見出し画像

守りのDX。達成目標に生産性指標活用

 D X推進の目的は、企業の「競争優位性の確保」にあります。こう示されると、何か競争優位性確保のため新たな取り組みを行わなければならないと考えてしまって、ハードルが高くなってしまいます。
 従来から実施している「社内業務の効率化や省力化」を実現させるデジタル活用(IT化)も、目指すべき姿を明確にして取り組めば、立派なDXと言えます。このようなD Xは、「守りのD X」と呼ばれています。
 「守りのDX」を推進する上で、注意すべきと考える点と全社的にDXを推進する上で有用な指標となり得ると考えられる「生産性」について、記載したいと思います。

「守りのDX」推進上の留意点

 (株)NTTデータ経営研究所が、「日本企業のデジタル化の取り組みに関するアンケート調査」の中で、DXを「攻めのDX」と「守りのDX」に区分しています。「守りのDX」は、「自社でコントロールできる改革的なテーマ」とあり、①業務処理の効率化・省力化、②業務プロセスの抜本的改革・再設計、③経営データの可視化によるスピード経営・的確な意思決定の3ステップと定義しています。
 「顧客を中心としたステークホルダーや自社だけでなくエコシステムも巻き込むテーマ」とある「攻めのDX」に比べると、自社だけで進められる点で、取り組み易いものだと考えます。

 「守りのDX」を進める上で、留意すべき点があると考えます。従来のデジタル活用であるIT化も「業務処理の効率化・省力化」が目的です。以前の記事で、DXとIT化は異なると記載しました。
 「守りのDX」を推進する上で、「何を達成させるか」と言う点は、非常に重要と考えます。明確にせずに、ただ、ツールや情報システムを導入すると業務が効率化されて楽になり、従業員に歓迎されても、結局、会社としては何も変わらないということにもなりかねません。DX推進と称して、IT化を進めるということにならないようにすることが必要です。
 そのためには、「守りのDX」で達成させる目標を明確にする必要があります。目標指標として、「生産性」を活用することが考えられます。

生産性の定義

 (公財)日本生産性本部のホームページには、生産性は以下と記載されています。

「生産性とは、生産諸要素の有効利用の度合いである」(ヨーロッパ生産性本部)

 (公財)日本生産性本部のホームページ
 (公財)日本生産性本部のホームページを基に作成

 生産性の種類として、①物的生産性と②付加価値生産性の2分類と、各々に1)労働生産性(1人当たり)、2)労働生産性(1時間当たり)、3)資本生産性、4)全要素生産性の4種類があり、計8種の生産性が示されています。

(公財)日本生産性本部のホームページを基に作成

 生産性は、投入量に対して、どれだけの算出量があるかを示すものです。
 投入量を労働の視点からみた生産性が労働生産性になり、社員1人当たり、あるいは1時間当たりにどれだけの生産量・付加価値を生み出しているのかを示します。例えば、営業担当者が1人で販売する商品の利益(≒付加価値)が労働生産性になり、さらに多くの商品を1人で販売する、販売数は同じでも価格を高くして販売することで、労働生産性は高まるということです。

「守りのDX」と生産性

 「守りのDX」による達成目標として「生産性」を活用することが考えられると記載しました。例えば、「生産性○○%向上」や「生産性を○○円から○○円にする」ということを目標として設定します。目標が設定できれば、目標達成のために様々なデジタル技術活用案を導き出すことができます。 

 付加価値労働生産性は、以下となります。

付加価値労働生産性計算式

 計算式から生産性を向上させる3つの方法が考えられます。
①売上金額の増加
②外部支払金額の低減
③総労働時間の低減

 例えば、生産性を2倍にするという目標を設定した場合、半分の労働時間で同じ付加価値を得られれば、達成することができます。しかし、労働時間削減のみで達成できるのであればいいのですが、簡単にできるものではないと考えます。
 よって、付加価値を増やすための売上の拡大、外部支払の削減も同時に考え、複合的に生産性向上目標を達成するための取組内容を決めることが重要になります。
 また、計算式を以下のように分割することで、部門ごとの目標数値も決めやすくなり、DX推進を全社的活動にすることも可能になります。

付加価値労働生産性計算式の分割例

 各担当者は、働く時間を増やさずに結果を得ることを考えなければ、生産性は向上しません
 例えば、営業部門は、インターネットを活用による顧客接点拡大、移動時間を削減するためのオンライン会議の活用、製造部門は、手作業をロボットなどに置き換える自動化推進や不良品納品による手戻り作業削減のための自動検査システムの導入、購買部門は過去の購買情報を活用した価格交渉による材料費低減、電子商取引への移行、総務部門は捺印を前提とした社内決裁の仕組みの電子化などが考えられます。
 但し、ここに記載したことは、特に目新しいことでもなく従来のIT化でも行われていたことです。従来であれば導入して「効率化できた」「便利になった」ということで終わっていたものを、導入により達成させる効率化(削減時間、短縮時間)を明確にし、目標通りの生産性を達成させて、DXの目的である競争優位性の確立に結びつけることが重要と考えます。

生産性の目標設定

 「守りのDX」の推進目標を生産性の向上とする場合の重要なポイントは、生産性の目標をどのように設定するかです。
 根拠もなく、生産性〇倍などの目標設定をすると、簡単にできない場合、本気で考えず、努力目標のように捉えられることも考えられます。
 前年度の実績情報などから自社の生産性を算出し、業界平均や目指すべき企業の生産性を推定して、目標値にするなどが必要であり、社員全員が納得できる目標を設定する必要があると考えます。
 業界トップ企業以上の生産性を実現できるのであれば、競争優位性を確保できると考えられます。また、生産性向上だけで、競争優位性を確保できない場合であっても、生産性向上によって生み出された余力を活用した競争優位性確保のための取り組みを実施することができるようになります。

まとめ

●社内業務効率化や省力化実現のためのIT化も、目指すべき姿を明確にして取り組めば、立派なDX
●DXでの達成目標を明確にする。達成目標指標として、「生産性」を活用
●目標設定できれば、達成のためのデジタル技術活用案を導き出すことができる
●働く時間を増やさずに結果を得ることを考えなければ、生産性は向上しない
●社員全員が納得できる目標を設定する必要がある

 中小企業がDXに取り組む場合、「守りのDX」が取り組みやすいと考えます。中小企業の多くは、まだまだアナログ的業務が多く、抜本的なデジタル化は進んでいないと想定されます。IT機器販売会社などからデジタルツールや機器導入についての提案があり、検討する場合があると思われます。ツールや機器を導入すると何らかの成果は得られるが、競争優位性の確保には繋がらない可能性もあります。今回記載した生産性や業績への影響まで考えて導入することで、より成果を得ることができると考えます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?