は、
売春公認の根拠とされる娼妓取締規制を廃止ました。
これは内務省が発令していたのでした。
この第一条は「18歳未満の者は娼妓たること得ず。で、
18歳以上になったら娼妓になっても良いということです。
この第1条の削除こそが落実が追い求めてやまないものでした。

そして、昭和22年（1947年）に
「婦女に売淫させる者等の処罰に関する勅令」が施行され、
昭和27年（1952年）政令とすることに成功。
こうして、明治以来続いてきた公娼制度に
終止符が打たれました。

昭和31年（1956年）に売春禁止法が国会通過。
昭和33年（1958年）4月施行。
施行日4月1日午前0時、
これまでなんとか売春の営業を続けてきた
全国の赤線地帯の灯りが一斉に消えました。

落実たちの「公娼制度廃止」という信念は
80年の及ぶ長い道のりを超えて
ついに成し遂げられたのです。

【晩年の落実】

小さな身体にファイトを漲らせた落実は
人生最後まで女性の地位向上のために働き続けました。

大きな重い使い古した鞄、
中には聖書、本、ペン、インク瓶が入っていました。
少しの時間も無駄にせず、
揺れる汽車や船の中でも執筆、読書を怠りませんでした。

粘い強い活動の原動力は「朝の祈り」にありました。
毎朝、聖書を５か国語、
日本語、ギリシャ語、英語、ドイツ語、中国語
で読みました。

昭和37年（1962年）
日本キリスト教婦人矯風会会長に就任しました。

なんともすごいことに、
80歳になって神学校に入学死、
83歳で牧師の資格試験に合格しました。

私の叔父がその大きな鞄もちをしたのは
矯風会会長をされていた時だったと思います。

そして、昭和47年（1972年）10月23日、
心不全のため、89歳10ヶ月の生涯を閉じました。

その1ヶ月後の11月26日に
私は母を亡くしました。

今年で没後50年となります。

多くの先達のおかげで
日本の女性の地位は向上しました。
そしてジェンダーによる男女の差別を解消しようという
時代を迎えています。

私たちはどう生きていくのか。
平和とは何かということは
終わることのないテーマです。

おばあちゃんでもできることを
最後の時まで取り組んでいきたいと思います。

📕久布白落実の生涯　廃娼ひとすじ（1）｜世古壽實 ｜note

参考文献　
廃娼ひとすじ　久布白落実著　中公文庫
近代の山鹿を築いた人たち010 久布白落実　山鹿市教育委員会教育部文化課

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