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2022 夏休みの読書 ➀

キリがない仕事。どこかでキリをつけないと夏休みがやってこない。
15日から3週間、実習先訪問が延べ18回予定されている。実習先で学生と会えることはとてもうれしいことだ。しかし、実習先訪問が終わると後期が始まる。こうして約20年間、まとまった夏休みが取れない夏を過ごしている。

今日と明日は仕事をしない。と言っても、ゼミ学生の卒論相談をオンラインで取り組む。2週間ほどしか会わないだけなのに、日常が「密」なだけに楽しみでもある。しかし、キリのない仕事は棚上げして、2日間は仕事に関係ない読書の時間にすることにした。ちょうど台風が直撃する週末は外出したい誘惑も押さえられて、インドアの時間を静かに過ごせそうだ。

知人から紹介してもらった詩集を読んだ。それも、ぼくにとっては初対面でよく知らない詩人の詩集だ。

ハン・ガン(韓江)『引き出しに夕方をしまっておいた』CUON、2022.6.30

「セレクション韓・詩」シリーズの第1巻として編まれた詩集だ。韓国の詩人の詩を読むことは本当に久しぶりのことになった。ハン・ガンは光州市生れの52歳の女性詩人。訳は、斎藤真理子ときむ・ふなが担当している。

詩を読み進めていくと、ひどく内省的になりつつも、それは陰気な気持ちになるのではなく、自分の奥底にある割りきれない思いをありのままに認められる気分になった。鼓舞する、煽る言葉は何ひとつないので、いやないからこそ、知らないうちに手にしている何かの傷つきと癒されない悲しみを認められるように感じた。ハン・ガンの言葉は、ハン・ガンの世界へ向けられている。しかし、彼女の言葉は、自分のなかに入ることで、ハン・ガンからではなく、自分から自分へ語りかける言葉に変わり、静かに広がり染み渡り、何とも言えない清々しい気持ちになる。不思議な感覚だ。お気に入りになった多くの詩から「明け方」の一節を紹介しよう。

(略)
いっせいに外灯が消える時間
薄氷がいちばん硬くなる時間

薄明を避けて降り立つところは みな
光ろうとしてもがくかけら、かけらたち

ああ 明け方、
夜とおし洗われ やっと凍りついた
いつもそこで目を開けている悲しみ、
悲しみに捧げる 私の
行き生きした血管を、鼓動の音を

訳者の、斎藤真理子ときむ・ふなの対談「回復の過程に導く詩の言葉 ー訳者あとがきにかえて」は詩人ハン・ガンの秀逸な紹介になっている。対談の最後の2人のやりとりに、自分の感じていることを表現してもらったような気分になった。ハン・ガンの他の詩集も読んでみようと思っている。

〈きむ・ふみ〉
… ハン・ガンという作家は、詩に支えられていると言えるかもしれません。… 詩の言葉は、彼女のもっと内密な自分自身の声に正直なものですね。詩を書くことで心身のバランスや問いを直視し続ける力を回復していく、それは読む側も同じだと思いました。
〈斎藤真理子〉
… ハン・ガンの詩は読んでいるこちらにじわじわ染み込んできて、染み込んだときにはよくわからないのですが、あとで気づいてみると、ひとつひとつの言葉が自分の記憶に触れて、回復の過程に導いてくれているようなんです。…

いい詩集だった✨
書名がとても素敵だ😊

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