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現役ボーカルミキサーが教えるMIX師になるための基礎知識

歌ってみたをサウンド面から支えるMIX師。そんなMIX師になるために必要なこととは一体なんなのでしょうか?今日は現役でボーカルミックスをしている僕がいくつかのステップにまとめました。

この記事を読むことでMIX師として依頼を受けていくために必要なスキルや、スキルアップのための方法を知ることができます。

Step1:MIXをするのに必要なものとは

MIXをするためにはまず必要なソフトがあります。ここでは、しっかりと「人の作品に責任をもてる」だけの環境を基準に紹介していきます。

メインに使うDAWソフト

DAW (Digital Audio Workstation)とは、音楽編集をするためのコアソフトウェアです。録音したりエフェクトで音を加工したり諸々の作業を行います。

Pro tools、Logic、Studio one……など、さまざまなソフトがあります。どれを使うかは使う方自身の好みや使用状況によって変わってきます。

僕のおすすめは「Cubase」というDAWです。自分の使いやすいようにカスタムがしやすいことと、使っているユーザーが多いので情報を豊富であることが理由です。

中には無料のソフトも存在しますが、機能が乏しい場合もあります。ただ、自分以外の人にMIXを提供するのであればおすすめしません。これはできて当然のレベルが下がってしまうからです。

ノイズ処理に使うソフト

何も持っていない状態であればizotopeのRX Essencialを手に入れましょう。歌のノイズ除去であればとりあえずなんとかなります。ただ、それだけでは消せないものもありますので、適宜アップグレードしていく必要はあります。

ボーカルエディットに使うソフト

MelodyneやAuto-tuneなど補正のできるソフトを使います。僕のおすすめDAWであるCubaseでならばVariAudioという補正機能がついています。最新版でさらに扱いやすくなったので便利です。

僕はMelodyneとVariAudioを使っています。歌ってみたのように細かい補正が必要な場合が多いです。その環境下において、これらのソフトは大変重宝します。

音を調整するためのプラグイン

イコライザー、コンプレッサー、リバーブなどの音を調整するためのプラグインも必要になります。こちらは、最初のうちはDAWについているものでかまいません。

ここまでで、追加購入する予算が残っているのであれば、izotopeのOzoneを買いましょう。最後の仕上げに使うツールなのですが、半自動でいい感じにまとめてくれます。下手に自己流でいろいろやるよりも、平均的なサウンドを簡単に手にいれることができます。

Step2:全体の流れをつかもう!MIX師の主な作業内容

MIX師は数多くいますが、やってることに大きな違いというのはあまりありません。全体の流れについてはある程度きまってますので、ごく一般的な流れを紹介します。

ノイズ処理

歌ってみたの大半は、歌い手さんが自宅で録音した素材をあつかうことになります。そのため、さまざまなノイズが歌に混ざってしまっていることがほとんどです。

サーって聞こえるホワイトノイズ。ブーンって聞こえる環境ノイズ。
本来無音であるべき場所にもこういったノイズというのは混ざっていることがあります。最初に処理するのはそういった無音部分のノイズです。

そして、そのノイズを除去するだけでもずいぶん仕上がりがよくなるのです。

ただ中には声が録音されている部分にどうしても消したいノイズが混ざってしまっていることもあります。そういう時は1音単位での処理をしたり専用のノイズ除去ツールを使って音をきれいにしていきます。

izotopeのRXシリーズが定番です。さまざまなノイズにアクセスすることができて、素材から消したいノイズをピンポイントで除去することができます。

ボーカルエディット

歌ってみたのミックスでとても大事な作業がボーカルエディットです。ボーカルの音程やリズムをなおしていきます。

まずはリズム補正です。フレーズ単位でおおまかにそろえていきます。そのあと必要であれば言葉単位でリズムをそろえていきます。

次に音程を補正していきます。主にベースとハーモニーに意識しながら正しい音程に合わせていきます。この時、補正ソフトに正しい音程の線(グリッド)が行事されているのですが、視覚的にあわせておしまいだとちゃんと音程が合わないことがあるので注意が必要です。

ボーカルとインストのバランス取り

ノイズ処理、ボーカルエディットが終わったらいよいよMIXのはじまりです。いろいろなプラグインを駆使して音を作るイメージがあるかもしれませんが、大事なことは2トラックの音量バランスをととのえることです。

歌が大きすぎたり小さすぎたりせず、聴きやすいバランスに仕上げることが。これがMIXの本質です。いろいろなエフェクトを使うのは、適切なボリュームにした上での話になります。まずはしっかりとバランスをとったうえで、より細かく音を整えていきましょう。

Step3:MIXで使う道具の使い方を覚えよう!

主に使う場面の多いエフェクトツールを中心に簡単な使い方をまとめました。エフェクトはあくまでも道具です。ちゃんと使いこなしてはじめて効果を発揮するものです。

イコライザー(Equalizer / EQ)

低い音から高い音まで、周波数ごとに音量を変えることができるツールです。

例えば、高音よりも低音が大きいと音がこもって聞こえます。これを解消するには、EQで低音部分だけ音量をさげればいいのです。

また、音には倍音というものが含まれています。その倍音によって僕たちは音色を聞き分けています。人の声にも倍音が多く含まれているのですが、そのバランスによって聞こえ方が変わってきます。そのバランスを整えるのにもEQは大変重宝します。

コンプレッサー(Compressor / Comp)

コンプレッサーは時間軸で変化する音量を整えるツールです。

音楽を聴いていて、いきなり大きい音がなったらびっくりしますよね。実は録音したての歌ってそれに近い状態なのです。しっとり歌っているところは小さく、声を張り上げているところは大きく。

コンプレッサーで、大きくなりすぎる部分を押さえて、小さいところとの音量差をなくしていきます。

各パラメーターは、大きい音をどう小さくするかをきめるためについています。
よくあるパラメーターと各機能は次の通りです。
・スレッショルド:コンプに通す音量の指定
・レシオ:元音に対してどれだけ音量を下げるか
・アタック:どのくらいの時間でレシオで設定した音量まで下げるか。
・リリース:コンプが解除されて戻るまでの時間

スレッショルドで設定した音量よりも大きい音がなったときにコンプは動作します。それぞれのパラメーターはその大きい音をどうやって小さくするかを決めるためについているということを覚えておいてください。

リバーブ(Reverb)

家で音楽を聴くのと、ホールで音楽を聴くのではどう音が変わるでしょう?
それぞれの音の違いがイメージできたあなたは、とてもいい耳をお持ちです。

人は音の響き方でその空間がどの程度の広さなのか認識することができます。遠くでなっている音や近くでなっている音を識別できるのも、この機能があるからです。

リバーブではその響きを擬似的にコントロールしていきます。

録音しただけの歌はとても距離の近い音になっています。例えるならばあなたの耳元で歌っている状態です。

音から人間は距離感をつかめてしまいますから、耳元でずっと歌われては疲れてしまいますよね。そこで、リバーブを使って歌っている場所を調整します。

リバーブタイプを選んで、空間がどういう特性なのかを指定します。そして、ER (反射音)とTail (残響音)を調整して空間の広さを指定します。

Room系のリバーブで反射音を足すことで聞き手の耳元から正面に歌い手を移動させます。そして、Plate系のリバーブで少し残響を残すことでよりリッチな響きにすることができます。

どんな場所でどんな響かせ方をするかを決めていきましょう。

ディレイ(Delay)

ディレイは元音から遅延して同じ音が再生されるエフェクトツールです。音のイメージとしてはカラオケのエコーや、やまびこのような音です。

使い方は2種類あって、特殊効果を狙う場合と隠し味的に使う場合とがあります。今回は隠し味的な方法を紹介します。

ボーカルトラックにうっすらとディレイをかけます。音の間隔は短めに設定します。そうすると、細かいリズムのブレがおさまり、うまく聞こえるようになります。

もう1つはディレイでステレオ感を増やす方法です。音の間隔はすごく短めに設定します。10~50msくらいです。そして、左右交互になるモードにします。ピンポンディレイと言います。

フィードバックは0にして、ディレイ音は左右1回ずつだけなるようにしましょう。そうすることで、真ん中で元音がなるのとほぼ同時に左右でも音が鳴る状態になります。

そして、最後に左右の幅をせばめて元音と一体感をもたせましょう。こうすることでイヤホンやヘッドフォンでもボーカルが埋もれなくなります。

もちろんこちらもディレイ音はうっすらと重ねる程度で大丈夫です。

Step4:確実に上達するMIXの練習方法

MIXはやればやるだけ上達しますが、よりクオリティをあげていくための練習方法を紹介します。これからMIX師になるみなさんは、普段からこれから紹介することを頭に入れながらMIXしてみてください。

すでに活動中の方でも、自分のMIXに疑問がある場合は解決の糸口を見つけることができるでしょう。

人気のある作品を分析する

よく自分の音が良いのか悪いのわからないという人がいます。これって、技術以前に完全なインプット不足が原因なのです。まずはお手本になる音をちゃんと聞く。そして、しっかりと音を分析する。

頭では大切なことだとわかっているのにもかかわらず、ちゃんと取り組むことができている人って少ないのが現実です。これは手を動かして音が変化していく様をみている方が快楽を感じるからです。

しかし、自分のなかに指針がないまま音を作っていっても、それはゴールのないマラソンを走っているのとかわりません。それではゴールできませんよね。ですから、まずしっかりと向かうべき先を自分自身が知るためにもお手本とする音源をよく分析する必要があります。

主に分析したいところは、声とオケのバランスと周波数分布です。

ここでとても大事になるのが「スペクトラムアナライザー」と呼ばれる分析ツールです。周波数の分布を視覚的にとらえることができるツールです。これをつかってお手本の音が、どういう状態になっているのかしっかりと分析します。

音の質感をそろえられるようにポイント別に真似してみる

お手本にする音源がきまったら、次は自分の手がける作品の音を似せていきます。このときに真似していくポイントは2つあります。

1つ目はイコライジングで音の質感をそろえていくことです。低音域・中音域・高音域の3つにざっくりと分けて、それぞれをお手本音源に近づくように調整していきます。そして、自分のMIXも同じようなバランスになるようにするのです。

音だけ聞いていてもわかりにくい部分が多いのですが、こういったツールを使うことでより正確に音をモニタリングしていくことができるのです。

2つ目は音の存在感をそろえていくことです。声というのは時間軸での変化の大きいパートです。言葉や音程によって聞こえやすさが変わったり、抑揚によっても存在感が変わったりします。しかし、聴きやすい音源というのは、ボーカルの存在感がつねに安定している状態といえます。

そういったバランスになるようにしっかりと調整する練習をします。

必要以上にダイナミクスのある素材であれば、GAIN調整で音量差を減らす。コンプを使ってアタックをそろえる。こういった調整をしながら、お手本の存在感に近づけていくのです。

実際にミックスの依頼をこなしていく

百聞は一件にしかず。その言葉のようにいくらMIXの知識ばかりを増やしていてもそれだけでは実力は磨かれません。とにかく、責任を負った状態で1曲ちゃんと仕上げることでたくさんのことを学ぶことができます。

人の曲をMIXするということは、自分の価値観だけで作業をできなくなるからです。それによって、想定していなかったトラブルも起こるかもしれません。思ったように音を作ることができない場面もあるでしょう。

その一つ一つの課題に本気で取り組み乗り越えること。そのつみ重ねがあなたを成長させるのです。基本操作くらいの知識が身についたら、もう外の世界へ飛び込む準備はできています。どんどん実践でスキルを磨いていきましょう。

まとめ:MIX師には誰でもなれるが、その先が大事

MIX師になるためには、資格はいりません。宣言したらもうそこからキャリアをスタートさせることができます。ただ、その先が問題です。

・どんな依頼にも応えられるようにスキルを磨く必要があります。
・依頼が定期的にくるように運営する必要があります。

どちらの課題もクリアするためには、実践環境で定期的にMIXをすることがベストだと僕は考えています。そのためには、しっかりと依頼をしていただける信用作りも大事になります。

そのあたりのブランディングの方法については、別記事でまとめてますので時間のある時にでもご覧になってみてください。

最初は不安もあるかもしれませんが、1歩踏み込んだらとても楽しい世界がまっています!一緒に盛り上げていきましょう。

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