フラワーマーケットのデザイナーズノート

このゲームは花市場の競りシステムに着想を得たゲームです。
このゲームを作り上げるまでのデザイナーズノートを書きます。

ゲームの着想

花の競りでは、ダッチオークションと呼ばれる競り下げ式の競りを使うことがあります。
競りの対象とする花がオークショナーの前に所期価格とともに展示されます。その後、30秒間ほどの間に価格がどんどん下がっていき、オークショナーは適当なタイミングで入札し、そのときの価格で花を仕入れるのです。
このシステムを聞いたときから、「うまくボードゲームに落としこみたいな」と思いました。競りというと、値をじりじり上げていき、これ以上値を上げる人はいないか確認して、いなければ落札。お金を払って、お釣りをもらうという手順が普通です。これですと結構時間がかかります。そうではなく、スピーディな競りをメインシステムに据えたら、それはゲームとして出版する意義があると考えました。そして、どうしたらスピーディーに出きるかを考え続けました。
それで考え付いたのが、いまのフラワーマーケットのシステムです。

  • 競り下げ式の競り値を1~4になるように調整した。

  • お釣りの計算する手間を省くために、購入の際はその価格のコインを受け取るようにした。

  • 買う度に値が下がるのは煩雑なので、グループごとに値が下がるようにした。

システムとフレーバーの融合

最初はコインを1金、2金と呼んでました。このコインを「借金トークン」と明示的に表すようにしたのは校閲のぼーずさんのアイディアです。これにより「信頼はあるけど金はない」というキャッチフレーズがうまれ、このゲームの核となるシステムが完成しました。何度も何度もテストプレイを重ねてシステムを作り上げ、最後の最後にシステムとフレーバーが噛み合った感じです。
校閲校正をしたのは2022年の冬ですので、時を少し戻しましょう。

ディベロップを再開した理由

最初にテスト用のテストプレイキットを作ったのが2017年で、ダッチオークションを核としたゲームシステムは2018年頃にはできていました。ただ、カード枚数が多く、使用する花の種類なども決めきれず、3年ほど放置していました。
時はすすんで2021年の秋。ゲームデザイナーのmor!さんが『スタンピード』という競りゲームを発表されました。これが面白い競りゲームでして、自分も競りゲームを作りたいという欲望が湧いてきました。その欲望を「フラワーマーケット」の開発にぶつけました。

ゲームのテーマ

ダッチオークションをシステムの核に据えるので、テーマは花にしようと決めていました。
ただ、どの花を使うかはかなり試行錯誤しました。バラやチューリップを登場させることは決めてましたが、それ以外の色と種類を決めるのにだいぶ時間をかけました。
白の高級な花を登場させたかったので、最初は胡蝶蘭を考えていましたが、他の花と組み合わせにくかったのでユリに変更しました。
赤とピンクの花を登場させたかったので、最初はカーネーションを考えてたのですが、バラに似ているのでどうしようかずっと考えてました。コスモスを思い付いたときは嬉しくなりました。
不可能の花言葉で有名だった青いバラの影響で、希少価値の高い色は「青」にしたいと思ってました。(最近は青いバラの花言葉は「夢かなう」らしいですが)。しかし、青い花がなかなか見つかりません。花の図鑑を何度も何度も読み込んでガーベラを見つけたときは「これでゲームが出せる」と安堵しました。

ゲームのアートワーク

開発を本格化させるにあたり、アートワークをことり寧子さんにお願いしました。ことり寧子さんは「チューリップバブル」というゲームで、リアルなチューリップを描かれており、花のゲームを作るならこの人と決めていました。
「リアルなタッチで花のイラストを描いていただけませんか」とことり寧子さんに依頼したところ、「チューリップバブルと差別化を図りたいから、リアルな花はやめて、水彩画風はどうでしょう」という回答をいただきました。思惑が外れ、一瞬戸惑いましたが、花の絵はことり寧子さんにお願いしようと決めてましたし、アートワークの方が描きたいものの方が良くなると思ったので、ことり寧子さんのご提案どおり水彩画風のテイストでお願いすることにしました。

ゲームの物語性

花カードを集める指針となる店長カードも、試行錯誤の末、完成しました。花カードに種類と色の2軸を持たせることで、宝石の煌きとの差別化を図ろうと思いました。ただ、3種類以上の組み合わせはわかりづらくなるだろうと考え、かなり絞り込みを行いました。その絞り込みの指針が店長の性格です。
ピンクが好きな店長という性格付けを行ったキャラのカードには必ずピンクが入ってますし、バラ好きの店長のカードには必ずバラが入ってます。サラリーマン風のキャラは本社の指示で安く花を買いつけるイメージにしました。サラリーマンはテストプレイを重ねるなかでプレイヤーを救済する形で作ったキャラですが、物語に深みが出たと思っています。
このキャラ付けのお陰で、ピンク好きな店長はこのゲームの主人公的な存在で描いてくださいとか、バラ好きの店長は口ひげを生やしていて特徴的な感じで描いてくださいなど、イラストの指定も具体的にできました。
ゲーム慣れしたプレイヤーを対象と考えていたので、店長カードの人物は当初いかつい顔をした人物を想定していました。しかし、店長カードもことり寧子さんに描いてもらうことで、全体的にふんわりとしたゲームになりました。

フラワーマーケットのテストプレイ

元々は2022年の秋に発売しようと思っていたのですが、2022年はガニメデ戦記を優先したので、フラワーマーケットは半年間販売を遅らせました。ただ、その間もテストプレイは継続しており、その間にいただいたアドバイスでブラッシュアップをかけることができました。
たとえば、矢沢さんからは「さとーさんがターゲットとする層には難しくないですか」というアドバイスをいただきました。それから考えに考え、必要だと思っていた要素を思いきって削りました。元々は倉庫といって、ふた月目に持ち越せるカードの枚数を増やせる要素があったのですが、それをバッサリ削りました。これにより、切れ味が鋭くなったと思います。
また天岩庵の店主さんからは「宣伝力はリセットできた方がいいですよ」とアドバイスをいただきました。これならも宣伝力競争に乗り遅れたプレイヤーもふた月目からやり直すことができます。
ボードゲームはできたと思ってからが勝負で、どれだけ粘り強くディベロップできたかがゲームの面白さを左右するのではないかと思っています。
テストプレイには息子の英瑠や、いつも励ましてくれるリゴレの店長、楽しそうに話を聞いてくれる227の店長、たくさん感想をくれるレゴラスくん、テストプレイの機会を作ってくださる外さんや松永さんなど、たくさんの方に協力いただいています。この場を借りてお礼を申し上げます。

謝辞

このゲームを作るにあたり、上記以外にもたくさんの方々にご協力いただきました。
アートワークへ的確なアドバイスをいただいた長谷川登鯉さん。
花業界のお話しをいただき、世界観のリアリティを向上してくださった旭ボードゲーム研究会さん。
動画を作ってくださった高島さん、ひみつりさん、ボドゲ家族さん、隠れ家の店長さん。
英語への翻訳を行ってくださったサイゴウさん。
すばやい対応と完璧な印刷をしてくださる富綱印刷さん。
そして、遊んでくださるみなさま。
今回もホントに多くの方々に協力をいただきました。みなさんのお力がなければゲームは完成しませんでした。本当にありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。

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