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忘れられない友へ

学生時代の後輩で、ちょっと面白い人がありました。文学部で詩作をしている人でした。学生の時、自費出版で詩集を出しました。私も曲を自分で作ったりしていましたので、何となくお互いの作品をよく理解できないまま、学生時代は過ごしていました。卒業して後、私も医者になって忙しく、しばらく音信不通になっていました。
卒業して10年くらい経った頃、久しぶりに彼から声がかかり会いました。「あの時の彼女は実は妄想なんです。」と言われて、驚きました。実に実在の人物のように、事細かく記載されていたのです。でも、後で思うと彼らしくて微笑ましくなりました。その時は、年上の女性と一緒にいました。
それからまた10年くらい経った頃、電話がありました。いつも素っ頓狂な声で明るく話をするので、現実味がないのですが、なんと血液の難病に侵されてしまったということでした。最初の治療でうまくいかず、二回目の治療を受けているということでした。また頑張りますと連絡がありました。その後、断続的に電話連絡がありました。一年くらい経った頃、もう駄目だと思って投与した薬剤が効果があり、回復して退院したということでした。病気の厳しさがわかるだけに、私も我がことのように喜びました。
ある研究会で、遠方から講師で来ていた医師が名前から主治医かも知れないと思い、彼のことを恐る恐る聞いてみたところ、向こうから「お知り合いですか」と驚いて尋ねられました。治療に苦労しているようでした。何とか今寛解しているが、予後は厳しいだろうということでした。その後、再発して入院したという連絡が最後で、彼からの電話連絡は途絶えました。彼は携帯電話は持っていませんでした。毎回、公衆電話からかけてきてくれたからです。
それから10年以上は経ちますが、今でもまだ、彼からの連絡をどこかで待っています。


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