見出し画像

『にっぽんGメン 第二話 難船﨑の血鬪』(1949年1月3日・東横京都・松田定次)

忙中閑あり。久しぶりの娯楽映画研究所シアターは、昭和24年の東横京都『にっぽんGメン 第二話 難船﨑の血鬪』。脚本・比佐芳武、監督・松田定次の和製ギャング映画海洋篇。やー、面白い。敗戦後、GHQの意向による「チャンバラ禁止令」で、戦前からの剣戟スタアの活躍の場が縮小された。

ポスター

ならばと生まれたのが、本作の脚本・監督コンビによる片岡千恵蔵の「名探偵・多羅尾伴内」シリーズ。カストリ雑誌の猟奇、怪奇、探偵小説ブームを受けての企画だが、御大が演じると仰々しく、時代劇ヒーローで培ってきた「旦那芸」となり、デカタンスというよりは荒唐無稽の馬鹿馬鹿しい世界へ。

同時に、大映や東横、松竹では「チャンバラがNGならギャング映画で」ということで、こうした剣戟スタアや、戦前からの二枚目スタアによる「和製ギャング映画」を量産。なんたって、大見得を切ることが格好良さに直結していた片岡千恵蔵、市川右太衛門の両御大の仰々しさが、不思議な重厚感を出して、和製ギャングワンダーランドを創出。この時代の「なんでもあり」が、後年の日活アクションや東映アクションの下地となっていくわけで。

で、前作『にっぽんGメン』は、昭和23(1948)年は、警察タイアップ、当局の意向もあって、警視庁捜査一課の敏腕刑事・片岡千恵蔵たちが、自動車窃盗団を一網打尽にするという、のちの「警視庁物語」に始まる東映刑事映画、ドラマのルーツ的作品だった。

で、翌年に作られた「第二話」は、神戸を舞台に、国際密輸団の陰謀を打ち砕く、海上保安庁の敏腕捜査官・重藤亘(市川右太衛門)と本庁の坪内警部(徳大寺伸)たちの活躍を描くという「海上保安官」もの。なんたって市川右太衛門さんのヒーローだから、品行方正、モラリストで、物分かりはいいが、少々堅物というキャラクター。警務課長に原健作、戸上城太郎も顔を見せているので、いろいろルーツ感がある。

敵対する密輸団のボスは最初は明かされず、その配下たちの「濃いキャラクター」が実に魅力的。まずは、悪の巣窟のキャバレーの用心棒で、年中飲んだくれている、きすぐれの弥太(月形龍之介)。その悪辣さ、ドスの効いた声、芝居、佇まいを観ているだけでも楽しい。

「きすぐれ」というのは、キス(酒)におぼれて、身を持ち崩す。酩酊者の意味。なのでいつもフラフラしているけど、いざという時は腕力も強く、まるで「酔拳」のお師匠さんみたい!

月形龍之介!

前半に登場するブローカー、海坊主の仙三(進藤英太郎)が、きすぐれの弥太と絡むシーンがおかしい。アノネのオッサンみたいなメイクで進藤英太郎のこのワルノリぶりは、のちの片岡千恵蔵の無国籍映画「アマゾン無宿」シリーズのルーツというか、メイクも含めて、良い意味での悪趣味ぶりが楽しい。

で、悪の巣窟のキャバレーでは二葉あき子や菊池章子がシンガーとして登場。それもアトラクションなのだけど、最初、海上で浮遊しているところを海上保安庁に保護された中川マリ(市川春代)は最初は東京で組織のボスに拉致されてきた悲劇のヒロインとして登場。しかし彼女がファムファタール=犯罪的美女で、というお決まりの展開。

しかもキャバレーに潜入している市川右太衛門の妹・かおる(朝雲照代)にご執心のキザな実業家の坊っちゃん・都築滋弥(大友柳太朗)の正体は? という二転三転の展開もオールスター時代劇のよう!

市川右太衛門、月形龍之介、大友柳太朗と役者が揃ったところで、中盤になっていよいよ、我らが片岡千恵蔵御大の登場。キャバレーの地下の、悪党御用達のバーで飲んだくれている、流れ者・りゃんこの政吉(片岡千恵蔵)である。誰がどうみても、多羅尾伴内の変装みたいな、江戸前(本人は北海道から流れてきたと申告)のギャングをたっぷり見せてくれる。

片岡千恵蔵御大!

二丁拳銃は当たり前、足を上げて股から打ったり、背中に拳銃を回しての曲射ちは、御大が巨漢なのでもっさりしているが、観客には「華麗」に見えてしまう。
前作に続いて加東大介も出演。今回は、ギャングの手下を憎々しげに演じている。日守新一は、小心者のバーテンで、これまた良い味を出している。

90分のうち60分は、キャバレーとその地下のバーでの芝居だけど、とにかくスタアの芝居は、アップにつぐアップで、しかも均等に出番があるので飽きさせない。
で、いよいよクライマックス、いろいろ絶対絶命のピンチのなか、追い詰められた千恵蔵御大が、いよいよ正体を明らかにしてからは、これぞ東映ヒーロー映画!の楽しさ。サービス精神に溢れた、和製ギャング映画の楽しさが詰まったオールスタア映画。娯楽映画はこれでいい、のです!

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。