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インタビューという交歓|マイク・ミルズ「C'MON C'MON」とミランダ・ジュライ「あなたを選んでくれるもの」

マイク・ミルズ監督、ホアキン・フェニックス主演の映画『C'MON C'MON』が素晴らしかった。全編モノクロームで描かれる4都市を移動する物語。親子の話ではなく伯父と甥の話、というよりもこれは大人と子供の心の通いを描いたとても優しいストーリーだった。雰囲気やテーマも含めて3年前にマイク・ミルズがディレクションしたTHE NATIONALの「I AM EASY TO FIND」の双子のような作品だなあとも感じる。音楽担当はそのTHE NATIONALデスナー兄弟で、流麗なスコアが流れるなか突如WIREの「STRANGE」(R.E.M.のカバーで知った曲だ)が切り込んで響いたのが非常にクールだった。

この映画を観終わったあと、積ん読の山に紛れていたミランダ・ジュライの『あなたを選んでくれるもの』を手にとった。ミランダ・ジュライはマイク・ミルズのパートナーで、二人の間に生まれた子供との会話がきっかけで『C'MON C'MON』の発想を得たそうだが、映画のなかでホアキン演じるラジオジャーナリストが子供たちにインタビューするのに対して、ミランダ・ジュライの書籍のなかでは彼女がインタビュイーに選んだのは「フリーペーパーに売買広告を出す市井の人々」だった。これが読み始めると面白くてしかたない。彼らが売りに出すものは、革ジャン、おたまじゃくし、ベンガル猫の仔、見ず知らずの家族のアルバムなど。そのほとんどがパソコンを所有していない、ということも示唆的というかなんというか。さらには彼らのなかには性転換中の者、インドの同胞を支援する人、ギリシャからの移民、ドロップアウトした高校生男子、足首にGPSを付けられた罪を償っている途中の者などなど、アメリカの片隅で、ひとりひとりがそれぞれ違う、人生にまつわる強烈な物語がインタビューから浮かび上がる。

映画『C'MON C'MON』を観た友人と「子どもってこんなにしっかりしたこと話すかな?」とか「自分が子どもの頃にインタビューされたとしてあんなふうに想いを語れるだろうか」という議論をしたけれど、観劇からしばらく経った今になって思うのは(そしてミランダ・ジュライの本を読んで感じることは)大人も子どもも誰も彼も他者に聞いてほしいメッセージがある、ということで、会話の尊さを再確認させてくれたという意味で『C'MON C'MON』と『あなたを選んでくれるもの』は我々の意識を更新させる意義深い作品だ。とても胸を打たれた。


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