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娯楽映画研究所ダイアリー 2021年12月27日(月)〜2022年1月2日(日)

12月27日(月)『悪魔の手毬唄』(1961年・ニュー東映・渡辺邦男)

今宵の娯楽映画研究所シアターは、高倉健さんas金田一耕助『悪魔の手毬唄』(1961年・ニュー東映・渡辺邦男)を興味深く拝見。僕は1977年版がベスト・オブ・金田一映画なので、千恵蔵御大→健さんにバトンタッチされた”ダンディ金田一”による『悪魔の手毬唄』は色々仰天しながらも、そうだろうなぁと納得。青池一家はすでに亡くなっっている世界なので、亀の湯の女将・リカさんも出てこない(笑)削ぎ落とすだけ削ぎ落としたプロットに吃驚!

ダンディな健さんの金田一耕助

 スーパー探偵・金田一と、その助手を勤めることになる大学生・小野透さん。そしてその恋人にして、青池里子(77年版では永島瑛子さん)ならぬ二礼里子(志村妙子)がヒロイン。事件の鍵を握ると思われる(がそうでもなかった)放庵(77年版では中村伸郎)を花沢徳衛さん。全然違うキャラだけど、亀の湯の温泉入浴シーンあり(笑)なので亀の湯は、青池家が経営するでもない単なる温泉旅館(笑)

 磯川警部には神田隆さん。岡山県警の刑事に関山耕司さん、里子の許婚者でエゴイストの栗林に山本麟一さん。なので「警視庁物語」的な雰囲気も(笑)

 青池一家を死に至らしめた悪い奴・二礼剛造には、因島のシルクハットの親分こと永田靖さん。で事件の鍵を握る辰蔵(77年版では常田富士男さん)には、エノケン一座の中村是好さん。と俳優陣を眺めているのが何よりのご馳走。健さんの金田一耕助は、キレものでダンディ。まさにスーパー探偵。面白かったのは、第一の被害者・流行歌手の和泉須麿子(八代万智子!)の新曲がポップな「鬼首村手毬唄」であること!

 脚本は結束信二さんと渡辺邦男監督。横溝正史原作は何処へ?のトリック軽めの「多羅尾伴内」的な探偵スリラー!最大の収穫は、志村妙子=太地貴和子さんの若き日の姿がタップリと拝めることでありました!

志村妙子(太地貴和子)さんと小野透さん

 高倉健版『悪魔の手毬唄』(1961年)で、おいと婆さん役はデータベースでは五月藤江さんということになっていたが、映画を観ると花岡菊子さんが演じていた。当初は五月さんの予定だったんだろうなぁ。だとすれば、もっと怖い(笑)

 ともあれ百聞は一見にしかず。観てみないとわからない。映画のデータも当時の撮影所宣伝部の資料をもとにしているので、キャスト違いがままありますからなぁ。気をつけないと・・・

12月28日(火)『ドント・ルック・アップ』(2021年・Netflix・アダム・マッケイ)

 アダム・マッケイ監督『ドント・ルック・アップ』。半年後。地球に激突する彗星。大学教授・デカプリオと、大学院生・ジェニファー・ローレンスが警告を発するが、大統領・メリル・ストリープは、次期選挙を前にスキャンダルの火消しで忙しく、まじめに受け止めない。ホワイトハウスがまったく機能せず、誰もが大したことないと… しかし、その時は刻一刻とせまる。観ながら「コロナはただの風邪」を思い出した。いまのアメリカの政治、メディア、大衆をカリカチュアしたアダム・マッケイのコメディ・センスは抜群!ホームシアターでも楽しめたが、スケールもデカく、大スクリーンで観たい作品。ジェニファー・ローレンス、レオナルド・デカプリオ、メリル・ストリープ、ケイト・ブランシェット、オールスター・ブラック・ディザスター・コメディ!マーク・ライランズのインチキ臭さ! アリアナ・グランデが熱唱! ノンクレジットで、クリス・エヴァンスも登場!

12月29日(水)『愛すべき夫妻の秘密』(2021年・Amazon・アーロン・ソーキン)

 Amazonプライムビデオで、アーロン・ソーキン監督『愛すべき夫妻の秘密』(2021年)を堪能した。原題はBeing the Ricardos。1951年から1957年にかけて放送されたシットコム「アイ・ラブ・ルーシー」放送中のとある月曜のリハーサルから金曜にかけて数日間の物語。ハリウッド女優・ルシル・ボール(ニコール・キッドマン)と、キューバ出身のバンドリーダー、デジ・アーナズ(ハビエル・バルデム)夫妻が立ち上げた「デジル」プロダクションの「テレビへの挑戦」もしっかりと描かれているテレビ草創期のバックステージもの。

「アイ・ラブ・ルーシー」は全米で高視聴率を記録して第二シーズン、全てが順風満帆に見えたが、ブラウン管でのルーシーの夫リッキー(デジ)とは正反対、デジはほとんど家に帰ってこない。ゴシップ雑誌にデジの浮気疑惑が大々的に報道されて、ルシル・ボールは心中穏やかではない。

 同時に、かつてルシル・ボールが共産党員だったのでは?という疑惑が持ち上がり非米活動委員会に呼ばれたばかり。その疑惑は委員会では晴れるのだが、ラジオの人気番組でそのゴシップが話題となり、夫妻は最大のピンチを迎える。

 「アイ・ラブ・ルーシー」の舞台裏を描きながら、回想シーンで、デジとルシルの出会いからこれまでの日々がインサートされる。これが映画ファンにはたまらない。1940年、RKOのソング・アンド・ガールだったルシルは『女学生の恋 Too Many Girls』(1940年)の現場で、キューバ人の色男・デジと出会う。この撮影所のシーンで、ちゃんとアン・ミラー!(役の女の子)がタップを踏みながらクルクルと回っている。

 家庭に恵まれなかったルシルは、デジとの「マイホーム」を夢見るがすれ違いの日々。そしてやっと掴んだ『ビッグ・ストリート/愛しき女への挽歌』(1942年)での成功から一転、RKOをクビになりMGMで赤毛に転身してのブレイク・・・などなどの史実が、ちらりチラリと描かれるのが嬉しい。

 「デシル」プロダクションは、いろんな意味でテレビ制作の革命をもたらしたのだが、そのことにも触れている。デジ・アーナズは、年下の髪結の亭主ではなく、妻が最高のコメディエンヌとしてトップスターでいられるように、あらゆる交渉ごとを行った有能なプロデューサーだったことも描かれている。

 というわけで『シカゴ7裁判』のアーロン・ソーキン監督の丁寧な演出で「アイ・ラブ・ルーシー」と1952年のアメリカをめぐる状況が生々しく描写されていく。ルーシーの友人であるマーツ夫妻を演じたヴィヴィアン・ヴァンス(ニーナ・アリアンダ)とウィリアム・フローリー(J・K・シモンズ)の脇役俳優としての苦悩。ショーランナーでありメイン作家のジェス・オッペンハイマー(トニー・ヘイル)とルシルの確執。そして女性脚本家・マデリン・ピュー(アリア・ショウカット)が男性社会で奮闘する姿・・・などなど、番組関係者のドラマも濃密である。

 そしてクライマックス、ルシル・ボールの疑惑を晴らすために夫・デジが取った行動とは? いや、これが素晴らしい。サンチャゴ市長の息子だけにデジは、大立者を見事に使いこなす!

 第二シーズンで、ルシル・ボールが懐妊して、番組の中でルーシーとリッキーの息子・リトル・リッキーが誕生する。今では伝説となったエピソードだが、当時のテレビではpregnantはアンモラルということでNGワードだったのだ。それを突破していくデジのプロデューサーとしての活躍もかっこいい。

 この映画、とにかく二人への愛に溢れている。それもそのはず、プロデューサーとして、デジ・アーナズ・ジュニアと、姉・ルーシー・アーナズがクレジットされている。ハリウッド・スキャンダルを描きながらも両親へのリスペクトに溢れている。それがこの映画の体温を高めている。

 なんたって「デシル」プロダクションは、引き受け手がなかった「宇宙大作戦」を制作して大成功に導いたんだから!ルシル・ボールは偉大なり!
しかしニコール・キッドマン。グレイス・ケリーからルシル・ボールまで、なんにでもなっちゃうのがすごいなぁ。

12月30日(木)『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』(2021年・トッド・ヘインズ)・『日本沈没』4K版(1973年12月29日・東宝・森谷司郎)

 瀬川昌久先生には本当にお世話になりました。30年近く前、ぼくが作った私家版「ザッツ・ニッポン・エンタテインメント」ビデオが、回り回ってお手元に。興奮気味に電話で「日本版を作るならあなたしかいない」と嬉しいお言葉を頂きました。今も続けているイベントの原点です。

 2003年の「エノケン生誕100年」の準備を始めたのは、1990年代後半。瀬川先生との打ち合わせはいつも楽しく、弟さんの瀬川昌治監督にもお世話になっていたこともあり、親しくお付き合いをさせて頂きました。夜、遅く電話を頂戴して、映画や音楽、ジャズマンの話をたくさん伺いました。

 CD「唄うエノケン大全集 甦る戦前録音篇」(ユニバーサル)を企画したときは、我が事のように喜んでくださり、ライナーノーツに寄稿をして頂きました。さまざまなイベントでのトーク、企画へのお声がけもしてくださり、遅れてきた世代の僕らを本当に可愛がってくださいました。思い出は尽きません。瀬川昌久先生、本当にありがとうございます。

ご冥福をお祈りします。

2021年2月22日世田谷パブリックシアター「HIBARI 7DAYS」。瀬川昌久先生、雪村いづみさんと



『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』(2021年・トッド・ヘインズ)
は、力強く、繊細で素晴らしい作品でした。巨大企業デュポン社の「テフロン加工」による想像を絶する人体汚染。その隠蔽を暴いていく、マーク・ラファロ演じる弁護士の闘いに心揺さぶられる。妻役のアン・ハサウェイが実に良かった。


 今宵の娯楽映画研究所シアターは『日本沈没』4K版(1973年12月29日・東宝・森谷司郎)をスクリーン投影。連日、テレビ版を観ていると、この映画版は全く違うベクトルの作品であることを実感。橋本忍脚本は、絵空事ではなく「今、そこにある危機」としての日本列島の異変がもたらす「暗澹たる未来」について無駄なくというか、凝縮している。

 森谷司郎監督は、小林桂樹さんの田所博士のキャラを、自作『首』(1968年)の正木ひろし弁護士の延長で描いている。桂樹さんの鬼気迫る演技は『首』(1968年)を思い出させる。しかしとてつもない映画を作ったもんだなぁと、しみじみ。特撮スペクタクルとして、もっと観たい気持ちがあるが、それをテレビ版が補ってくれる。

 丹波哲郎さんの山本総理は圧倒的で、映画におけるベストパフォーマンスだろう。島田正吾さんの渡老人の作り込みも、この時代のイメージする「日本の政治を裏で操る黒幕」だろう。ラスト近くの丹波哲郎さん、角ゆり子さんとのシーンは、絶望のなかの希望を感じさせる名場面。しかし角ゆり子さん、いいねぇ。

 で、見終わってからテレビ「日本沈没」第20話「沈みゆく北海道」(1975年2月16日・脚本:長坂秀佳・監督:金谷稔)を連続視聴。北海道渡島半島沈没後、小野寺は壊滅の危機迫る札幌へ。前半の雪まつりの石像に拘る草薙幸二郎さんはどうかと思うが、戦争で何もかも失ってしまった男という設定は、後半の脱出劇の伏線にもなっている。最後の住民たちをトラックに乗せたところで、まだ30人ほどの避難者がいることを伝えられた自衛隊の隊長が、その無線を聞かなかったことにして逃げ出そうとする。そのエゴイズムを小野寺が糾弾。この隊長と戦時中の日本をダブらせるという狙い。そして加茂さくらさんのトラック姐さんが大活躍して30名を救出するスペクタクルは「恐怖の報酬」みたいで面白い。

第21話「火柱に散る、伊豆大島」(1975年2月23日・脚本:長坂秀佳・監督:金谷稔)は、三原山が大噴火して大島が砕け散るという恐ろしい回。前半、吉田義夫さん一家が、夜中に陥没。気がついたら家が地中に沈み込んでいて、屋根をぶち破って、孫・山添三千代ちゃん、その兄、母と共に脱出するシークエンスはかなりの緊迫感。後半、愛犬を助けるべく一人で山に戻る山添三千代ちゃんを助けるべく決死の行動をする小野寺。毎回、毎回、大変だなぁ。今回から玲子は、看護師として被災者をサポート。最初の頃から随分とキャラが変わってきましたなぁ。

 というわけで2021年12月30日。なんだかんだと「日本沈没」三昧でありました。

12月31日(金)『忠臣蔵 櫻花の巻・菊花の巻』(1959年・東映・松田定次)

 本年、ラストの娯楽映画研究所シアターは『忠臣蔵 櫻花の巻・菊花の巻』(1959年・東映・松田定次)。片岡千恵蔵御大が大石内蔵助、中村錦之助さんが浅野内匠頭、市川右太衛門さんが脇坂淡路守。ゆったりした千恵蔵御大の溜めに溜めた芝居を味わう大忠臣蔵。美空ひばりさんがおたか役で吉良邸へ潜入、大活躍!さすがひばりちゃん!大川橋蔵さんの岡野金右衛門とのロマンスも!ああ、東映娯楽時代劇全盛時代の楽しさよ!

それではどなた様も、良い年をお迎えください!

1月1日(土)『レッド・ノーティス』(2021年・ローソン・マーシャル・サーバー)・『高度7000米 恐怖の四時間』(1959年・東映・小林恒夫)

新年あけましておめでとうございます。

2022年「佐藤利明の娯楽映画研究所」note・YouTubeに続いてオンデマンド出版始めます!

1月20日「番匠義彰 映画大全 娯楽映画のマエストロ」(Amazon Kindleペーパーバック)刊行予定です

2月20日からのラピュタ阿佐ヶ谷「番匠義彰:娯楽映画のマエストロ」共々宜しくお願いします。

お屠蘇気分での娯楽映画研究所シアターは、ドゥエイン・ジョンソン、ライアン・レイノルズ、ガル・ガドットの三大スターによる泥棒コメディ『レッド・ノーティス』(2021年・ローソン・マーシャル・サーバー)。

ローマ→ロシア→バレンシア→アマゾンを舞台に、詐欺師・レイノルズ、FBI捜査官・ジョンソン、美術品泥棒・ガドットが、クレオパトラの秘宝をめぐって、出し抜きあいの争奪戦を展開。ザ・ロック様の筋肉アクションと、ライアン・レイノルズのコメディ演技で、二人が相棒になっていく展開は、ビング・クロスビーとボブ・ホープの「珍道中シリーズ」のようなノリ。レイノルズによる映画トリビアが、ちょいちょい挟まれて、それが楽しい。

 貨物列車で逃走するときに「『サリバンの旅』観てる?」とか、闘牛の牛に追いかけられたとき、レイノルズが「ディヴィッド・アッテンボロー」のドキュメンタリーで牛の習性をしった話をするも、ジョンソンは「ジュラシック・パークの?」と、アッテンボローの勘違いをする。

 で、最初はプロフェッショナルのクライムアクションかと思っていたら、だんだん「珍道中シリーズ」みたいになってきて^_^ガドットは、良い意味で「ワンダーウーマン」的なスーパー・レディで、峰不二子的なキャラ。これまた「珍道中シリーズ」のドロシー・ラムーアのポジションで。

 白眉は、中盤、世界的武器商人・ソット・ボーチェ(クリス・ディアマントポロス)の屋敷からお宝を奪うシーン。パーティーで楽団が演奏して歌姫が歌うは、ピンク・マティーニの「アマド・ミオ」!!

 楽団は役者が演じているが、サウンドはピンク・マティーニの演奏。トーマスのピアノが冴え渡り、ゴージャスなサウンドが流れるなか、主演三人のお宝争奪が繰り広げられる。ここのシークエンスが最高!

 スケールの大きなアクション映画だけど「珍道中シリーズ」というのは、その昔、ダン・エイクロイドとチェビー・チェイスの『スパイ・ライク・アス』(1985年・ワーナー・ジョン・ランディス)があったなぁ、などと思いつつ、ワイン飲み飲み、観た側から忘れる娯楽映画を楽しんだ。

あと、エジプトの大富豪の結婚パーティーで、花嫁のためにサプライズゲストとして曲を披露するのがエド・シーラン。ご本人がカメオ出演というのも「珍道中シリーズ」でお馴染みのパターン。

 新春娯楽映画研究所シアター。続きましては高倉健さん主演の航空パニックアクション『高度7000米 恐怖の四時間』(1959年・東映・小林恒夫)をアマプラの東映ジャンク・フィルムで(このネーミング・どうかと思うけど)。いわゆる「スカイジャックもの」の航空アクションは、前年に石原裕次郎さんの『紅の翼』(1958年・日活・中平康)があるが、セスナ機を舞台にしていた。こちらは東京→仙台→千歳へと向かう旅客機。なので「エアポート」シリーズのようなスカイアクションとしては、おそらく本邦初なのでは? これがなかなか良くできている。

 健さんは北日本航空の優秀なパイロットで、第二次大戦の空の勇士。その助手・今井健二さんは、健さんの妹・丘さとみさんと婚約中。仙台経由で千歳へと向かう定期便に搭乗する。久保菜穂子さんのスチュワーデスは、健さんに恋をしているが、健さんは一年前に亡くなった妻を思ってストイックに生きている(もうこのパターン!)。

 で、乗客には、自動車のセールスウーマン・中原ひとみさん、その恋人でライバルの梅宮辰夫さん(喧嘩中)。新聞記者・加藤嘉さん夫妻、陣笠代議士・殿山泰司さん、老夫婦・左卜全さんと岡村文子さん、相撲取り・岸井明さん、外人夫婦・ハロルド・コンウェイさんとマリアンヌ・R・クリスプさんなどなどが乗っている。

 出発直前に乗り込んだ怪しい男・大村文武さんは、強殺事件の犯人で逃亡中。劇場版「月光仮面」が、なんとハイジャック犯人となる。乗客のさまざまなドラマを展開しながら、大村文武さんのギャングっぷりが炸裂。正義のパイロット健さんは、どんな対応をするのか? 舟橋和郎脚本は、のちの「スカイジャック」映画で展開される、あの手この手をすでに盛り込んでいて、その「先取り感覚」に感動する。

 で、最後の最後、犯人がぶっ放した拳銃で、計器が故障。飛行機の脚が出なくなり、胴体着陸を余儀なくされることに。健さんは戦時中に、一度だけ胴体着陸の経験があるが、大惨事は免れない。果たしてどうなのるか?

 75分に凝縮された緊迫のドラマ。1959年の風俗描写とともに、かなり楽しめる。われらがトニー谷さんがテレビ結婚式の司会者で、劇中のブラウン管登場するのが嬉しい。ほとんどセリフも、活躍もない、岸井明さんだが、仙台の空港で、ライスカレーの皿を抱えて掻き込む姿に、大食漢キャラ健在を感じて嬉しくなった。今井健二さんも、梅宮辰夫さんも初々しく、好青年をお行儀よく演じている!


1月2日(日)「新宝島」(虫プロ=フジテレビ・手塚治虫)・『駅馬車』(1939年・ジョン・フォード)・『續清水港(清水港代参夢道中)』(1940年7月10日・日活・マキノ正博)

 今から56年前の1月2日(日曜)。TBSテレビで「ウルトラQ」が始まりました。ぼくたちの人生を変えた特撮テレビ映画。今日は「ゴメスを倒せ!」(脚本・千束北男 監督・円谷一)を、夜7時から観るのです!

番宣ハガキをAIでカラー化しました。

 1965年1月3日(日曜)放映の「新宝島」(虫プロ=フジテレビ・手塚治虫)をアマプラで視聴中。同名漫画のアニメ化ではなくスチーブンソン「宝島」を動物キャラで漫画映画化。海賊シルバー=狼(加藤武)、ジム少年=ウサギ(田上和枝)、船長=熊(若山弦蔵)、トリローニ=豚(藤岡琢也)、ピュー=山猫(熊倉一雄)、ビリー・ボーンズ=山犬(加藤精三)と声優陣も豪華! この時代のアニメは、漫画映画という感じで良いねぇ。冨田勲先生の音楽、声優たちの芝居、アニメとしての動きもさることながら、音の演出が素晴らしい。なんとも懐かしい味わいなのです。

 新春娯楽映画研究所シアター第二夜は、年に一回は観たくなるジョン・フォード監督&ジョン・ウェインのマスターピース。映画の中の映画『駅馬車』(1939年)をスクリーン投影。

戦後リバイバル版ポスター

 アリゾナ州トント。町の風紀を乱すからと追放された娼婦・ダラス(クレア・トレヴァー)、アル中の医者・ブーン(トーマス・ミッチェル)、夫の騎兵大尉に会うためにバージニアから来た臨月の貴婦人・ルーシー(ルイーズ・ブラット)、酒のセールスマン・ピーコック(ドナルド・ミーク)が駅馬車に乗り合わせる。さらに賭博師・ハットフィールド(ジョン・キャラダイン)がルーシーの護衛を買って出る。御者・バック(アンディ・ディンバイン)と保安官・カーリー・ウイルコックス(ジョージ・バンクロフト)が御者台に乗り、運命の駅馬車が出発する。さらに、銀行家・ヘンリー(バートン・チャーチル)が町外れから駅馬車に乗り込む。

 ヘンリーは公金を横領してローズバーグへ逃げる心算だった。アパッチ族のジェロニモが襲撃してくる可能性があるなか駅馬車は、騎兵隊の護衛で前進するが、途中、脱獄犯・リンゴ・キッド(ジョン・ウェイン)が、ローズバーグで父と兄弟の敵討ちをすべく乗り込んでくる・・・。それぞれの思惑が錯綜するなか駅馬車は、アパッチウェルズへ。しかしすでに騎兵隊は引き払った後だった・・・。

 最初から最後まで、西部劇、娯楽映画のあの手この手がぎっしり。飲んだくれ医者のトーマス・ミッチェルが、小心者のドナルド・ミークのカバンのサンプルの酒瓶を盗み飲みするおかしさ。娼婦のクレア・トレヴァーへの、貴婦人・ルイーズ・ブラットたちの差別的な視線。独善的な銀行家・バートン・チャーチルの声高で不遜な態度・・・。

 そのなかで、ジョン・ウェインだけがクレア・トレヴァーを淑女として扱う。そのフェミニズム。西部の男は、強いだけじゃなくて、優しいのである。

 ジョン・ウェインの登場シーンは、いつみても痺れる。ライフルをクルクルと回しての決めポーズ。ああ、カッコいい! ミューメキシコのドライフォークで産気づくルイーズ・ブラット。酔っ払いのトーマス・ミッチェルがブラック・コーヒーを飲んでシャンとして、見事に赤ちゃんを取り上げる。その世話を甲斐甲斐しくするクレア・トレヴァー。この辺りのドラマは、その後、世界中の娯楽映画で繰り返しリフレインされる。

 で、いよいよアパッチ族の襲撃となる。まもなく、目的地ローズバーグに到着と安心したところで、ドナルド・ミークの胸に矢がグサリ。このショック演出! 子供の頃テレビで観ていて、ものすごく怖かった。そこからの駅馬車VSアパッチ族のアクション! リンゴ・キッドが全力疾走している馬の背を飛び移るシーンは、スタントマン・ヤキマ・カヌートが演じている。

 ユタ州のモニュメント・バレーでロケーションを敢行。西部劇でお馴染みのこの風景は、ジョン・フォード映画には欠かせないものとなる。96分の中に、あらゆる面白さが凝縮されて、鮮やかなラストまで、何度観てもワクワクする。


ジョン・フォードに続いて、マキノ正博監督&片岡千恵蔵御大の傑作『續清水港(清水港代参夢道中)』(1940年7月10日・日活)をアマプラで。

これはアイデアの勝利! 舞台演出家の石田(片岡千恵蔵)は「森の石松」のリハーサルを続けていたが、初日直前になってもまとまらない。書き直しを命じようとしても作家はどこかへ行ってしまってどうにもならない。秘書(轟夕起子)に八つ当たりして大喧嘩。この現代パートが楽しい。照明係に広沢虎造さん、劇場支配人に志村喬さん。舞台の森の石松に澤村国太郎さん、子役にこれがデビューの澤村アキヲくん!(長門裕之)。

 で劇場の事務所で眠りについた石田が目覚めると、なんと清水港の次郎長一家にタイムスリップ! 自分が森の石松になっていることに驚き、さらに次郎長親分(小川隆)からは「金毘羅代参」を命ぜられる。それでは黒駒一家に襲われて都鳥吉兵衛(瀬川路三郎)に殺されてしまうので、運命を変えないといけない。そこで許嫁・おふみ(轟夕起子)を伴って、史実を曲げてしまおうとするが・・・

 広沢虎造さんの浪曲でお馴染みの物語を変えないと、自分の生命は危ないと悪戦苦闘する石松。三十石船で「次郎長一家」を題材にしている浪花節語り虎造と出会い「寿司食いねえ」のシーンがおかしい。金毘羅代参を無事済ませて一安心、これで小松村七五郎(志村喬)の家に行かなければ大丈夫と思っていると、わざわざ宿屋に七五郎がやってきて・・・

 本歌取りの面白さ、パロディの連続だけど、結局は「お馴染みの展開」となっていくクライマックス。さすがマキノ正博監督! これも娯楽映画のお手本のようなメタフィクションの面白さ。戦後改題上映された時のポジフィルムしか残っていないので、かなり画面はボケボケで音も聞き取りにくい。ぜひ、リストアして欲しい!


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。